宇宙飛行士候補に諏訪さん米田さん【図解】選考はどう進んだ?

JAXA=宇宙航空研究開発機構が14年ぶりに実施した宇宙飛行士の選抜試験について永岡文部科学大臣は28日朝の閣議後の会見で、世界銀行に勤める諏訪 理さん(46)と日本赤十字社医療センターの医師の米田あゆさん(28)が選ばれたことを明らかにしました。また、都内では諏訪さんと米田さんの会見が行われ心境を語りました。

2人はJAXAが14年ぶりに実施した宇宙飛行士の選抜試験に臨み、筆記試験や面接、体力試験のほか、プレゼンテーション能力をみる実技試験などを突破し、過去最多の4127人の中から選ばれました。

新たな日本人宇宙飛行士の候補者が選ばれるのは、2009年に油井亀美也宇宙飛行士ら3人が選ばれて以来14年ぶりです。

永岡大臣は「これまでにない多数の応募者の中から厳しい競争を勝ち抜いたお二人にお祝いを申し上げたい。国際宇宙ステーションなどでの有人宇宙活動を担う宇宙飛行士の候補者として、今後、訓練を受け新しい時代を切り開いていくことを祈念している」と述べました。

11:30 諏訪さんと米田さんが都内で記者会見

記者会見の中で、諏訪さんは「合格の連絡にとても驚き、大きな責任を負うことになったと感じました。昨夜は気持ちが高ぶり、眠れませんでしたが、仕事をしっかりしていかねばならないと思っています」と語りました。

宇宙飛行士を目指した理由については「アポロ17号の船長、ユージン・サーナン宇宙飛行士に会ったことがきっかけで興味を持ちました。小さいときからの夢でした」と語りました。

自身の強みについては「目標に向かって淡々と努力するのが得意です。46歳ではあるが健康管理に気をつけて長い間、現役でいられるよう努力したいです」とした上で「次の世代に夢や希望を与えられるような、宇宙飛行士になりたいです」と今後の抱負を述べました。

また、米田さんは「合格の連絡を受けたときは最初は喜び、そして同時に驚きました。選んでもらったことへの責任感と使命に身が引き締まる思いです。支えてくださった方々への感謝の気持ちがわき上がってきています」と心境を語りました。

宇宙飛行士を目指したきっかけについては「小さいころに父親からもらった向井千秋さんの漫画の伝記を読んで向井さんが宇宙から地球を眺めて感動している様子に感銘を受けました」と話していました。

2人が参加する可能性のある国際的な月探査計画について米田さんは「月に行きたいです。もし月に立つことがあれば、月から見た地球はどう見えるのかといった経験を伝えたいです」と話していました。その上で「医師としての働きを求められていると思うが、チームを和ませる存在でもありたいと考えています。また、気さくで身近に感じてもらえる宇宙飛行士になりたいです」と今後の抱負を語りました。

これまでで最年長の46歳での合格 諏訪 理さん

東京都で生まれ茨城県で育ち、東京大学理学部地学科を卒業した後、アメリカのデューク大学で修士課程を、プリンストン大学で気候科学を専門に研究して、博士課程を修了しました。アメリカ留学中には、研究のために南極に滞在した経験があります。

その後、JICA=国際協力機構の青年海外協力隊などを経て、現在はアメリカの首都ワシントンに本部がある世界銀行に勤め、途上国の支援活動などを行っています。

宇宙を目指した最初のきっかけは小学生のときに雑誌の企画でNASA=アメリカ航空宇宙局を訪れた際に宇宙飛行士に出会った経験で前回、2008年に始まった宇宙飛行士選抜試験も受験しています。今回、2度目の挑戦で夢をつかみました。諏訪さんはこれまでで最年長となる46歳での選抜です。

諏訪さん“合格連絡”の瞬間を取材「46歳でもできると示したい」

合格発表当日、諏訪さんは一緒に暮らす妻と2人の娘とともに、アメリカの自宅で合否の連絡を待ちました。そして、電話で合格を告げられると、それまでの緊張から解放され、ほっとした表情を浮かべました。
諏訪さんはNHKの取材に「正直、全く現実感がない。受かると思っていなかったのでびっくりしている。試験に落ちたときのコメントは考えていたが、受かったときのコメントは考えていなかった」とうれしさをかみしめながら話していました。

そして「前回の選抜試験の時は『やってやるぜ』みたいな気持ちがあったが、今回はわりと気楽に受けていたと思う。もしかしたらそれがよかったのかもしれない」と振り返っていました。

一方、最年長での合格については「日本の宇宙飛行士は高齢化が進んでいるという番組を見たことがあるが、ふたをあけてみたら46歳がいるとわかると周りから何と言われるのか気にはなる。それでも46歳でもできるところを示せたのはうれしい」と話していました。

そして、月面にアメリカの国旗を立てるNASA=アメリカ航空宇宙局の宇宙飛行士の写真を手に「夢の入り口に立てたのはすごく感慨深い。自分なのかはわからないが、月面に日本の国旗が立つ瞬間を見る日がくるかもしれないと思うと、ゾクゾクする」と期待を膨らませていました。

女性の合格は24年ぶり 米田あゆさん(28)

2019年に東京大学医学部を卒業し、2021年から日本赤十字社医療センターに所属。現在は東京・港区の虎の門病院に派遣され、外科医として患者の治療にあたっています。

宇宙飛行士という職業を意識するようになったのは、子どものころに父親が買った、元宇宙飛行士で医師の向井千秋さんの伝記を読んだことがきっかけで、小学校の卒業文集にも「宇宙飛行士になりたい」と書いていました。

倍率2000倍超の「国内最難関」試験 どう選抜が進んだ?

「国内最難関」ともいわれる宇宙飛行士の選抜試験は、おととし12月に募集が始まり、過去最多の4127人が応募し、過去最多だった前回の963人と比べ4倍以上となりました。

応募者が急増した背景についてJAXAは、自然科学系の4年制大学の卒業以上とする学歴の要件をなくし、いわゆる「文系」でも応募が可能になったことや、3年以上とする自然科学系分野での実務経験についても、分野を不問としたことがあるのではないかとしています。

さらに、宇宙船の改良などによって身長と体重の制限が緩和されました。身長は149.5センチ以上、190.5センチ以下と幅が9センチ広がったほか、体重は前回まで50キログラム以上、95キログラム以下としていた制限がなくなり条件の緩和が影響しているとしています。

そして今回行われた選抜試験の流れです。

応募者はWEB上で示されたエントリーシートに志望動機や自己アピールのほか、これまでの業績などを記入して回答するとともに、健康診断書なども提出。これらをもとに書類選抜が行われ、去年4月に2266人が通過。続く「0次選抜」では最初の試験となる英語や小論文、理数系の知識を問うテストが去年6月にかけてオンラインで実施され、205人に絞り込まれました。

「1次選抜」では、オンラインによるプレゼンテーション試験や医学検査などを経て去年9月には50人に。「2次選抜」では英語での面接や体力面の適性を見る試験と2度目のプレゼンテーション試験が行われ、最終選考の「3次選抜」に進む男性8人と女性2人のあわせて10人が去年12月に決まりました。

「3次選抜」は年明けから始まり月面を模した試験会場で自分たちが制作した小型探査車を遠隔操作で走らせる課題や、宇宙飛行士に必要な資質を確認する試験や面接のほか、3度目となるプレゼンテーション試験などが行われました。

およそ1年にわたる試験の結果、2人が合格。最終的には2000倍を超える過去最高の倍率をくぐりぬけ、宇宙飛行士の候補に選ばれました。

今回の試験では「表現力・発信力」も求められる

JAXAはこれまでの選抜試験において、宇宙飛行士に求められる資質として、おもに協調性やリーダーシップ、それにさまざな状況下で冷静に判断する適応能力などを挙げてきました。

今回の選抜試験ではこれらに加えて「表現力・発信力」を求め、応募者が記入するエントリーシートには前回まではなかった「自己アピール」の項目が加わったほか、選抜試験ではプレゼンテーション試験が3回、実施されました。背景には、今後本格化する国際的な月探査計画があります。

今回、選ばれた2人は月を周回する新たな宇宙ステーションへの搭乗や、月面に降り立つ可能性がありますが、こうした計画には巨額の税金が投入されます。海外の国々だけでなく、民間企業も宇宙への進出を加速させる中、巨額の税金を投じて行われる宇宙開発の意義や重要性を国民に広く伝え、理解を得る役割も求められます。

過去の試験は5回 計11人が選ばれる

宇宙飛行士選抜試験はこれまでに5回行われ、あわせて11人が選ばれています。初めての選抜試験は当時のNASDA=宇宙開発事業団が実施。スペースシャトルに搭乗して科学実験を行う宇宙飛行士として1985年、毛利衛さん、向井千秋さん、土井隆雄さんの3人が選ばれました。
その後、スペースシャトルの運用のほか、国際宇宙ステーションの日本の実験棟「きぼう」の組み立てなど、役割の拡大に伴って選抜試験が実施され、1992年に若田光一さん。1996年に野口聡一さん。そして、1999年には古川聡さん、星出彰彦さん、山崎直子さんの3人が選抜されました。
5回目となった前回の選抜試験は過去最多の963人が応募。2009年に油井亀美也さん、大西卓哉さん、金井宣茂さんの3人が選ばれました。

JAXAによりますと、これまでの宇宙飛行士選抜試験で最年少での合格は、28歳のときに選ばれた若田さんと山崎さんで米田さんも2人に並びます。一方、最年長での合格は、2009年に選ばれた油井さんで39歳。諏訪さんは7歳上の46歳での合格となりました。

また宇宙飛行士の候補に女性が合格したのは、1999年の山崎さん以来24年ぶりで、28歳での選抜は、若田さんや山崎さんと並び最年少です。さらに医師としては、向井さん、古川さん、金井さんに続き4人目です。