フィリピンから容疑者4人送還完了 広域強盗事件捜査本格化へ

一連の広域強盗事件で指示を出していた疑いがあり、フィリピンから日本に送還された2人について、警視庁は9日、特殊詐欺事件に関与した疑いで逮捕しました。これで4人全員の送還が完了し、警視庁は特殊詐欺グループの実態解明や強盗事件との関連を捜査するとともに、ほかにも複数のメンバーがフィリピンに残っていることから、引き続き身柄の送還を求めていくことにしています。

逮捕されたのは、9日にフィリピンから送還された渡邉優樹容疑者(38)と小島智信容疑者(45)です。

2人は、2019年、金融庁の職員などを装って都内の男性に電話をかけ、銀行口座が不正に扱われているなどと言ってキャッシュカードを盗んだ窃盗の疑いが持たれています。警視庁は2人の認否を明らかにしていません。

警視庁によりますと、渡邉容疑者はグループの首謀者、小島容疑者はだまし取った金の回収や管理を担当する幹部で、おととい逮捕された今村磨人容疑者(38)と藤田聖也容疑者(38)とともに、関わった特殊詐欺事件の被害額は60億円以上に上るということです。

これで4人全員の送還が完了し、警視庁は、携帯電話の解析を行うなどして特殊詐欺グループの実態解明や、一連の広域強盗事件との関連を捜査することにしています。

一方、警視庁によりますと、フィリピンには先月、現地当局に拘束された「かけ子」とみられる女など、特殊詐欺事件に関わった疑いで逮捕状が出ているメンバーがまだ残っているということです。

このため、フィリピン当局に容疑者の送還を引き続き求めていくとともに、ほかにもメンバーが潜伏しているとみて特定を進めることにしています。

小島容疑者は世田谷警察署へさらに移送

小島智信容疑者を乗せた警察車両は、渋谷警察署を出たあと、午後2時16分ごろに移送先の世田谷警察署に到着しました。小島容疑者は車から降りると、左右を見渡しながら、捜査員に連れられて署内に入っていきました。

警察庁長官「全容解明に向けて捜査を強力に推進」

警察庁の露木康浩長官は9日の記者会見で、一連の広域強盗事件で指示を出していた疑いのある4人全員がフィリピンから送還されたことについて「4人を逮捕してスマートフォンなどの証拠品を押収したのは捜査上大きな前進だ。強盗や窃盗などの関与を含め全容解明に向けて捜査を強力に推進したい」と述べました。

フィリピン司法相「監視態勢の強化や組織改革取り組む」

レムリア司法相は9日、首都マニラでNHKの単独インタビューに応じました。このなかでレムリア司法相は、今回の送還について「届けるべきものを届けることができてほっとしている」と述べ、マルコス大統領の訪日が迫る中、フィリピン政府としても早期に解決したかったことを明らかにしました。

その上で「日本側の要請から11日で、最初の2人を送還することができた。これは成果だ」と述べ、今後、同様の事案が起きた際に適切に対処していく考えを示しました。

一方、今回送還された4人は、収容施設の中で携帯電話などを使って一連の広域強盗事件の実行役に指示を出していた疑いがあり、施設の管理に問題があったと指摘されています。施設の職員が収容者から賄賂を受け取って携帯電話などを自由に使わせていた疑いもあり、フィリピン政府は施設の所長を更迭する事態に発展しました。これについてレムリア司法相は「今回の件は私たちにとっての警鐘だ。理想的な形を自分たちで作る努力が必要で、課題はあるが、組織を近代化させ、3年で全く違うものにしたい」と述べ、フィリピンが犯罪の拠点とならないよう、監視態勢の強化や組織改革などに取り組む考えを示しました。

渡邉優樹容疑者とは

渡邉優樹容疑者は1984年生まれの38歳。同級生などによりますと北海道東部、別海町の小、中学校と中標津町の高校を卒業し、高校まで一貫して剣道に打ち込み、周囲の評判もよく後輩からも憧れられる存在だったといいます。

高校の同級生の女性は「明るくて、部活動をすごく一生懸命やっていると聞いたことがあります」と話します。

高校卒業後はみずからを学生だとしながら札幌の繁華街、ススキノで客引きを行うようになりました。

当時、一緒に客引きをしていたという男性は「人当たりがよく、客をどんどん連れてきていた。出身地やおいしい飲食店の話題などで会話を盛り上げてお客さんを帰らせない。口がうまく、優秀な客引きだった」と証言します。

複数の関係者によりますと渡邉容疑者はその後、20歳前後でススキノで女性が接待する飲食店を経営するようになり、ほかにも別の飲食店の経営や不動産業、オンライン上で女性と会話できるサービスなど複数の事業を行っていたということです。

一緒に客引きをしていた男性は渡邉容疑者は次第に高級外車に乗って高級なスーツや腕時計を身につけるようになったということで「どんな仕事してもうけているのか聞いても、いつも『いやいや』とはぐらかしていたので悪いことをしているのではないかと疑っていた」と述べました。

渡邉容疑者から事業をもちかけられたという別の男性は「『何かいい話ないか』『もうけ話はないか』などと聞かれた。お金もうけにすごく興味がありいろいろ提案する。オレオレ詐欺などについても『うまくいくと思う』という趣旨の話をしていた」と証言します。

その後、渡邉容疑者はフィリピンに渡り、特殊詐欺グループの拠点を作って「かけ子」などに日本に電話をさせてカネをだまし取る詐欺を繰り返していたとみられています。

首都マニラのホテルに併設されたカジノで渡邉容疑者に会ったという男性は一緒にいた知人からVIP席にいた「ハオ」と呼ばれる渡邉容疑者を紹介されたといいます。

男性は「友達から誘われて遊びに行ったときに『すごいお金を使う日本人がいる』ということで、VIPの人が遊ぶところで会った。バカラなどに1回に200万円とか300万円賭けていた。かばんの中に現金を日本円で何百万円か入れていた」と話しました。

さらに渡邉容疑者と一緒に食事をした際、詐欺をやって月に1億円は稼いでいるとか、別の国で同じことをやっていたが賄賂を渡せば捕まらないのでフィリピンに来たという趣旨の話をしていたということです。

その後、2019年に振り込め詐欺の電話をかけていたグループの拠点がマニラで摘発され、その場にいた日本人36人の身柄が拘束されましたが首謀者とされる渡邉容疑者ら一部のメンバーは現地に残ったままでした。

そして、フィリピンの入管当局に身柄を拘束されたあとも収容されている入管施設の中でスマートフォンを使って外部と連絡を取り続け、一連の広域強盗事件で指示をしていた疑いが持たれています。

小島智信容疑者とは

小島智信容疑者は1977年生まれの45歳。渡邉容疑者など今回逮捕された3人と同様、幼少期は北海道にいたとみられています。

2010年ごろから数年の間に何度か顔を合わせて1対1で話をしたことがあるという男性は、職業は自営業でさいたま市内に住んでいると伝えられていたということです。

当時の印象について男性は「見た目は一般の方ではないと分かる感じだし、平日に時間が自由に使えるようだった。ただ、粗暴なことは一切なかった。車がとにかく好きで、3000万円くらいするような車に乗っていたこともあった。金に困っている様子は全くなかった」と話していました。

一方、小島容疑者が切迫した様子で電話をしているのを目撃したことがあり、その際は、北海道にある事務所が摘発されたという話をしているように聞こえたということです。

また、小島容疑者が首や腕に包帯を巻いた状態で姿を見せたこともあるといい「飲食店でもめたようだが、自分からは手は出さないと言っていた。殴られるだけ殴られて病院で診断書をもらい、店のオーナーなどにお金をもらっていたなどと聞いた」と話していました。

男性は「自分が知っているかぎり、彼は強盗や殺人を指示するような仕事はしないと思う。このような報道があって正直驚いている」と話していました。

小島容疑者はその後フィリピンに渡ったとみられ、渡邉容疑者らとともに特殊詐欺に関わっていた疑いがあり、フィリピンの入管当局に身柄を拘束されていました。

《収容施設出発から渋谷警察署到着までを時系列で》

8日 22:15ごろ 容疑者2人 マニラの収容施設を出発

渡邉容疑者と小島容疑者の2人を乗せたとみられる車が、日本時間午後10時15分ごろ、マニラにあるビクタン収容施設を出発し、マニラ国際空港に向かいました。

フィリピンの入国管理局 収容施設で撮影した写真を提供

フィリピンの入国管理局は8日、ビクタン収容施設で撮影した渡邉優樹容疑者と小島智信容疑者の写真を報道機関に提供しました。

写真では2人の容疑者がベンチに座り、向かって左が渡邉容疑者で、右が小島容疑者だということです。

2人とも防弾チョッキのようなものを身に着け、マスクをつけていて、渡邉容疑者は黒いフードを被り、小島容疑者は髪を結んでいるのが確認できます。

8日 22:40すぎ 容疑者2人 マニラ国際空港に到着

渡邉容疑者と小島容疑者の2人が、日本時間の午後10時40分すぎ、マニラ国際空港に到着しました。

9日 00:20すぎ マニラ国際空港で航空機に乗り込む

マニラ国際空港では、日本時間の9日午前0時20分すぎに白いマスクをつけて黒いフードをかぶった渡邉容疑者と、白いマスクをつけた小島容疑者が、それぞれ複数の捜査員に連れられて階段をのぼり、航空機に乗り込む姿が確認されました。

9日 00:55 日本に向けてマニラ国際空港を出発

渡邉容疑者と小島容疑者の2人を乗せた航空機が日本時間の9日午前0時55分、日本に向けてマニラ国際空港を出発しました。

9日 02:20ごろ 渡邉容疑者と小島容疑者を機内で逮捕

渡邉優樹容疑者と小島智信容疑者の2人について、警視庁は、移送中の航空機内で、日本時間の9日午前2時20分ごろ、特殊詐欺事件に関与した窃盗の疑いで逮捕しました。

9日 04:47ごろ 羽田空港に航空機が着陸

9日午前4時47分ごろ、羽田空港に渡邉優樹容疑者と小島智信容疑者を乗せた航空機が着陸しました。

9日 04:56ごろ 容疑者2人 羽田空港に到着

渡邉優樹容疑者と小島智信容疑者の2人が午前4時56分ごろ、羽田空港に到着しました。

機内での容疑者2人の様子は

渡邉容疑者と小島容疑者が乗った航空機には現地で取材にあたっていたNHKの記者も同乗し、帰国しました。
2人はマニラの空港に到着後、一般の乗客とは別に航空機にかけられた階段を使ってほかの乗客よりも先に搭乗しました。

記者が乗り込んだ際には機内の最後尾の席3列ほどが緑色のカーテンで囲まれていました。
日本時間の9日午前1時20分ごろに離陸した時にカーテンが外され、そのとき初めて容疑者2人の様子を見ることができました。

小島容疑者は最後尾の列の3人掛けの席の中央に、渡邉容疑者がそのひとつ前の席にそれぞれ両隣をスーツを着た捜査員に挟まれる形で座っていました。

2人は座席に深く腰をかけ、まっすぐ前を向いて座っていました。

シートベルト着用のサインが消え、近くまで寄ると渡邉容疑者は黒いフードを頭からかぶり、前の座席のモニターに突っ伏すような体勢を取り、小島容疑者はまわりをキョロキョロと見回したあと、記者の目をじっと見つめ返してきました。

その後、再びカーテンが引かれて中の様子が見えなくなりました。

そして、離陸から1時間ほどがたった日本時間の午前2時18分に、日本の領空内に入ったことを操縦室から客室乗務員に連絡があり、捜査員に伝えていました。

その後、カーテンの中では捜査員が立ち上がって動いているような様子が確認できました。容疑者2人が逮捕されたものとみられます。

その後、機内食が提供されました。メニューは一般の客と同じくフィリピン風の豚の角煮でした。
この際、捜査員がカーテンの中に水の入ったコップを持って行く様子も確認できました。スプーンやフォークなどは通常は金属製ですが安全を考慮してプラスチック製のものが提供されたということです。

着陸時にもう一度、カーテンが外されると、渡邉容疑者はずっと下を向いて顔を上げませんでした。小島容疑者は背もたれに頭を付けて深く座り記者の顔を見ていました。

空港に到着すると記者を含め一般の乗客は先に降り、2人は捜査員に囲まれ最後に機内を出ました。

9日 05:22ごろ 羽田空港のターミナル内に

羽田空港に到着した航空機から渡邉容疑者と小島容疑者が空港のターミナル内に出てきました。

ほかの乗客が全員降りたあと、多くの捜査員が取り囲む中、渡邉容疑者は黒いパーカーのフードを深くかぶり、伏し目がちでうつむきながら歩いていました。
そして、小島容疑者は渡邉容疑者の少し後ろをうつむきながら捜査員に取り囲まれて空港内を移動していました。

9日 06:12ごろ 渋谷警察署に到着

渡邉容疑者と小島容疑者は9日午前5時41分に羽田空港を出発し、9日午前6時12分ごろ渋谷警察署に到着しました。
2人はそれぞれ警視庁の車両に乗せられ、渡邉容疑者は黒いパーカーのフードを深くかぶり警察署に入る直前に下を向き、表情は確認できませんでした。
小島容疑者は、目をつむっていました。