【動画】“絶滅危機” ジュゴン その姿を追う 沖縄 伊良部島

人魚のモデルと言われ、絶滅の危険性が極めて高いと指摘されているジュゴンのDNAが沖縄の伊良部島沿岸で見つかった動物のふんから検出されたことが専門家の分析でわかりました。専門家は「ジュゴンが生息していることを示す確かな証拠となる非常に重要な発見だ」と指摘しています。

インド洋から太平洋の暖かい海域に生息するジュゴンは、日本では沖縄周辺の海にわずかしか生息していないとみられていて、環境省の「レッドリスト」で絶滅の危険性が極めて高い種に分類されています。

NHKは沖縄県の伊良部島の周辺の海で、地元の男性がジュゴンとみられる生物の写真をドローンで撮影したことから、ジュゴンの生息を確認するため大学や研究機関と共同で調査を行いました。
調査はことし8月から今月上旬まで行われ、ジュゴンが海草を食べたとみられる痕跡の周辺に高感度の水中カメラや水中マイクなどを取り付けました。

さらに、ジュゴンを呼び寄せるためジュゴンの模型やジュゴンの鳴き声を流すスピーカーも設置しました。

その結果、ジュゴンが海草を食べる際に出る「摂餌音(せつじおん)」とみられる音が、水中マイクに残されていたほか、大型の草食動物のふんが見つかりました。

ふんは11の地点で30個ほど見つかり、共同で調査を行った沖縄県環境科学センターが分析したところ、このうち4地点のふんからジュゴンのDNAが検出されたということです。

伊良部島を含む宮古諸島でジュゴンが捕獲された記録は1960年代が最後で、それ以降でジュゴンの生息を裏付ける直接的な証拠が確認されたのは初めてだということです。

調査のきっかけは…

今回の調査のきっかけになったのは、沖縄県伊良部島の周辺の海でジュゴンとみられる生物の写真が撮影されたことでした。

写真は伊良部島に住む男性が、船で漁に向かう途中でジュゴンのような生物を見かけたことから、その姿を捉えようとおととし9月、ドローンを飛ばして撮影したということです。

写真は日没の少し前に撮影され、1頭で悠然と海を泳ぐ白い海洋生物の姿が写っています。
撮影した吉浜崇浩さんは、「最初はサメがウミガメを襲っていると思いましたが、かまずに抱きかかえるしぐさをしたので、驚いて写真を撮りました。あとで写真を見返すと背びれがなくて、ジュゴンじゃないかと思いました」と話しています。
ジュゴンの生態に詳しい京都大学の市川光太郎 准教授にこの写真を分析してもらったところ、色や形、撮影場所などからジュゴンの可能性が高いと指摘しています。

“ジュゴン生息の北限” 沖縄周辺の海域

人魚のモデルと言われるジュゴンは、インド洋から太平洋の暖かい海域に生息する哺乳類で、沖縄周辺の海域が世界的な分布の北限とされています。

日本では明治時代には奄美大島から八重山諸島にかけて広く分布していましたが、乱獲などの影響で現在は沖縄周辺にわずかしか生息していないとみられていて、環境省の「レッドリスト」で絶滅の危険性が極めて高い種に分類されています。

三重県の鳥羽水族館では、フィリピンで調査中だったスタッフが保護したジュゴンを「セレナ」と名付けて飼育しています。

「セレナ」は国内で唯一飼育されているジュゴンで、多くの人たちがその姿を見るために訪れ、人気を集めています。
沖縄県周辺の海ではジュゴンが海草を食べた際にできる筋状の痕跡は見つかっていますが、ここ最近はジュゴンの姿を捉えた映像などは確認されていません。

沖縄県が去年6月から11月にかけて沖縄本島や周辺の3つの海域でジュゴンの生息状況を調べたところ、伊是名島周辺の海域でジュゴンが海草を食べたとみられる痕跡が見つかりました。

また、環境省が去年9月からことし2月にかけて行った調査では、宮古島市の池間島の周辺で痕跡が初めて確認されました。

このほか、竹富町の西表島や宮古島市の伊良部島などの周辺海域でも同じような痕跡が確認されたということです。
一方、2014年にはNHKのヘリコプターが沖縄本島北部の沿岸でジュゴンを撮影したほか、防衛省の調査でも2018年までは姿が確認されましたが、ここ最近はジュゴンの姿を捉えた映像などは確認されていません。
今回の調の結果について、沖縄県環境科学センター総合環境研究所の小澤宏之所長は「ジュゴンの生息を確実にする証拠が得られたということでジュゴンの存続を考える上で非常に重要な発見になる」と指摘しています。