韓国転倒事故 日本人2人含む154人死亡 安全対策不十分の指摘も

29日、韓国ソウルの繁華街のイテウォン(梨泰院)で、ハロウィーンを前に大勢の若者が折り重なるようにして倒れた事故では、日本人女性2人を含む154人が死亡しました。韓国メディアのあいだでは行政の事前の安全対策が不十分だったのではないかとの指摘が出ています。

ソウルの繁華街イテウォンで29日の夜、大勢の人が折り重なるようにして倒れた事故では、警察の集計でこれまでに154人が死亡したことが確認されました。

日本政府によりますと、この中には10代と20代の日本人の女性、合わせて2人が含まれているということです。

このほか、130人余りがけがをしたということです。
事故が起きた現場では、当時、ハロウィーンを前に仮装などをした若者が狭い路地に密集していて、大勢の人が坂の上の方から次々と折り重なるように倒れていったとみられています。

これについて韓国メディアのあいだでは、およそ10万人がイテウォンを訪れたともされるなかで、行政の事前の安全対策が不十分だったのではないかとの指摘が出ています。

この地区を管轄するヨンサン(龍山)区は事前にハロウィーンに関する対策会議を開いたものの、事故を想定した安全管理対策が議論された様子は確認できなかったと伝えています。

また、区が職員を現場付近に派遣していたものの、人数が足りず十分な対応ができなかったとしています。
警察は事故の経緯や原因を捜査するとともに、行政が事故を防ぐための措置を事前に取ったのかどうかも調べる方針です。

現場にいた男性「転んだら死ぬのではないかと思った」

現場付近でYouTubeの配信をしていた、ソウル在住の50代の日本人男性の動画を見ると、事故が起きる2時間ほど前の現場では、混雑しているものの路地を人が行き交う様子が見られます。

しかし、事故の1時間ほど前に現場から20メートルほど離れた別の路地の様子を撮影した映像には、身動きがとれないほど混雑した様子が映されています。

その時の様子について男性は「女性が悲鳴を上げていたほか、外国人男性が『後ろにさがれ』と英語で叫びだして、周囲の人は危険を感じたようだった。後ろに戻ろうとする人と、何が起きているか分からずに前に進もうとする人たちの間に挟まれて、ろっ骨や内臓が痛くなるほど圧迫され、転んだら死ぬのではないかと思った」と話していました。

配信した動画の中で男性は「将棋倒しの危険性がある」と現場の様子を話していました。

事故について、男性は「10代や20代の若者はことしのハロウィーンを楽しみにしていて、私がカメラを向けるとにこやかに反応してくれたり踊ってくれたりする人もいた。そういう人たちが事故に巻き込まれたかもしれないと考えると、ことばにならずやるせない気持ちです」としたうえで、「現場周辺で交通整理や警備態勢はほとんど取られていなかった」と話していました。

現場にいた女性「『このままだとヤバイ』と感じた」

観光で韓国を訪れ、事故が起きた時、現場の路地の入り口付近にいたという20代の福岡市の女性は、当時の状況について「人が多すぎて身動きが取れず、前後左右から押されて息が苦しくて、汗だくで脱水症状のようになった。早く抜け出したいけれどどうしたらよいか分からず、死ぬかと思った。友人と『大丈夫?生きている?』と確認しあっていた」と当時を振り返りました。

当時、現場には歩行者を誘導する警備員などはいなかったということで「韓国語で『押すな、助けて、死ぬ』ということばが飛び交っていた。現場付近では多くの人が進みたい方向にそれぞれ進んでぐちゃぐちゃだった」と話していました。

また、事故が起きた瞬間については「すぐ目の前にいたけれど、人が多すぎて何も見えなかった。ただ、事故が起きるまでは少しずつ前に進んでいたが急に全く動かなくなって前から大声が聞こえた」と振り返りました。

女性と友人は身の危険を感じて路地とは逆方向に進んで抜け出すことができましたが、もみくちゃになる中で足にあざができたということです。

女性は「ちょっとでも気を緩めたら人の波に飲み込まれそうだったので壁づたいに歩いた。途中『このままだとヤバイ』と感じて路面沿いの店の入り口の腰ほどの柵によじ登って人の波の様子を確認しながら進んだ」と話していました。

女性は30日夜に帰国し「事故が起きた路地にもう少し近づいていて逃げ遅れていたらと思うと恐怖でいっぱいだし、多くの人が巻き込まれたことはとても悲しい」と話していました。

国連 事務総長「哀悼の意を表する」

国連のグテーレス事務総長は30日、報道官を通じて声明を出し「悲劇的な事故に深く悲しんでいる。遺族や韓国の政府・国民に対して哀悼の意を表するとともに、けがをした人の一日も早い回復を願う」と表明しました。