スーダン 邦人退避へ 浜田防衛相 ジブチに自衛隊機派遣を命令

軍とその傘下にある準軍事組織が激しく衝突しているアフリカ北東部のスーダン。

国際空港が攻撃を受けるなど被害が拡大し、これまでに市民140人余りが死亡しています。

こうした中、浜田防衛大臣は20日、自衛隊に対し在留邦人の国外退避に向けて周辺国ジブチに自衛隊機を派遣し、待機するよう命じました。

スーダンではおととしのクーデターで実権を握った軍が、傘下にある準軍事組織と激しく衝突していて、松野官房長官は19日、スーダン国内にいるおよそ60人の在留邦人の国外退避に向けて、自衛隊機を派遣する準備を始めたことを明らかにしました。

これを受けて、浜田防衛大臣は20日午前、自衛隊に対し、自衛隊の拠点がある周辺国ジブチに航空自衛隊の輸送機を派遣し、待機するよう命じました。

自衛隊機は早ければ今週末にも出発する見通しです。

また、ジブチを拠点に海賊対処行動にあたっている部隊も、必要に応じて対応できるよう準備しているということです。
スーダン国内は国際空港がある首都ハルツームでも戦闘が続いていることから、政府内では、直ちに現地入りするのは困難だとして、ジブチに自衛隊機を待機させ、現地の情勢を見極めた上で移動手段やルートを判断することにしています。

黒い煙立ち上る航空機や破壊された機体 スーダンの国際空港

アフリカのスーダンの首都ハルツームにある国際空港の周辺は住宅や大学、それに病院などが密集しています。

今月17日に国際空港が撮影された衛星画像では、滑走路の近くに多くの航空機が駐機し、このうち2つの機体から黒い煙が立ち上るのが確認できます。
また18日に国際空港が撮影された衛星画像では、別の1つの機体が黒く焦げ破壊されているのが確認できます。

衝突が起きている都市や町 少なくとも10か所

OCHA=国連人道問題調整事務所が18日に公開した地図では、スーダンで衝突が起きている都市や町は、首都ハルツームや北部のメロウェなど少なくとも10か所にのぼっていて、このうち西部の5か所はダルフール地方に集中しています。

ダルフール地方は20年前に「ダルフール紛争」が起きた地域で、この紛争をきっかけに現在、軍と衝突しているRSFの前身「ジャンジャウィード」と呼ばれる民兵組織が作られました。

ダルフール以外では、首都ハルツームで重火器も使った戦闘が続き、国際空港が戦闘の被害を受けているほか、北部メロウェや中央部オベイドでも、空港や空軍基地に駐機されていた航空機などが被害を受けていることが、衛星画像などからわかります。
今月18日に撮影された衛星画像では、北部メロウェの空軍基地で、戦闘機とみられる機体が破壊されているほか、敷地内の建物から黒い煙が立ち上っているのが確認できます。

ロイター通信によりますとメロウェの空軍基地をめぐって、RSF側が「掌握した」と主張する動画を15日に公開したということです。

ただ、その後、スーダンのメディアがスーダン軍が取り戻したと伝えるなど情報が錯綜しており、現在、誰がこの基地を管理しているかははっきりしていません。
また、18日に中央部オベイドの空港を撮影した衛星画像でも、機体が破壊されている様子がうつっています。

国連によりますと、首都ハルツームにつながる橋はすべて閉鎖されている状態になっているほか、国内の主要な道路の一部も、この先、通行できるか不透明な状況だということです。

こうした不安定な状況から、国連による人道支援活動は多くの州で中断されており、支援物資の略奪も起きているということです。

国連や、現地で活動してきた国際的な支援団体は、一刻も早く停戦し、支援の再開へ協力するよう呼びかけています。

現地に住む日本人「銃声や爆発音が続きずっと家にこもる」

スーダンの首都、ハルツームに住む日本人の女性が日本時間の20日午後、SNSのメッセージでNHKの取材に応じ、現地の状況について語りました。

現在の状況についてこの女性は「激戦区とされる中心部から数キロ離れた地域に家族で住んでいますが、RSF=即応支援部隊に地域が支配されています。5日ほど前から銃声や爆発音、戦闘機の音が続いていて、ここ5日間はずっと外出もできず家にこもっている状態です。ストックしていた水や食料を使っていますが、これからどうなるかわからず、精神的にこたえます」と話しました。

また、市内中心部に住む友人たちと連絡を取り合っているということで「空港付近に住む友人は銃声や爆発音がひっきりなしに聞こえる上、電気も水もないと聞きました。その近くでは窓から銃弾が入ってきたり外に出ようとした人が撃たれたりといった大きな被害が出ているとも聞いています」と話しました。

さらに激しい戦闘によって犠牲者が出ていることについて「数日前から国内の緊張は高まっていたので何があってもおかしくないという認識はありましたが、まさかこのレベルでの非常事態が起こるとは正直想像していませんでした。民主化がさらに遠ざかることへの懸念や国内情勢が悪化することで、スーダンにいる一般の人たちが向き合う苦境のことを考えると、言葉も出ません」と語りました。

現地出張中の日本人 停電続き連絡時以外スマホの電源を切る

品川区にある国際NGO「難民を助ける会」の本部事務所ではスーダンの首都ハルツームに出張中の日本人の男性職員と毎日、連絡をとり続けています。

男性職員は当初、現地の事務所内で避難を続けていたということで、支援事業部長の久保田和美さんは聞き取った現地の様子について、「大使館からの連絡で安全のために屋内退避を続けてくださいと言われた時から停電が続いているようです。インターネットが切断されることはないようですが、発電機を使用して電気を確保しているため、1日2回の連絡時間を決めて、それ以外の時間は節電のためにスマートフォンの電源を切っている状態です」と説明しています。

また、やりとりの中で爆発音が聞こえたこともあったということで「現地では事務所の中にいても散発的に爆音が聞こえる状態のようです。また、この数日間、日本から電話で話していて、少し近く感じるような大きめの音が聞こえることもありました」と話しています。

男性は現在、事務所から別の場所に移動し、ほかの団体のメンバーと一緒に避難を続けているということです。

統合幕僚長 “370人態勢の任務部隊を編成”

自衛隊トップの吉田圭秀統合幕僚長は、20日の記者会見で、アフリカ・スーダンの在留邦人の国外退避に向けて370人態勢の任務部隊を編成し、先遣の調査チームとして5人を20日にも派遣することを明らかにしました。

それによりますと、任務部隊は航空自衛隊の航空支援集団司令官を指揮官に陸上と航空の自衛隊で編成され、国内で支援する隊員も含んでいるということです。

自衛隊機の派遣時期については、関係国の領空通過の許可など、必要な手続きが終わり次第、できるだけ速やかに出発したいとしています。

吉田統合幕僚長は現地の情勢について、「極めて厳しい状況にあり、流動的な状況なので、しっかりと情報収集し、情勢を見極めていきたい」と述べました。

また、陸路を使った輸送の可能性があるか問われたのに対し、「現時点ではどういうミッションになるか分からないが陸上輸送に必要な車両、装備もしっかりと調整して決めていきたい」と述べました。

松野官房長官「調整が整い次第 速やかに出発」

松野官房長官は午前の記者会見で「防衛省でC130輸送機やC2輸送機といった航空自衛隊の輸送機を念頭に置きつつ準備をしていて、調整が整い次第、速やかに出発する。引き続きG7=主要7か国をはじめとする主要各国と緊密に連携し、在留邦人の安全確保に全力で対応していく」と述べました。

また、現地にいる日本人およそ60人とは全員と連絡が取れていて、被害の情報には接していないと説明しました。

立民 泉代表「在留邦人の安全確保 政府に求める」

立憲民主党の泉代表は、党の会合で「在留邦人の安全確保とともに、オペレーションが万全なものになるよう、政府に求めていきたい」と述べました。

派遣する輸送機 3機で調整 今週末にも到着か

防衛省関係者によりますと、派遣する航空自衛隊の輸送機は3機で調整しているということです。

準備が整えば数日以内に国内の自衛隊基地を出発し、早ければ今週末にもジブチに到着する方向で調整を進めているということです。

実際の日本人などの輸送には別の命令必要

防衛省によりますと、今回出された命令は在留邦人の待避に備えて、自衛隊の輸送機をジブチに待機させるためのもので実際に日本人などの輸送を行う場合には、外務大臣と防衛大臣が予想される危険などを協議したうえで、改めて別の命令が出されるということです。

アフリカ東部のジブチに自衛隊の活動拠点

スーダンがあるアフリカ東部のジブチには、アフリカ沖で海賊対策などにあたっている自衛隊の活動拠点が置かれています。

拠点は2011年に開設され、海上自衛隊の哨戒機の部隊が交代で派遣されているほか、拠点の警備にあたる陸上自衛隊の部隊なども派遣されています。
拠点には隊員らが生活をする宿舎や、航空機の整備ができる設備もあり、過去にはアフリカに滞在する日本人の待避をめぐって活用されたことがあります。

このうち、2016年7月には、アフリカ東部の南スーダンで激しい戦闘が起きたことを受け、現地の日本大使館の職員4人を航空自衛隊の輸送機でジブチに輸送する際に拠点が使われました。

去年12月に改定された国家安全保障戦略では、「在外邦人などの保護に当たって、ジブチにある自衛隊の活動拠点を活用していく」と記されています。

スーダンに自衛隊は派遣できる?

外国で災害や紛争など不測の事態が起きた場合、自衛隊は、現地に滞在する日本人などを航空機や艦艇、車両を使って安全な場所へ輸送することができると自衛隊法で定められています。

この中では「予想される危険を避けるための方策が講じることができる」場合に、輸送を行うことができると明記されています。

在外邦人などの輸送をめぐる去年4月の閣議決定では「危険を避けるための方策」の具体例について、当事国や第三国によって飛行場の機能が維持されていたり、飛行場の内外で群衆が統制されたりしていることなどを挙げています。

スーダンでは、首都ハルツーム市内を中心に激しい戦闘が続き、市内にある国際空港が攻撃を受けるなど被害が拡大していて、自衛隊が空路や陸路でスーダンに入って日本人などを輸送するためには、危険を避けるための方策をとることができるのかが焦点になります。

防衛省の幹部は「いまの情勢では安全が担保されているわけではなく、戦闘が続いている現状では、自衛隊がスーダンに入るのは難しいのではないか」と話しています。

自衛隊の先遣の調査チーム 20日夜にジブチに向けて出発

防衛省関係者によりますと、自衛隊の先遣の調査チームは20日夜、ジブチに向けて日本を出発したということです。

各国 スーダンから退避試みる動き広がる

スーダンでは各国が自国民の退避を試みる動きが広がっています。

海外メディアによりますと、隣国のエジプト政府はスーダン軍との合同軍事演習のためにスーダンを訪れ準軍事組織に拘束されていた177人の軍の関係者らを軍用機で自国に退避させたということです。

また、ドイツの有力誌シュピーゲルは、ドイツも19日、スーダンにいる自国民およそ150人を退避させるため軍の輸送機3機の派遣を計画していたものの、現地で戦闘が続いているとの情報が入ったため、計画を見送ったと伝えています。

一方、アメリカ・ホワイトハウスのジャンピエール報道官は18日、「現時点で、政府による組織的な避難は期待できない」と述べ、激しい戦闘が続く中、自国民の救出を行うのは現状では難しいという見方を示しています。

なぜ衝突は起きたのか 経緯まとめ

スーダンでは、4年前(2019年)に独裁的な政権が崩壊したあと、民主化への模索が続いてきましたが、軍によるクーデターや主導権争いによって混乱が続いてきました。
独裁政権の崩壊を喜ぶ人々(2019年4月)
2019年4月、パンや燃料の値上げに抗議する市民のデモをきっかけに、軍がクーデターを起こして独裁的なバシール大統領を失脚させ、30年にわたる長期政権が崩壊しました。

同じ時期に北アフリカのアルジェリアでも反政府デモによって長期政権が崩壊したことから、2011年に中東各地に広がった民主化運動にちなんで「第2のアラブの春」とも呼ばれました。
軍トップのブルハン司令官
クーデターの後、暫定統治を続けていた軍は、民主化勢力と共同統治を行うことで合意し、軍のトップのブルハン氏が統治機構を率いながら経済学者のハムドク首相のもとで民政への移管を進めることになりました。

3年前(2020年)には、国内の複数の反政府勢力と和平協定が結ばれたほか、アメリカによるテロ支援国家の指定が解除されるなど、国際社会との関係改善も進み、ノーベル平和賞の候補者としてハムドク首相の名前があがるなど民主化への期待が高まりました。

しかし、軍と民主化勢力の対立が表面化し、おととし(2021)10月、軍が再びクーデターを起こして実権を握り、ブルハン氏をトップとする統治のもと抗議デモへの弾圧が続きました。
RSFの兵士
その後、国連などが仲介に入り、民政移管に向けての協議が進められてきましたが、この中で、軍の再編などを含む内容に強く反発したのが、今回軍と衝突している準軍事組織のRSF=即応支援部隊です。

RSFの前身は「ジャンジャウィード」と呼ばれる民兵組織で、2003年に勃発し、「世界最悪の人道危機」といわれおよそ30万人が死亡した西部のダルフール紛争が立ち上げのきっかけとなっています。

当時のバシール政権が反対派を弾圧するために全面的に支援して設立したとされ、その後、準軍事組織として軍の傘下に入りましたが、10万人が所属し、各地に基地を持つなど大きな影響力を持ち続けました。

RSFはブルハン氏に次ぐ統治機構のナンバー2になったダガロ司令官が指揮をとっていて、軍の再編をめぐってはブルハン氏との確執も取り沙汰されていました。

双方は、4月15日以降、首都ハルツーム市内や国際空港、そして北部の都市など各地で激しく衝突しているうえ、お互いに徹底抗戦の構えを崩しておらず、混乱がさらに広がることが懸念されています。

スーダンの医療現場 “危機的状況”

スーダンの医療現場は停電や医療物資の不足に直面し、深刻な事態に追い込まれています。

これまでの戦闘で首都ハルツームやその周辺にある59の病院のうち39の病院が、攻撃や停電などの影響で閉鎖に追い込まれているということです。

このうち、市内にある透析などを専門に行う国立病院は、戦闘によって断続的な停電が続いていることに加えて、医薬品なども不足していてギリギリの状況での治療が続いているということです。
この病院に勤めるヒシャム・ムハンマド医師はNHKの取材に対し「激しい戦闘によって医療スタッフが病院に通えず、医師が2人しかいない。医薬品も届かなくなり、治療が思うように行えず、危機的状況にある」と話し、一刻も早い停戦を訴えました。

国境なき医師団「患者は病院にすらたどり着けない状況」

スーダンで医療支援を行っている国際NGO「国境なき医師団」で現地で活動した経験のある萩原健さんは現地から最新の報告を受け緊迫した状況を語りました。

「国境なき医師団」は、首都ハルツームや西部のダルフール地域などスーダンの各地で医療支援を行っていて、現地の職員を含めたおよそ1200人のスタッフ全員の安全は確認できているといいます。

ただ、日本事務局が19日に受けた現地からの最新の報告によりますと、ダルフール地域のニヤラという都市では医師団の拠点施設が武装した男たちに襲撃されて車両や事務機器がすべて盗まれ、その地域で医療活動ができない状況に追い込まれているということです。

また、ダルフール地域のエル・ファシールという都市では医師団が支援する病院に子どもを含む民間人183人が銃撃戦に巻き込まれて搬送され、このうち25人が亡くなったとの報告も受けているということです。

深刻なけがを負った人も多く、ベッドが足りないため患者は病棟の廊下の床で治療を受けている状態だということです。

さらに首都ハルツームでも空爆や砲撃、銃撃などが行われて水や電気も止まっている地域があり、市民は家から出られない極度の緊張状態にあるということです。

萩原さんは「一般市民は移動できず、患者は病院にすらたどり着けない状況で、医療従事者も危険にさらされている。紛争当事者に対しては、国際人道法を尊重して医療従事者や患者に対する安全を確保してもらいたい」と訴えました。

その上で「この状況が長引けば長引くほど甚大な被害を及ぼすことになる。医療物資が底をつき、医療従事者も補充できなくなると我々が行ってきた栄養失調の対策などにまで影響してくる。とにかく、こうした緊張状態が早く終わることを強く願っています」と話していました。