トルコ・シリア大地震 4万3000人以上の死亡確認【17日の動き】

トルコ南部のシリア国境近くで6日発生した大地震では、これまでに4万3000人以上の死亡が確認されています。国連は16日、トルコに対し、今後3か月分の支援として10億ドル、日本円にしておよそ1340億円を拠出すると明らかにし、国際社会に協力を求めました。

シリア北西部の病院では関係者が物資の不足を訴え

15日にシリア北西部イドリブの病院で撮影された映像には、足に包帯が巻かれた人や右足を失った男性がベッドに横たわる様子が写っています。病院の担当者は「抗生物質や包帯などの医療品を必要としている。私たちは本来あるべき形でけが人や被災者に対応することができていない」と述べ支援の必要性を訴えていました。また、人工透析の患者のための装置や物資がもともと不足していたものの、地震後さらに足りなくなっていると話していました。

内戦が続くなか、シリア北部ではアサド政権、反政府勢力とそれを支援するトルコ、それにクルド人勢力の支配地域が入り乱れていて、支援の手が十分に行き届いていないという訴えが住民や支援団体などから相次いでいます。

避難所では子どもたちに心のケア 色とりどりの絵を顔に

トルコ南部オスマニエの避難所では16日、被災した子どもたちが顔にトルコ国旗やひげなどを描いてもらっていました。子どもたちの中には少し不安そうな表情で描く作業が終わるのを待つ子や、他の子どもたちの顔に絵が描かれるのを見守ったり、楽しみそうに順番を待ったりする子もいました。

ソーシャルワーカーの1人は「どの避難場所でもこのような心のケアを行っている」と述べ、こうした支援が長期的に必要になるという見通しを示していました。

ユニセフ=国連児童基金は、今回の地震で影響を受けた子どもはトルコとシリア両国で700万人以上にのぼるという見通しを示しています。シリア人の中には内戦の影響で故郷を追われ、避難先で再び家を失う子どももいて、被災者に対して息の長い支援が求められています。

国際緊急援助隊の医療チーム 現地で本格的な診療開始

避難生活が長引く被災者の健康をどう維持していくかが課題となる中、日本の国際緊急援助隊の医療チームが現地で本格的な診療を始めました。

医師や看護師など75人からなる日本の医療チームは、地震で地域の中核病院が壊れる被害などを受けたトルコ南部ガジアンテプの郊外に入り、地元の職業訓練校に設けられた臨時の医療拠点に診療用のテントを設営しています。

チームは16日から外来患者の受け入れを始め、17日も次々に訪れる住民に対して症状を聞いたり、血圧を測ったりするなどの対応に追われていました。

体調を崩した1歳の男の子を連れてきた父親は「地震が起きてから初めて病院に連れてくることができました。親切な対応に感謝しています」と話していました。

今回の医療チームは、手術を行ったり、入院患者を受け入れたりすることができるということで、テント内に手術室などを設けるための準備も進めていました。

医療チームの石原猛団長は「地震でけがをした人の対応だけでなく、失われた地域の医療機能を取り戻し、震災でつらい思いをしている方をサポートしたい」と話していました。

建築の専門家「倒壊した建物の多く 柱の強度不足」

大地震による被害が相次いだトルコ南部での救助活動に同行した建築の専門家がNHKの取材に応じ、倒壊した建物の多くが、柱と柱の間にはりがない「フラットスラブ構造」だったとした上で、柱の強度不足も原因の1つだと指摘しました。日本でも古い耐震基準の建物では比較的強度が弱い柱もあるとして、耐震化を進めるべきだと話しています。

構造設計一級建築士の一條典さんは、国際緊急援助隊の救助チームのメンバーとしてトルコ南部の被災地・カフラマンマラシュで活動し、15日帰国しました。

一條さんが17日、NHKの取材に応じ、撮影した写真などをもとに活動した地域での建物被害の状況を分析しました。
現地では、柱が壊れ建物が垂直に潰れるように崩れる「パンケーキクラッシュ」と呼ばれる壊れ方をした建物が多く見られましたが、その建物の多くは柱と柱の間にはりがない、「フラットスラブ構造」だったと指摘しました。この構造だと建物にはりがないため、床と床が重なるように崩れやすく、建物の中での空間が少なく救助活動が難しくなるということです。

一條さんは「フラットスラブ構造は日本では少ないが、比較的簡単に作れるためトルコで多いのかもしれない。ただ、強度を成立させるにははりがある構造よりも技術が必要だ」と話しています。

さらに10階建ての共同住宅が倒壊した現場では、鉄筋コンクリートの柱を解体した際、むき出しの鉄筋だけが残っている様子が見られました。鉄筋とコンクリートの付着力が弱いため、こうした現象が起きるということで、一條さんは柱の強度が低かったことが建物の倒壊の原因の1つだと分析しています。

一條さんは、「日本では耐震の取り組みが進んでいるが、古い基準の建物もまだまだ残っている。特に1970年代以前の建物は柱のつくりが今の基準と比較すると比較的弱く、直していく必要がある」と述べ日本でも耐震化を進めるべきだと話しています。

岸田首相 エルドアン大統領に850万ドル支援の意向伝える

トルコで発生した大地震を受け、岸田総理大臣は17日夜、エルドアン大統領と電話会談を行いました。

電話会談で岸田総理大臣は、トルコで発生した大地震の犠牲者に対する弔意と被災者へのお見舞いの気持ちを示しました。そして、これまでに国際緊急援助隊を派遣したことや緊急援助物資を供与したことを説明しました。

その上で、新たに追加的な緊急援助物資の支援を行うことに加え、850万ドル規模の緊急人道支援を行う意向を伝えました。

岸田総理大臣は総理大臣官邸で記者団に対し「私からは、東日本大震災の際にトルコから頂いた支援に触れながら、今後、新たに850万ドル規模の緊急人道支援を実施する予定だと伝えた。エルドアン大統領からは日本の支援に対する深い謝意が示された」と述べました。

国連 トルコに3か月分の支援として10億ドル拠出

トルコ南部で6日に発生したマグニチュード7.8の地震や、その後の大きな揺れでトルコとシリアでは、これまでにトルコで3万8044人、シリアで少なくとも5814人が亡くなりました。両国の犠牲者は合わせて4万3000人以上にのぼり、現地では今も懸命な救助活動が続いています。

国連のグテーレス事務総長は16日、トルコに対し、今後3か月分の支援として10億ドル、日本円にしておよそ1340億円を拠出すると明らかにしました。支援の対象は520万人にのぼり、食料や住まいの確保などに充てるということです。

グテーレス事務総長は、「人々は苦しんでおり、一刻の猶予もない」と述べ、国際社会に協力を求めました。

また国連は、シリアに対し14日、今後3か月分の支援として3億9700万ドル、日本円にしておよそ530億円を拠出すると明らかにしています。

現地で活動の日本赤十字社職員「息の長い支援が必要」

今回の地震で、日本赤十字社は2人の職員を派遣していて、17日、オンラインで報告会を開きました。
このうち、トルコの首都アンカラで現地の赤十字社と支援の調整を行っている芳原みなみさんは、冬用のテントや暖かい食事のほかに、仕事を失った人のための現金給付も必要だと訴えました。

そのうえで、「災害対応は長距離走のようなもので、命が助かった方が安心して生活できるようになるためには、息の長い支援が必要になる」と話していました。

また、シリアの首都ダマスカスで支援の調整にあたっている松永一さんは、内戦や燃料不足の影響で、被災地に直接行けなかったことなど現地特有の支援の難しさを報告しました。

日本赤十字社では、ことし5月まで被災者の支援や復興に役立てるための救援金を受け付けています。

詳しい振り込み先は、日本赤十字社のホームページで確認できます。

警視庁の特殊救助隊など帰国「いまだに心が痛む」

日本から国際緊急援助隊の一員として派遣された警視庁の特殊救助隊の隊員など13人が帰国し17日、小島裕史警視総監に現地での活動を報告しました。

隊員たちは、被害が深刻なトルコ南部の都市、カフラマンマラシュの建物が倒壊した現場で、警備犬を活用して行方不明者の捜索や遺体の収容などにあたったということです。

また、コンクリートなどを砕く削岩機をトルコの救助チームに貸し出し、生存者の救出につながるなど、外国の部隊と連携して救助活動を進めたということです。

警視庁特殊救助隊の和田純一警部は「私たちは帰国して日常に戻りましたが、現地の人たちが大切な人を亡くすなどして悲しい思いをしているのを思うと、いまだに心が痛みます。今後、発生しうる災害に向け、訓練を重ねていきたい」と話していました。

野口健さんら 寝袋800個余りを現地に

地震で大きな被害を受けたトルコを支援しようと、岡山県総社市は、市と災害時の支援協定を結ぶ山梨県のNPO「ピーク・エイド」などと協力して、新品の寝袋800個余りを集め、現地に送りました。

総社市役所で行われた出発式では、「ピーク・エイド」の代表で登山家の野口健さんが「僕たちにできることは被災者が体を暖めて安心して眠れる環境を用意することです。全国からたくさん集まったので、一日も早く届けたい」とあいさつしました。
17日は「支援物資」という文字と、日本とトルコの国旗が描かれた段ボール箱に入れて、野口さんらがトラックに積み込みました。

寝袋は、トルコ政府を通じて現地に届けられるということです。

トルコ 避難生活でテントにすら住めない人も

トルコでは、地震で多くの人が住む家を追われ、テントでの避難生活を余儀なくされています。

トルコ政府は、16日までに17万余りのテントが設営されたとしていますがテントの数は不足しています。

甚大な被害を受けた南部のカフラマンマラシュに住むヤクプ・オズさん(32)は、夫婦で暮らしていたアパートが地震で壊れたため、生まれて6か月の赤ちゃんと避難生活を送っていますが、当局から支給されたテントは、1つだけで、合わせて20人ほどいる親戚すべてが入ることはできません。

毎日、交代で車の中で寝泊まりしています。

オズさんは、「テントを待つ人の列がたくさんできていて、多くの人が車で寝ることを余儀なくされています。横になれずに座るので、首や背中が痛くて、眠れないまま朝を迎えます」と嘆いていました。

避難しているシリア人「今 最も必要なのはテント」

一方、同じ市内の青果市場には、内戦を逃れてきたシリア人たちが被災後、多く避難していて、ここでもテントは不足し、すべての家族に行き渡っていません。

10年前に、シリア北部のアレッポからトルコへ逃れてきたアミラ・ハティブさん(45)の家族9人は、地震で住宅が壊れ、ここに避難しました。

テント支給の手続きをしましたが、いまだに届かないため、ひもでじゅうたんをつるして、間仕切りとして使っています。

しかし、屋根のように覆うものがなく、寒さをしのげないうえプライバシーも守られない状態だといいます。

アミラさんは、「食べ物も飲み物も支援してもらっていますが、今、最も必要なのはテントです。この状態では、昼も夜も人目にさらされてしまいます」と訴えていました。

高校生の娘アヤさん(18)は、「ここでは寒すぎて眠れません。高校の校舎が壊れて、先生たちが亡くなり、授業を受けられなくなってしまいました。今は、ただ助けを待つことしかできず、とても悲しいです」と話していました。

ヨーロッパ復興開発銀行 トルコのGDP最大1%失われる可能性

ヨーロッパ復興開発銀行は16日、トルコ南部のシリア国境近くで発生した大地震の影響で、トルコのことしのGDP=国内総生産が最大1%失われる可能性があるという見方を示しました。

インフラやサプライチェーンへの打撃については復興の努力によって、軽減されるとしています。

ロイター通信の取材に対して、ヨーロッパ復興開発銀行のチーフエコノミストは、「今回の地震により、農業と軽工業が大きな影響を受けたが、他の分野への波及は限られる」と分析しています。

地震発生から248時間 17歳の女性を救出

トルコでは、地震発生から1週間以上がたつ中でも、がれきの下から生存者の救出が続いています。

ロイター通信は現地メディアなどの話として、トルコ南部のカフラマンマラシュで16日、17歳の女性が地震発生から248時間ぶりに救出されたと伝えました。

現場で撮影されたとする映像では救出された女性が救助隊員たちに囲まれる中、点滴を受けながら搬送される様子が確認できます。

またAP通信は、救助された17歳の女性が、搬送先の病院で取材に応じる様子を伝えていて、女性は記者に体調を尋ねられると「私は大丈夫です。ありがとう」と答えていました。また、がれきの下でどのように過ごしたのか問われると「何も持っていなかったので、ただ時間が過ぎるのを待っていました」と話していました。

懸命の捜索活動「まだ生きていると願って」

トルコの都市部の被災地では倒壊した建物のがれきを撤去する作業が進められています。大きな被害を受けた南部カフラマンマラシュの中心部では16日、建設用の大型機械ががれきの山を崩し、トラックの荷台に次々と積み込んでいました。

住宅が崩れた多くの場所では取り残された人たちの捜索や救出の活動が日増しに困難となる中でも、いくつかの場所では懸命の捜索活動が続けられていました。

10階建てのマンションが崩れた場所では、生後1か月の赤ちゃんと母親、それに赤ちゃんの祖母の合わせて3人が取り残されているとみられていて、地震発生から6日目にはがれきの中から音が聞こえたということです。

3人の親戚にあたる34歳の男性は「救助隊からは彼らは生きていると聞きました。時々、信じる気持ちを失いかけますが、まだ生きていると願っています。赤ん坊は懸命に生きようとしているはずです。彼らを連れて帰るまでここを離れません」と涙を浮かべながら話していました。