大阪のIR整備計画 初めて認定 今後どうなる?カジノに懸念は

カジノを含むIR=統合型リゾート施設について、政府は14日、2029年の開業を目指すとした大阪府と大阪市の整備計画を認定しました。IRの整備計画が政府の認定を受けたのは初めてで施設などの整備が進められる見通しとなりました。

有識者による委員会 “認定の条件を満たしていると判断”

IRは、カジノのほか国際会議場やホテルなどを備えた統合型の大規模なリゾート施設で、政府は14日、IR推進本部の会合を開きました。

このなかで岸田総理大臣は、2029年の開業を目指すとした大阪府と大阪市の整備計画について「2025年の大阪・関西万博の開催後の関西圏の発展や、わが国の成長に寄与するとともに、日本の魅力を世界に発信する観光拠点となることが期待されている」と述べました。
会合では、観光庁が設置した有識者による委員会が大阪府と大阪市の整備計画について、事業者の財務の安定性や、地域経済への効果、ギャンブル依存症への対策などを審査した結果、認定の条件を満たしていると判断したことが報告され、了承されました。

これを受けて、斉藤国土交通大臣が整備計画を正式に認定しました。

IRの整備計画が政府の認定を受けたのは初めてで、施設などの整備が進められる見通しとなりました。

計画では、大阪湾の人工島「夢洲」に初期投資として1兆円余りを投じてカジノや国際会議場などを整備し、2029年の秋から冬ごろの開業を目指すとしています。

今後、内閣府の外局として設置された「カジノ管理委員会」がカジノ施設の運営などの審査を行い、免許の付与などが行われると国内で初めてとなるカジノ開業が決まります。

斉藤国交相「依存症防止対策 確実に実施されるよう連携」

斉藤国土交通大臣は「審査委員会でおよそ1年にわたる十分かつ丁寧な審査を行った。日本最大規模の国際会議場施設の整備が計画されている点や、経済波及効果などについて肯定的な評価が得られていることなどを踏まえて認定した。日本の魅力を世界に発信する観光拠点となることを期待している」と述べました。

そのうえで、斉藤大臣はカジノについてギャンブル依存症などへの不安の声が出ていることについて、「カジノについてはカジノ事業の免許などを受けることが必要でその際には十分な依存症防止対策が措置されるかが確認されることになっていてカジノ管理委員会で今後、検討されると思う。国土交通省としては大阪の計画に盛り込まれている依存症防止対策が確実に実施されるよう関係機関ともよく連携しつつ、今後の計画の実施状況を十分に確認していきたい」と述べました。

松野官房長官「観光立国推進へ重要な取り組み」

松野官房長官は閣議のあとの記者会見で、「IRは国内外から多くの観光客を呼び込むものとして、わが国が観光立国を推進する上で重要な取り組みであり、2025年の大阪・関西万博の開催後の発展に寄与することが期待されている」と述べました。

大阪のIR計画とは

大阪府と大阪市などがまとめたIRの計画では、大阪湾の「夢洲」にカジノのほか、国際会議場や展示場、ホテル、シアターなどを整備するとしています。

延べ床面積は、あわせて77万平方メートル。

運営する事業者は「大阪IR株式会社」で、アメリカのIR運営会社、「MGMリゾーツ・インターナショナル」の日本法人や「オリックス」のほか、地元企業など20社が出資しています。

初期投資額はおよそ1兆800億円で、年間の来場者は2000万人、IR全体の売り上げはおよそ5200億円を見込んでいます。

売り上げのおよそ8割をカジノが占める見通しです。

開業は当初の予定よりも4年遅い、2029年の秋から冬ごろとしています。
計画では、IRの建設で11万6000人、運営で9万3000人ほどの雇用が生まれるとしていて、運営に伴う経済への波及効果は年間1兆1000億円余りにのぼるとしています。

地元経済の低迷を避けたい大阪府と大阪市としては、成長の起爆剤としたい考えです。

カジノをめぐって懸念の声が上がっている「ギャンブル依存症」について、大阪府は去年11月に条例を施行し、対策を進める方針を掲げているほか、開業までに依存症の人や家族からの相談を受け付けたり、治療や社会復帰の支援を行ったりする拠点を整備するなどとしています。

また、大阪のIRは民間の資金で建設・運営されますが、会場となる「夢洲」で土壌汚染などの問題が明らかとなったことを受けて、所有者の大阪市が788億円をかけて対策を進めることになっていて、こうした公費負担に批判の声も上がっています。

有識者委員会の審査の内容は

大阪府と大阪市のIRの整備計画を認定されたことを受けて、観光庁は有識者による委員会が行った審査の内容を公表しました。

それによりますと、審査では「財務の安定性」「地域経済への効果」「施設の規模」「ギャンブル依存症対策」などあわせて25の項目があり、1000点を満点として大学教授や医師から選ばれた7人の審査員が採点を行いました。

その結果、採点の平均は657.9点でした。

600点以上を認定の条件だとしていたため、「認定しうる計画」だと評価したということです。

また、審査員からそれぞれの項目ごとに出された意見も公表されました。

このうち、「ギャンブル依存症への対策」の項目では、
▽若者への啓発・教育が構想されているが、早期発見・早期介入のための取り組みの記載があまりみられず、今後の具体化が必要だという意見や、
▽計画のなかでは海外のIR施設と比べて電子ゲーム型の機器が多く、それに特化した対策の具体的な検討が必要だという意見が出されました。

また、「地域との良好な関係の構築」の項目では、大阪府・大阪市による地域住民への対面での説明の場を設けるといった取り組みの計画が乏しいように見受けられるなどという意見もありました。

こうした意見を踏まえ、政府は14日、IRの整備計画を認定した一方で、
▽実効性のある依存症防止対策を行い、定期的に検証することや、
▽地域との対話の場を設け、良好な関係構築に継続的に努めること、
それに、
▽予定地で懸念されている、災害時の液状化への対策などが不十分なものとならないよう検討することなどを求めています。

IR整備法とは 今後の流れは?

カジノを含むIR=統合型リゾート施設の整備法は2018年に成立しました。

IR整備法では、事業者の運営を監視するため、免許制の導入や、ギャンブル依存症の対策としてカジノ施設への入場回数に制限を設けることなどが盛り込まれました。

IRの整備をめぐっては地元への経済効果やインバウンド需要の拡大などを期待する声が多く誘致を目指す動きが相次ぎました。

ただ、横浜市ではIR誘致に反対を訴えた市長が当選して計画を撤回したほか、和歌山県では整備計画を国に申請するための議案を議会が否決するなどの動きも出ました。

その結果、去年4月に大阪府と大阪市、それに長崎県の整備計画が国に申請され、有識者による委員会で内容の審査を続けてきました。

大阪府と大阪市の整備計画の認定を受けて、内閣府の外局として設置された「カジノ管理委員会」がカジノ施設の運営などに関して財務の状況や暴力団とのつながりがないかなどを審査した上で、免許を付与します。

そしてカジノ施設が完成したあと、機器などの検査が行われた後、IRが開業することになります。

「カジノ管理委員会」は、カジノ施設の運営の監視を行う役割を担っていて立ち入り検査を行い違反が見つかれば、免許を取り消すことができます。

大阪府 吉村知事「実現に向け、大きな一歩を踏み出した」

大阪府の吉村知事はコメントを出し、「厳正な審査を経て、日本で初めてIRを整備していくエリアとして国に認められたものであり、いよいよその実現に向け、大きな一歩を踏み出したものと認識している」などとしています。

そのうえで、「夢洲を、万博開催の弾みに続いてIRの実現を契機とし、ベイエリアの新たなにぎわいの拠点という有効な資産につくり変えていく。今後、ポストコロナにおける大阪の再生・成長を確かなものとするため、圧倒的な魅力を備えた世界最高水準の成長型IRを実現し、府市一体で、大阪・関西の持続的な成長につなげていく」としています。

大阪市 横山市長「待ちに待った認可」

大阪市の横山市長は記者団に対し、「大阪としては、待ちに待った認可だ。夢洲が万博やIRを通して大きく発展していくことは、大阪の転換点になる。明るい大阪を描けるような方向性を作っていきたい」と述べました。

そのうえで、「依存症対策については、専門的な知見を持つ組織が対策にあたるとともに、カジノをしっかりとしたルールで運営することで対応したい。心配している住民には丁寧に説明していきたい」と述べました。

府と市でつくるIR推進局推進課 開業時期「精査が必要」

大阪府と大阪市でつくるIR推進局推進課の長野康宏課長は、開業時期については、認定が当初の想定より半年程度、遅れたため、「精査が必要だ」と話しました。

関西の経済界は期待

関西の経済界からは観光客の増加や地元での雇用の創出などへの期待が出ています。

関経連=関西経済連合会の松本正義会長は「夢洲が観光、ビジネスなどの魅力ある拠点として発展し、関西および日本観光のゲートウエーとなることを期待している。また、地元の雇用創出効果や観光ルート開拓などにより、関西広域に経済効果が波及していくことを望んでいる」とするコメントを発表しました。

大阪商工会議所の鳥井信吾会頭は「着実な計画推進により『世界最高水準の成長型IR』を実現し、大阪の国際競争力強化と持続的成長につなげてほしい。文化や食など大阪の魅力の発信強化や、地元への経済波及効果の向上に向けて協力してまいりたい」とコメントしました。

関西経済同友会の角元敬治代表幹事は、「IRの実現により西日本や全国への周遊が促進され、大阪・関西との関係人口が増加していくことを期待する。大阪・関西万博の開催実績をいかし、国際会議や展示会などの『MICE』の誘致・創出、そして継続的な開催が重要だ。IRをトリガーとして発展を遂げる夢洲をはじめ、関西全体の都市競争力の向上と国内外への情報発信に取り組んでいく」としています。

運営事業者の中核株主オリックス「経済成長と発展に貢献したい」

大阪のIRの運営事業者である「大阪IR株式会社」は、オリックスと、アメリカのIR運営会社「MGMリゾーツ・インターナショナル」の日本法人が中核株主となっているほか、地元企業など20社から出資を受けています。

このうち、オリックスが14日午後、コメントを発表しました。

この中では、「『オリックス』と『MGM』は、本事業を通して、大阪・関西地域、ひいては国の観光および経済の持続的成長と発展に貢献していきたいと考えています。『MGM』とのパートナーシップのもと、官民連携し事業実現に向け推進してまいります」とコメントしています。

今後、運営事業者と大阪府、大阪市の3者が開業までのスケジュールなど詳細な運営計画を話し合った上で、実施協定を結ぶことにしています。

大阪のカジノスクールでは

大阪市内にあるカジノのディーラーを養成するスクールでは期待の声が聞かれました。

大阪・中央区にある「日本カジノスクール大阪校」では、3か月から1年ほどかけてチップの計算方法やルーレットの回し方など、ディーラーとしての技能や客をもてなす作法などを学べます。

このスクールには現在、大学生や主婦などおよそ15人が通っているということです。

カジノを含むIR=統合型リゾート施設の整備計画が認定されたことについて、スクールに通う大学3年生の男子学生は「ディーラーとして働く機会が得られることと、客としての期待と、二重の喜びがあります。今後は海外のカジノで働き、大阪でカジノが開業したらディーラーとして実力を発揮できるように準備したいです」と話していました。

スクールの大岩根成悦校長は「カジノができれば国内でもディーラーという職業が生まれることになるので期待しています。ホスピタリティーあふれるディーラーを育成することで、世界から愛されるカジノにできるよう貢献したいです」と話していました。

反対の市民団体「断固抗議の意志 問題が一切解決しておらず」

計画を認定しないよう国に求める署名活動などを行ってきた市民団体「カジノに反対する大阪連絡会」は、「大阪を破滅させるカジノ計画の認定に対して断固抗議の意志を表明します。ギャンブル依存症の増加による社会的損失が検証されていないなど問題点が一切解決しておらず、計画の中止が実現するまで粘り強くたたかうことを改めて表明します」などとするコメントを発表しました。

カジノの位置づけ ギャンブル依存症対策は

IRは「IntegratedResort」の頭文字で「統合型のリゾート」という意味です。

カジノのほかに大型の国際会議場やホテル、それに劇場などさまざまなエンターテインメント施設を兼ね備える施設です。

政府はIRの整備について、競争力の高い観光施設を設けて訪日外国人を呼び込むことなどを目的としています。
カジノは施設を維持・管理するための財源にするという位置づけです。

カジノの運営には、2018年に制定されたIR整備法に基づき、規制が定められています。

1つのIRのなかでカジノ施設は1か所に限られ、面積も施設全体の3%以内とされています。

また、ギャンブル依存症への対策として、IR区域外でのカジノ広告は原則禁止され、カジノ施設内ではATMの設置はできません。

カジノ施設の入場規制が設けられ、7日間で3回、28日間で10回に制限されます。

さらに、家族などからの申し出で利用を制限することができるとしています。

また、日本人や国内に居住する外国人がカジノ施設を利用するためには、1回もしくは24時間当たり6000円の入場料が必要になります。

カジノ施設への入場料収入と事業者がカジノから得られる収益の30%は、国と都道府県に納付されます。

大阪府と大阪市への年間の納付額はあわせて1060億円と見込まれています。

大阪に整備されるIRについては、年間の売り上げは5200億円と推計され、このうち、8割がカジノ事業による売り上げだとしています。

IRの整備をめぐってはギャンブル依存症や治安の悪化などへの根強い不安があります。

このため自治体や運営事業者などには、ギャンブル依存症への対策だけでなく、犯罪を防ぐ対策など健全な運営を行うことが求められています。

ギャンブル依存症治療の医師「予防のために必要な体制作りを」

「ギャンブル依存症」の治療にあたっている大阪精神医療センターの入來晃久医師は依存症への対策の強化が必要だと指摘しています。

入來医師はIRの影響について、「新たにカジノができることで既存のギャンブルとは違う層が依存症になるおそれもある。ギャンブル依存症の人はこれまで十分な治療が受けられなかったという歴史がある。IRの開業によってどんな影響があるかきちんと見ていく必要がある」と話しました。

また、ギャンブル依存症の特徴については、「日常生活のストレスを発散させようとした結果、依存症になってしまうのはアルコールや薬物の依存症と同じだ。依存症になると脳の理性をつかさどる部分の働きが弱まり、家庭や仕事よりギャンブルを優先するようになって次第に家族や社会から孤立していってしまう」と深刻さを説明しました。

そして、対策については「依存症にならないためには、周囲の人が声をかけて早めに医療機関を受診するなど予防をすることが最も大切だ。大阪府や大阪市はこれを機に賭け金がエスカレートしないよう使った金額を把握した上でアドバイスを受けられる仕組みを作るなど、必要な支援を行うための体制作りを進めてほしい」と指摘しました。

【各党の反応は】

立民 泉代表「依存症増えるのではという問題ありカジノ反対」

立憲民主党の泉代表は、記者会見で「カジノは、世界各国を見ると、成功事例だけでなく失敗事例も多々あり、果たして大阪が活性化するのか。ギャンブル依存症で生活破綻に至る日本人が増えてしまうのではないかという問題点もあり、カジノには反対だと明確に訴えていきたい」と述べました。

維新 遠藤国対委員長「IRはすべてカジノではない 説明が大事」

日本維新の会の遠藤国会対策委員長は記者団に「認定までに、う余曲折があり、いろいろな思惑や政治的な背景があるのかもしれないが、大阪のためにやるものではなく国策なので、決まったことは決まったこととして一緒になってやっていきたい。IRは、すべてカジノではないので、改めて国民に説明を尽くすことが大事だ」と述べました。

公明 石井幹事長「感慨深い 住民理解が進むよう努力してほしい」

公明党の石井幹事長は、記者会見で「国土交通大臣時代に、法律の成立に尽力したので、非常に感慨深い。ただ、報道機関のアンケートによると、まだ、大阪の府民や市民の賛成は、必ずしも多いわけではないと承知しているので、大阪府や大阪市は、住民の理解が進むように努力してもらいたい」と述べました。

共産 田村政策委員長「認可と計画の撤回 改めて求める」

共産党の田村政策委員長は記者会見で、「認可と計画の撤回を改めて求める。カジノを解禁し、実際につくることになれば、ギャンブル依存症が増えることは避けられない問題だ。カジノは人の不幸の上に成り立つ経済で、それのどこが日本の魅力なのか厳しく批判したい」と述べました。

申請が出されている長崎県の整備計画は審査継続

一方で、有識者の委員会は申請が出されている長崎県の整備計画については今後も審査を続けることにしています。

これについて、斉藤国土交通大臣は閣議の後の会見で「審査を継続している具体的な理由については、審査中のため、お答えを差し控えさせていただきたい」と述べました。

また、長崎県の整備計画では2027年度の開業を目指すとしていて、開業が遅れる公算が大きくなったのではないかと質問されたのに対して、「整備計画の審査については期限を設けることなく丁寧かつ十分な審査をすることとしている。現時点で認定時期について申し上げられるものではない」と述べました。

長崎 大石知事「認定されるチャンスはまだ十分ある」

長崎県の大石知事は14日の記者会見で「継続審査ということ自体は『不認定』ということではなく、認定されるチャンスはまだ十分にあると理解をしている」と述べました。

その上で「IR誘致の成功というのは県政の重要課題だと思っているので引き続き早期に区域認定をいただけるよう、県として取り組みを進めていきたい」と述べました。

佐世保 朝長市長「IRの実現を切望」

佐世保市の朝長則男市長は「九州・長崎IRは、訪日観光客の地方への新たな流れを創出し、九州観光をけん引する起爆剤となるものだ。佐世保市は官民一体で長年にわたってIRの誘致推進活動を行うなど、IRの実現を切望している。継続審査ということなので、できるだけ早く審査が行われることに期待し、引き続き長崎県と一体となり、IRの実現に向けて取り組んでいく」というコメントを出しました。

長崎県の事業者「認定を信じて待ちたい」

長崎県のIR事業の運営主体となる特定目的会社「KYUSHUリゾーツジャパン」の大屋高志社長は「大阪の計画に認定が出たということは現実に日本にIRができるということなので、むしろ『ほっ』とした気持ちがある。今回、長崎の計画は審査に落ちたということではなく、長崎も大阪と同様にしっかりとした計画を申請しているので、認定を信じて待ちたい」と述べました。

その上で、「認定を受けることができれば2027年の開業に向けて一刻も早く、スケジュールを守れるよう取り組んでいく」と述べました。