富士山噴火「逃げ遅れゼロへ」新計画とは?首都圏への影響は?

「逃げ遅れゼロ」を目指す。

富士山の噴火を想定した新しい避難計画を、静岡・山梨・神奈川の3県などで作る協議会が3月29日、まとめました。

さらに、火山灰は東京の都心を含む首都圏の広い範囲に降り、2センチ以上に達する地域の人口は885万人にのぼり短時間で都市機能がマヒするおそれも。

私たちはどう備え、行動をすればよいか。詳しくお伝えします。

【どう避難する 新計画のポイント】

80万人が避難対象

避難の対象となる地域に住む人は静岡・山梨・神奈川の3県27市町村のおよそ80万人に上ります。

住民は事前の自主避難を

まず、住民に対しては混乱を避けるため噴火の前に火山性地震が増加するなどして気象庁が噴火警戒レベルを引き上げた場合などに、親戚や知人の家、宿泊施設へ自主的に分散して避難するよう呼びかけるとしています。

そのうえで、避難の対象地域を噴火に伴う現象や影響が及ぶ時間に応じて6つのエリアに分け、それぞれ移動手段や避難の開始時期を示しました。
▽第1次避難対象エリア。
想定火口範囲です。噴火警戒レベル3の段階で避難します。

▽第2次避難対象エリア。
主に火砕流や火砕サージ、大きな噴石が到達する可能性のある範囲です。噴火警戒レベルが4となった段階で一般の住民も車で避難するとしています。

▽第3次避難対象エリア。
溶岩流が3時間以内に到達する可能性のある範囲です。短時間で到達するため、噴火が起きた直後に避難するとしています。

▽第4次の避難対象エリア。
溶岩流が24時間以内に到達する可能性がある範囲です。

▽第5次避難対象エリア。
溶岩流が7日間以内に到達する可能性がある範囲です。

▽第6次避難対象エリア。
溶岩流がその後、最終的に到達する可能性がある範囲で、最大57日間かかるとされています。

市街地では原則 徒歩で避難

このうち市街地では住民が一斉に車で避難すると深刻な渋滞が発生して逃げ遅れる可能性があることから避難に時間がかかるお年寄りなどをのぞき、一時的に安全を確保できる場所へ「原則、徒歩で避難する」という方針が改めて示されました。

登山客 観光客は早期に帰宅を

また、登山客に対しては噴火警戒レベルが「活火山であることに留意」を示す1の段階でも、気象庁から臨時の情報が発表された時点で下山を指示します。

それ以外の観光客に対しても混乱が生じる前の早い段階で帰宅を呼びかけます。

観光客の受け止めは…

山梨県の富士吉田市を訪れた観光客の声です。

「車で来ていればスムーズに動けますが電車やバスで来ていた場合、どうやって帰ればいいのか困ります」(兵庫県 女性)

「帰宅の呼びかけがあればそれに従うと思います。ただ、一斉に観光客が帰るとなると結局は渋滞で動けなくなりそうなので、いったん逃げられる場所や避難する場所があればいいと思います」(京都府 旅行中の夫婦)

【避難の考え方 新計画のポイント】

避難先の考え方についても見直されました。

県外への避難も活用

これまでの計画では県内での避難が想定されていましたが、隣接する県外の自治体などへの段階的な避難を可能とし、3県が受け入れの調整を行って避難を短時間で完了させるとしています。

ただ、富士山は観測を開始してから噴火したことが無く、噴火の時期や火口の場所についての不確実性が高いことを踏まえて、あらかじめ避難先を決めず噴火の状況に応じて避難先を確保することとしています。

お年寄りや子どもなどの対策強化

避難に支援が必要な人たちへの対策も強化されました。

溶岩流が3時間以内に到達する地域では病院や高齢者施設などに対し入院患者らを安全に避難させるための計画づくりを促すほか、小学校や幼稚園などは噴火警戒レベルが3に引き上げられた時点で速やかに休校とし、保護者へ引き渡すとしています。

【火山灰 影響は広範囲に】

885万人が火山灰2センチ以上の地域に

富士山で大規模な噴火が発生した場合、風向きや風速によっては周辺の自治体だけでなく東京の都心を含む首都圏の広い範囲に火山灰が降り、公共交通機関や物流に影響が出て生活に支障が出るおそれが指摘されています。

協議会が2019年に公表した広域避難計画によると、300年余り前の江戸時代の噴火をもとに火山灰が2センチ以上に達する地域の推計人口は神奈川県を中心に885万人にのぼると推計されています。

火山灰を大量に噴き出す江戸時代のようなタイプの噴火が発生した場合、風向きや風速によっては富士山周辺だけでなく、東京の都心など関東各地にも到達するとみられていて、短時間で都市機能がマヒするおそれがあります。

物流も滞る 1週間の備蓄を

火山灰による生活への影響をまとめた国の検討会によりますと、
▽道路に1ミリ以上積もると車が出せる速度は30キロ程度、
▽5センチ以上積もると10キロ程度まで落ち、
▽10センチ以上積もると、通行ができなくなります。

協議会では、「火山灰」は、噴火の規模や風向きによって影響するエリアが変わるため事前に避難先を決めるのではなく、鉄筋コンクリート造など頑丈な建物での「屋内退避を原則」としたうえで道路の通行止めなどにより物流が滞った場合に備え、1週間分の水や食料などを備蓄しておくことも求めています。

【行政は…】

山梨県 長崎知事「官民一体で 逃げ遅れゼロを」

対策協議会のあと山梨県の長崎知事は、記者団に対し「避難計画を実現するため行政からの一方的な情報発信だけでなく住民との対話などに時間をかけ官民が一体となって『逃げ遅れゼロ』の達成を目指したい。今後、個別に各自治体が避難計画を作れるようにサポートしていきたい」と述べました。

その上で、富士山を訪れる観光客などの避難のあり方について「国の体制整備もされつつあるが今後、密接な連携が必要になってくるのでしっかりと話し合いを進めていきたい」と述べました。

静岡県裾野市「高齢者多く 早い段階で避難を」

また、富士山の南東に位置する静岡県裾野市の山本危機管理調整監は「別荘地には高齢者も多く、市の防災メールも受け取れないおそれがある。早い段階で避難ができるようふだんから粘り強く呼びかけていきたい」と話しています。

【地域ごとに普及啓発へ】

新たに示された避難計画を踏まえ、それぞれの自治体では今後、地域の特性を踏まえたより詳細な避難計画を作成したうえで、住民への周知を進めることになります。
避難計画の見直しに携わった東京大学名誉教授で山梨県富士山科学研究所の藤井敏嗣所長は、「以前の計画では危険が予想される場所から遠くへ逃げることになっていたが、溶岩流の特性を踏まえた避難が必要だ。噴火時に実際にどこに避難するかなど各市町村ごとに違うため、地域の防災計画にしっかり落とし込んでもらいたい」と話していました。