初任給アップや「スカウト」も 来春卒業 大学生の就活本格化

来年春に卒業する大学生の就職活動は、1日から企業による学生への説明会が始まり本格化します。企業の採用意欲は一段と高まっていて、人材の獲得に向けて初任給を引き上げる動きも広がっています。

きょう3月1日から説明会 採用意欲高まる

来年春に卒業する今の大学3年生の就職活動は、政府が決めたルールで、1日から企業による学生への説明会が行えることになっています。

就職情報サイトの「マイナビ」が、全国の企業を対象に2月に行った調査では、来年春に卒業する大学生の採用人数を「増やす」と答えた企業の割合は、文系が前の年より8ポイント余り高い27.7%、理系が前の年より7ポイント近く高い29.8%といずれも上昇しました。増加は2年連続で、コロナ禍からの経済の回復などを背景に、企業の採用意欲が一段と高まっています。

また、採用環境が「厳しくなる」と答えた企業の割合は、文系・理系ともに前の年より大幅に増えてほぼ半数に上り、人材の獲得に向けて実施したり検討したりしている企業の取り組みとして、「初任給の引き上げ」が59.2%、仕事の内容の明確化につながる「職種別採用の導入」が51.5%などとなっています。

企業側が学生を「スカウト」

企業にとって、新卒の学生の採用環境が厳しさを増す中、学生からの応募を待つのではなく、企業側から興味を持つ学生に声をかける「スカウト型」と呼ばれる採用方法が広がっています。

スカウト型の就活サイトは、
▽就職を希望する大学生や専門学校生などがプロフィールや将来目指すキャリアといった情報を登録し、▽それを見た企業側が関心のある学生に直接、連絡できる仕組みで、学生の就職活動に関する民間の調査では、3割近くの企業が利用しています。

このうち、大手のスカウト型サイト、「Offer Box」では、サービスを利用する企業が1万3000社あまりと、この2年間でおよそ5600社増えたということです。

また、コロナ禍でオンラインの就職活動が定着したことなどで学生の利用者も増え、ことし1月末の時点で来年春に卒業予定の学生、13万3000人あまりが登録しています。
サイト運営会社 中野智哉社長
「就職活動に使うツールは昔だと雑誌だったり、パソコンだったりしたが、今ではスマートフォンに変わっている。学生や企業はそれぞれにとって最適な方法を見つける工夫が今後の就活にとって重要になっていくと思う」

「スカウト型」採用 導入企業は

東京に拠点を置くちゅう房調理機器メーカーでは、去年の新卒採用から「スカウト型」の就活サイトを利用するようになりました。

去年はコロナ後の経済回復を見据え、例年より8人多い12人を採用する計画でしたが、就職情報サイトで募集をしても十分な数の学生が集まらず、途中から「スカウト型」を導入しました。

利用したサイトでは、会社が求める学生の専攻や経験を入力すると、要望に合う学生の情報が適性の高い順に自動で提示されます。
その結果、これまで説明会に足を運んでもらえなかった地方の大学の学生や、これまで接点を持てなかった有名企業を志望する学生とも直接、連絡を取れるようになり、1対1での丁寧な会社説明や面接などにより新卒採用11人のうち、6人を「スカウト型」の方法で獲得したということです。

このため、ことしの採用活動でも従来の方法とともに「スカウト型」も実施し、去年の2倍にあたる23人の採用を計画しています。

中西製作所 新卒採用担当 竹村勇輝係長
「今まで当社が採用できなかった学校や、学部学科の学生と出会えたことが大きな変化だと思います。どんな仕事に向いているのか分からずに、就職活動を進めている学生も多いと思うので、この仕組みを使えば企業と学生のマッチングにつながるのではないかと感じています」

初任給40万円 優秀な人材獲得へ

人材獲得に向けた企業の取り組み。注目されているのが初任給です。

人材紹介業やマーケティングなどを行っている企業では、来年春に卒業する学生を中心に280人を採用したいと考えています。

優秀な人材を獲得しようと、ことし5月から総合職の給与を一律5万円引き上げることを決めました。
新入社員の給与が、基本給に固定残業代と住宅手当を合わせて、40万円になるとアピールしています。
来月入社する学生
「だいぶ大きく感じますね。自分がもっともっと頑張ろうっていうふうに思える」

増える人件費は年間およそ4億円。最終利益の半分程度にあたる金額だといいます。

DYM人事部 熊谷直紀部長
「就活生の方々の人数も減ってきているという中で、より魅力をアピールするためには、負担はもちろん重いんですけれども、それによる人材の確保ですとか社員の成長といったところを考えると、必要な投資かなというふうには考えております」

初任給引き上げの動き 広がる

若手の人材確保が課題となる中で、企業による初任給引き上げの動きは、広がりを見せています。

このうち、▽ユニクロなどを展開するファーストリテイリングは3月から、新入社員の初任給を、それまでの25万5000円から30万円に引き上げました。

また、▽大手工作機械メーカーのDMG森精機は4月入社する新入社員の初任給を引き上げます。

このうち、大卒の場合は27万2210円から30万円に、博士課程卒の場合は現在の36万3490円から47万5000円に引き上げることにしていて、会社はことしの採用活動でも高度な人材の獲得を進めていくことにしています。

また、▽全日空、▽JR東日本、▽NTT、▽セガ、▽ニコン、▽大和ハウス工業、▽製粉大手の昭和産業など、初任給の引き上げを決めた企業は相次いでいて、業種の垣根を越えて広がりを見せています。

学生の就職活動に関する民間の調査では、初任給や給与の引き上げでその企業への関心が高まり、就職先としての志望度も上がると回答した大学生の割合が68%にのぼるとする結果もあります。
マイナビキャリアリサーチラボ 東郷こずえ主任研究員
「先進諸国と比べて日本の賃金の低迷が長引き、問題視されていることを改革しようという企業の姿勢が学生にとって前向きな印象につながるのではないか。人材獲得のために待遇の改善を進める動きは広がっていくと思う」

20代でも管理職に抜てき 新人事制度導入の企業も

企業の中には年功序列の制度を見直すケースが相次いでいます。中には、20代でも管理職に抜てきして年収をおよそ1000万円に引き上げるケースもあるという企業も出ています。

新たな人事制度を始めるのは、パナソニック ホールディングスの子会社で、システム開発などを手がける「パナソニック コネクト」です。

会社によりますと、ことし4月から年功序列による人事制度を見直し、管理職やプロジェクトの責任者などおよそ1400の役職について、社内で公募する制度に移行するとしています。
新たな制度は「ジョブ型」と呼ばれ、役職ごとに必要なスキルや能力を設定し、賃金も変動する仕組みです。応募した社員の中から、これまでの評価や面談を通して採用するかを決めることにしていて、会社によりますと、20代でも管理職に抜てきして年収が1.5倍に増えたり、年収をおよそ1000万円に引き上げるケースもあるということです。

会社では若手人材の獲得競争が激しくなる中、年齢や勤続年数にとらわれずに重要なポストや給与体系を用意することで、人材確保につなげたい考えです。
パナソニック コネクト 新家伸浩常務
「若い世代の意識が特に変わってきていて、やりたい仕事を明確に持っている人が増えている。即戦力として、力を発揮したいと思って入社する人にしっかり報いる会社にしていきたい」

課長に抜てきされた社員は

新しい制度で若手がより活躍できる職場になれば、優秀な人材の確保につながると期待する声も聞かれます。

制度の開始を前に、先行事例として管理職の課長に抜てきされた小井沼桃さん(36)は、サプライチェーンの企業に物流システムの提案などを担当しています。
小井沼さんは、自分のキャリアアップを図りたいとして、管理職を希望しましたが、「前任者は12歳年上だったので、自分が務まるか、荷が重い気持ちだった」と話します。

それでも、部下との年齢が近いことから、コミュニケーションを積極的に取ることを意識しているということで、部下からの仕事の悩み相談を受けたり、アドバイスをしたりしています。また、ことし4月から始まる新しい制度で、若手がより活躍できる職場になれば優秀な人材の確保につながると期待しています。

管理職に抜てき 小井沼桃 課長
「管理職になったことで、視座が上がってプレイヤーだったころは気づけない視点で仕事ができるのはおもしろいです。経営層の人など、社内外でも対話する人のレベルが上がったことでもやりがいを感じています」
「年功序列ではなくて、個々の素質やモチベーションがあれば挑戦させてくれる制度はいいと思いますし、会社の魅力になると思います」