新たなスキル習得目指す「リスキリング」企業などで関心高まる

新たな職業に就いたり、成長が見込める社内の別の部署に移ったりするために必要なスキルを身につける「リスキリング」。政府が強く推進する方針を打ち出したこともあって、各地でセミナーが開かれるなど関心が高まっています。

リスキリングは今の業務を続ける上での技術や能力を高める研修などとは異なり、新たな会社や社内の別の部署に移ることを前提に、デジタル技術など新たな価値を生み出すスキルを習得することです。

スキルを得た人材が成長分野に移れば、企業の収益力が高まり、賃金の上昇にもつながるとして、政府も強く推進していく方針で、今年度の補正予算案にも、リスキリングに取り組む企業への年間最大1億円の助成金の創設などを盛り込みました。

こうした中、各地でリスキリングのセミナーなどが盛んに開かれています。

社会人が多く学ぶ東京・品川区の産業技術大学院大学でも、今月からリスキリングの新たな講座がスタートしました。

6回の講義や実習を通じてデジタル技術を学ぶもので、社会人10人余りが参加しています。

初回の講義では、講師から、今後、ものづくりの現場ではITやデジタルの技術を駆使できる人材が求められると、リスキリングの意義が説明されました。

そして、商品の広告には、書類やカタログに加えて、商品の特徴や魅力を効率的でわかりやすく伝えられる動画の活用が求められるとして、スマートフォンで撮影した動画をパソコン上で編集する作業に取り組みました。

電機メーカーで働く20代の男性は「文系の学部を卒業し、家電の広告を担当していましたが、新しいスキルを身につけて、ものづくりなどにも関わりたいと思います」と話していました。

看護学校の60代の女性教員は「看護の分野もデジタル化が必要ですが、まだまだ遅れていています。看護にロボットを導入したいと考えていて、その開発に携わりたいと参加しました」と話していました。

名古屋市の印刷会社では

社員のリスキリングに力を入れ、業務を成長分野にシフトさせることで売り上げを伸ばそうという企業もあります。

名古屋市の印刷会社、「西川コミュニケーションズ」は明治時代の創業以来、電話帳やカタログなど紙の印刷事業を続けていますが、ペーパーレスが進むなど会社を取り巻く環境は大きく変わっています。

そこで、5年ほど前から力を入れているのが、社員のリスキリングです。

業務時間の2割までを社内外の勉強会や「eラーニング」などに充てることを認め、教材の購入やセミナーへの参加費用も会社が負担して、特にデジタル技術の習得を促します。

社員の國田圭佑さんは(31)入社以降、研究職として紙の粘着テープの製造にあたってきましたが、会社の制度を利用して、「ITパスポート」などデジタル関連の資格を複数、取得しました。

今はAIエンジニアとして働いていて、大量の画像データをAIに読み込ませ、顔の表情や髪型、背景を指示して画像を作成したり、写真を加工したりする「画像生成AI」と呼ばれる分野を研究しています。

これを発展させればモデルやカメラマンがいなくても、実際に撮影したような鮮明なポスターやWEB広告を作り出せるということで、今後の成長分野として期待されています。
國田さんは「入社当初は、毎日、粘着剤にまみれながら研究していたが、今後、数十年が経過したときに自分の仕事はあるのかと疑問に思った。AI分野は非常に発展が早く大変だが、いろいろな技術が出てくる楽しい分野で充実している」と話していました。

会社では、顧客の企業が出している広告が売り上げにどう影響しているかをAIで分析して提供するマーケティング事業など、すでにデジタル分野へのシフトを進めていて、10年前は売り上げのほとんどが印刷事業でしたが、現在はデジタル事業が半分ほどを占めているということです。
人事責任者の神谷昌宏さんは「紙の媒体が減るなかで、何に取り組めるかを考えたときに必要だったのが新しい事業領域の開発で、そのために学び直しを進めてきた。デジタル領域に取り組まないと現状維持すらできないので必死にやっていく必要がある」と話していました。

専門家「中小企業での加速が重要」

今後、リスキリングは広がっていくのか、リクルートワークス研究所の大嶋寧子主任研究員に聞きました。

この中で大嶋主任研究員は「学習コンテンツをそろえるだけではリスキリングは進まない。学んだことがどこで役に立つのか、どのように評価されるのか、そのために何を学ぶべきかがそろっていることが前提で、従業員が納得して取り組めるような環境を作ることが重要だ」と指摘しています。

そのうえで、「7割の人が働いている中小企業でのリスキリングを加速していくことが重要なポイントだ。ただ、中小企業がどのようにリスキリングをすればよいのかという情報が日本全体に不足している。国と地方自治体、経営者団体が連携して、ノウハウを全国に展開することが大事だ」と強調しています。