入管施設で死亡したウィシュマさんの映像 遺族の弁護団が公開

名古屋市にある入管施設で亡くなったスリランカ人の女性の遺族が国に賠償を求めている裁判で、遺族の弁護団は、証拠として提出された収容中の女性が体調を悪化させていく様子を写した映像の一部を、報道機関に公開しました。

おととし3月6日、名古屋出入国在留管理局の施設で収容されていたスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)が、体調不良を訴え亡くなりました。

遺族は「必要な医療を提供しなかった」などとして、国に賠償を求める訴えを名古屋地方裁判所に起こし、国側は「対応は違法ではない」として訴えを退けるよう求めています。

遺族の弁護団は、国側が証拠として提出した収容中のウィシュマさんの様子を写したおよそ5時間分の映像のうち、5分間ほどを報道機関に公開しました。
映像は、ウィシュマさんが収容されていた「単独室」の天井に設置された監視カメラのもので、亡くなる11日前の2月23日の映像には、ベッドに横たわりながら「私、きょう夜死ぬ」と訴えるウィシュマさんに、入管の警備官が「大丈夫、死なないよ。死んだら困るもん」などと応じ、病院に連れて行ってほしいと弱々しい声で頼むと、「連れて行ってあげたいけど私の力じゃできない。権力ないからさ。ボスに伝えるけど」などと答えるやりとりが写っています。

ウィシュマさんは体調を悪化させていき、亡くなる3月6日には、動かないウィシュマさんに異変を感じた警備官が「指先ちょっと冷たい気もします」とインターフォンで報告したあと、大きな声で繰り返しウィシュマさんの名前を呼ぶ様子が写っています。
映像は、遺族側の求めで6月に法廷で流される予定ですが、今回先行して報道機関に公開したことについて、遺族と弁護団はコメントを出しました。

この中で「すべての人たちに、ウィシュマさんがどのように命を奪われていったのか、その姿をご覧になっていただきたいと思い、法廷での公開予定に先立ち、その映像のうち一部を公開させていただきます」としています。

そして、国会に提出された、外国人の収容のあり方を見直す出入国管理法などの改正案に触れ「私たち日本社会が収容制度のあり方を適切に議論するためには、収容の実態、非人道性、ウィシュマさんが『収容』され、徐々に衰弱してゆく様、人間が人間を拘禁するとはどのようなことなのか、今、これを知っていただく必要があると考えました。ご遺族においても、姉がどのような状況の中、亡くなっていったのか、1日も早く日本社会のすべての人にみてほしいとの想いを強くお持ちです。映像は本来、その国家の主権者たるすべての国民が、知るべきものでもあります」などとしています。
ウィシュマさんの妹のワヨミさんは、「姉がどのように苦しみ、どんなに救いのない環境で見殺しにされたかを、私たちは日本の皆さんに知っていただきたいです。姉が命を落とした場所は、姉が心から愛したこの日本でした。皆さんにお願いしたいことは、姉のような犠牲者と私たちのような遺族を、もう出さないでいただきたいということです」などとコメントしています。
ウィシュマさんの妹・ワヨミさん
また、下の妹のポールニマさんは「ウィシュマは収容されて、体を動かすこともできなくなり、点滴を打ってほしい、病院に連れて行って欲しいと繰り返し求めたにもかかわらず、適切な医療を受けることができずに、収容されて6か月半で亡くなりました。皆さん、日本の入管で実際に起こったことをよく見てください。そして、どうか、入管に収容されている中で、なぜ姉が死ななければならなかったのかを明らかにし、国会で再発防止策を真剣に議論してください」としています。
妹のポールニマさん

映像公開をめぐる経緯

去年12月に国側は、収容中のウィシュマさんを写したおよそ295時間分の映像のうち、およそ5時間分について証拠として名古屋地方裁判所に提出しました。

これを受けてことし2月には、民事訴訟記録の閲覧手続きを踏めば、裁判所で映像を視聴できるようになりました。遺族側はこの映像を法廷で流すことを求めましたが、国側は保安上の支障があるなどとして反対していました。

その後、裁判所を交えた協議の結果、6月21日と7月12日に法廷で流されることになりました。

死亡をめぐる処分と再発防止策

ウィシュマさんが死亡した問題をめぐって、出入国在留管理庁はおととし8月、ウィシュマさんが医療機関での診察を求めても現場の職員が必要ないと判断するなど、適切な治療を行う体制が不十分だったとする最終報告を公表し、名古屋出入国在留管理局の幹部4人を訓告などの処分にしました。

また、殺人の疑いで告訴されるなどした当時の局長らは不起訴となりましたが、検察審査会は去年12月、殺人罪などについては成立しないとした一方で、業務上過失致死罪については再検討することが相当で、「不起訴は不当だ」と議決しました。

出入国在留管理庁は問題を受けて、
▽常勤医師の確保や非常勤医師の増員
▽外部の医療機関との連携体制の構築強化
▽救急対応マニュアルの作成
▽被収容者の健康状態などの情報共有体制の構築

などの対策を進めています。こうした対策の効果として、常勤医師が継続的な診療等を行うことで、体調悪化の早期発見につながった例もあるなどとしています。

松野官房長官「法案は早期成立が必要不可欠」

松野官房長官は6日午後の記者会見で、「出入国在留管理庁では、死亡事案に関する調査報告書で示された改善策を中心に、組織や業務の改革に取り組んできており、医療体制の強化や職員の意識改革など、効果が着実にあらわれている」と述べました。

その上で、国会に提出されている出入国管理法の改正案などに反対意見が出ていることについて、「法案は常勤医師の兼業要件の緩和や、収容しないで退去強制手続きを進める監理措置制度など、再発防止に資する施策が盛り込まれている。早期成立が必要不可欠と考えている」と述べました。