いつもの薬がない…なぜ?いつまで続く?ジェネリック供給不足

薬局の窓口で薬を受け取ろうとしたら「その薬、不足していまして…」「出荷調整中で…」。こうした状況が、もう1年以上も続いています。

おととし以降相次いで発覚したジェネリック医薬品メーカーの不正をきっかけに、かつてない規模の医薬品供給不足が続き、5日の業界団体の発表では医薬品全体の3割近くに及んでいるということです。

どんな薬が不足し、いつまで続くのか。専門家の取材も交えて詳しくまとめました。

どんな薬が どのくらい不足している?

ことし8月末時点の医療用医薬品の供給状況について、製薬会社でつくる「日本製薬団体連合会」が調査を行い、223社から回答を得ました。その結果、調査対象の1万5036品目のうち出荷停止や出荷調整が行われていたのは全体の28.2%にあたる4234品目で去年より7.8ポイント増加しました。
内訳は、▽「後発医薬品」41% 11.6ポイント↑(去年:29.4%)▽「先発医薬品」6.4% 2ポイント↑(去年:4.4%)▽「その他医薬品」11.9% 6.8ポイント↑(去年:5.1%)。

また、日本製薬団体連合会は医薬品の販売・供給の状況について製薬会社に定期的に報告を求めていて結果をホームページで公表しています。

それによりますと、ことし8月末の時点で手に入りにくい状況が続いている薬は▽アトピー▽じんましん▽高血圧▽狭心症▽リウマチ▽うつ病▽気管支炎の薬などで、このほか解熱鎮痛薬やかぜ薬も含まれています。

供給不足 そもそもなぜ起きた?

きっかけは、2020年末に発覚した福井県のジェネリック医薬品メーカー「小林化工」の不正です。
水虫などの真菌症の治療薬に睡眠導入剤の成分が混入し、全国各地の240人以上に健康被害が出たほか、国が承認していない工程での製造などの不正を長年にわたり組織的に隠蔽し続けていたことなど悪質な実態が明らかになりました。

こうした医薬品への信頼を根底から覆す事態を受け、全国の都道府県が事前の通告なしで立ち入り調査を行うなど査察が強化され、メーカーによる自主点検も行われました。
こうした中、ジェネリック大手3社の1つ「日医工」(富山)をはじめ、各地のメーカーで製造工程の問題が見つかり、相次いで業務停止命令や業務改善命令の行政処分が出されるなどして幅広い種類の医薬品の出荷が次々に止まりました。

なぜ去年より供給への影響が悪化?

日本製薬団体連合会や専門家に取材すると、ことしも製薬会社への業務停止命令などの行政処分が相次いだことが関係しているとの指摘が出ています。

小林加工の問題発覚以降、処分を受けたのは全国の13社に上り、去年が8社、ことしもこれまでに5社に上ります。

ことし9月には石川県のメーカーに業務改善命令、11月には富山県のメーカーに業務停止命令が出されるなど影響が続いています。
日本製薬団体連合会の安定確保委員会の土屋直和委員長は会見で「行政処分を受けて出荷できなくなった業者の薬の数が去年よりさらに増えたことが増加の背景にあるのではないか。少しでも早く改善するよう対策を進めていきたい」と述べました。
医薬品問題に詳しい神奈川県立保健福祉大学大学院の坂巻弘之教授にもこの点について見方を聞きました。
(坂巻弘之教授)
「供給状況の悪化には驚きとともに怒りを感じている。去年以降、業務停止の処分を受けた企業が相次いだことで、ほかの企業への発注が集中し結果的に業界全体の出荷状況が滞ってしまってるのではないか」

出荷調整がほかのメーカーにも広がっていく理由については。

「行政処分を受けることによってその会社の薬が出荷されなくなりますが、医療全体でのニーズは変わりませんからその分のしわ寄せがほかの会社に行くことになります。ところがその会社も年間の製造計画を緻密に作っていて、自社に注文が殺到したとしてもすぐに対応できるわけじゃない。逆にその注文が増えてしまうことによって「出荷調整」が起きて、連鎖的に出荷調整が続くとこういうような状況が今起きているわけです」

薬局ではどう対応?

各地の薬局では、必要な薬が十分に手に入らない状況が続く中、対応に追われています。

地元の人を中心に1日100人あまりが訪れる東京・西東京市の「小田薬局」では、医薬品メーカーの製造上の問題や不正が相次いで発覚して以降、内服薬を中心に多くの薬が十分に手に入らない状況が続いています。

薬剤師の小野啓一郎さんには、ちょうど1年前の去年12月にも薬の不足状況を取材させていただきましたが、今回あらためてその後どうなっているかを取材しました。
(薬剤師 小野啓一郎さん)
「少しずつ悪くなってきているという感じがあります」

小野さんの薬局では約1700品目の医薬品を取り扱っていますが、今は去年より100品目ほど多い約300品目の薬が十分に手に入らない状態だということで、患者に対して在庫があるほかの薬局へ行ってもらうよう紹介せざるをえないこともあるということです。
さらにことしは新型コロナの感染拡大で需要が高まった解熱鎮痛薬「カロナール」の出荷量が調整されるなどの影響もあり、この薬局ではいわゆる「かぜ薬」の供給も不安定な状況が続いているということです。

薬局ではこれまで薬の在庫はパソコン上のシステムで管理し在庫が減った場合は自動で発注していましたが、今は薬の出荷状況がわからないものも多いため、薬剤師が直接在庫を確認したり薬の需要を予測したりして発注の数や時期を決めているということです。
(薬剤師 小野啓一郎さん)
「前はだいたい半日もあれば卸売業者に発注して薬が手に入っていたんですけど、今は1週間や2週間待たないと入らなくなってきていて、状況の把握や薬の在庫の管理が大変です。患者にとってもストレスになると思うので、もう本当に前の状態に戻ってもらいたいのが願いです」

いつ解消される?

医薬品問題に詳しい神奈川県立保健福祉大学大学院の坂巻弘之教授はまだ2,3年かかるとする見通しを示しています。

「問題があった企業の製造手順などを改善するためには今後、国なども協力しなければならず日本の薬の製造のキャパシティーも考えるとあと2年、長ければ3年くらいかかるのではないか。その間、医療関係者や患者は不安を感じるので、製薬会社はそのことを十分認識して対応を急ぐ必要がある。また、今後に向けては医薬品の安定供給についてのさまざまなリスクをあらかじめ分析してどのような対策を取っておくべきか考えておく必要がある。そういう時代に来ているという共通の認識を持つことが重要だと思っています」