日本企業 生産拠点“国内回帰”の動き相次ぐ めんたいこ老舗も

円安や海外の人件費高騰に伴い日本企業の間で相次ぐ“国内回帰”の動きです。
博多名物のめんたいこを製造・販売する福岡の老舗企業が、およそ40年にわたってアジアで行ってきた生産の一部の工程を、国内に移管することを決め、生産拠点を国内に戻す動きは、食品関連も含め、幅広い業種に広がっています。

福岡市に本社を置く創業48年の「やまやコミュニケーションズ」は、めんたいこなど加工食品の製造や販売を手がけていますが、原料のスケソウダラの卵を塩漬けにする工程はベトナムの企業に委託しています。
日本で年間およそ3万トン近く消費されるめんたいこ。

実は原料となる「スケソウダラ」の卵の産地はほとんどが外国産です。

業界団体の「全国辛子めんたいこ食品公正取引協議会」は、「スケソウダラ」の卵の産地について、ロシア産が50%から60%、アメリカ産が30%から40%、日本産が5%から10%だとしています。

「やまやコミュニケーションズ」では、主にロシア産のスケソウダラを原料に使っているということです。

スケソウダラの漁場はロシアとアメリカに挟まれるベーリング海で、漁船の中で加工した卵は冷凍保存されて韓国のプサン(釜山)港に運ばれます。

「やまや」では、この卵をプサン港からベトナムに輸送し、生産を委託している現地の工場でいったん塩漬けのたらこにしたあと、日本に運んで、めんたいこに加工し、販売しています。
しかし、経済成長が著しいベトナムで賃金の上昇が続いていることに加え、円安が進んだことも相まって、現地で生産を始めた2014年と比較すると人件費は3倍以上に膨らんでいるということです。

このため、国内販売分の生産を、来年4月に福岡県篠栗町に新設する自動化システムを備えた工場に移管することを決めました。

コロナ禍で起きた世界的な物流の混乱で、加工品の納入が遅れるリスクに直面したことも、今回の判断を後押ししたということです。

会社はおよそ40年にわたって、韓国から中国、そしてベトナムへと生産拠点を移してきましたが、今後、日本で販売する商品はすべて国内で生産する方針です。
やまやコミュニケーションズの山本正秀社長は「多くの食品会社が人件費の安さを求めて海外生産をしてきたが、人件費の差は20年で縮まってきた。コロナ禍で輸送が止まるリスクもあり、国内生産に切り替える会社が増えていくと思う」と話しています。

“国内回帰”の動き 経産省も補助金で支援

日本企業の間では、円安などに伴う海外での製造コストの上昇やコロナ禍でのサプライチェーンの混乱を受けて、生産拠点を国内に戻す“国内回帰”の動きが相次いでいます。

このうち、産業用ロボット大手の「安川電機」は、空調機器などの部品の供給が滞るリスクを避けるため、福岡県内に新たな工場を建設し、国産の比率を現在の倍に引き上げる方針です。

また、音響機器メーカーの「JVCケンウッド」は、インドネシアで製造していた国内向けのカーナビの生産を、ことしから長野県の工場に移しています。

生活用品メーカーの「アイリスオーヤマ」も、中国で生産しているおよそ50種類の製品について、国内の工場に生産を移すことを決めました。

さらに、アパレルメーカーの「ワールド」は、アジアなどでの人件費の高騰や物流コストの上昇を受けて、デパート向けの高価格帯の商品の生産を国内の工場に切り替えることにしています。

こうした動きを後押ししようと、経済産業省もサプライチェーンの強じん化のために、国内に生産拠点を整備する企業を補助金で支援しています。

コロナ禍でのサプライチェーンの混乱や、円安などに伴う海外での製造コストの上昇、それに経済安全保障の問題など、さまざまな課題に直面する中で、日本企業の間で生産拠点やサプライチェーンを見直す動きが相次いでいます。