自転車の交通違反 取り締まり強化へ「警告」から「赤切符」も

自転車の悪質な交通違反について警視庁は、これまで「警告」にとどめていた違反にも刑事罰の対象となる交通切符、いわゆる「赤切符」を交付して検挙する方針を固めました。

信号無視など自転車の交通違反による事故が相次いでいることを受けたもので今月下旬にも取り締まりの強化に乗り出すことにしています。

違反となる項目や、自転車と自動車の取り締まり制度の違いなど詳しくお伝えします。

警視庁はこれまでも自転車の違反には、罰則を伴わない専用のカードを使って「警告」をし、特に悪質な違反には刑事罰の対象となる交通切符、いわゆる「赤切符」を交付して取締りを行ってきました。

しかし、依然として事故が相次いでいることから今月下旬にも取り締まりを強化する方針を固めました。

具体的には、
▽信号無視
▽一時不停止
▽右側通行
▽徐行せずに歩道を通行の
4項目のうち悪質な違反については、これまで「警告」にとどめていたケースでも今後は交通切符を交付して検挙するということです。

交通切符を交付されると検察庁に送られて刑事罰の対象として扱われるうえ、一定の期間内に繰り返し検挙された場合は、講習の受講が義務づけられています。

警視庁はこうした対策を通して自転車の適切な利用を促したい考えです。

自転車と自動車 取り締まり制度の違いは

自転車と自動車では交通違反の取り締まりの制度が異なります。

自動車の場合、悪質な違反には交通切符、いわゆる「赤切符」が交付されますが、比較的軽微な違反で取り締まりを受けると、「交通反則通告制度」に基づいていわゆる「青切符」が交付され、期限内に反則金を納付することになります。

自転車の場合も悪質な違反には「赤切符」が交付され、検察庁に送られることになり、都内では去年1年間に4300件余りが検挙されています。

自転車には自動車のような反則金の制度はありません。

取り締まりの多くは、罰則を伴わない専用のカードを使った「警告」を行っているのが現状で去年はおよそ33万件にのぼっています。

自転車が関係する事故 高止まり続く 重大事故も

警視庁によりますと、東京都内の交通事故の発生件数は過去20年余り減少傾向で、去年は2万7000件余りと、5年前と比べておよそ4800件少なくなっています。その一方で、自転車が関係する事故は高止まりが続いていて、去年は1万2000件余りと5年前より1600件余り増加し、全体に占める割合は増え続けています。

さらに、死亡・重傷事故の78%余りで自転車側に交通違反があったということです。

背景には、近年の健康志向に加えて、コロナ禍の移動手段としての人気やフードデリバリーの需要の高まりなどもあって自転車の利用者が増えていることが考えられるということです。

去年までの5年間に発生した自転車が関係する死亡・重傷事故2500件余りをみてみると、▽車との接触が半数以上のおよそ58%を占める一方、▽歩行者との接触事故も10%余りにあたる260件起きています。

このうち、去年発生した事故の78%余りで自転車側に信号無視や一時不停止などの交通違反があったということで、重大な事故につながったケースもあります。

去年4月には板橋区で横断歩道を歩いて渡っていた78歳の男性が、配達代行サービスの配達員の自転車にはねられて死亡しました。警視庁などによりますと、事故当時は夜間で、雨が降っていましたが、自転車のライトはついていなかったうえ、横断歩道の近くで減速せずに時速およそ20キロで走行していたということです。

また、去年12月の未明にも足立区で歩道を歩いていた75歳の男性がライトがついていない自転車と衝突して車道に転倒し、車にはねられて死亡する事故がありました。

自転車の事故 歩行者は頭に強い衝撃 実験映像からも

JAF=日本自動車連盟が行った自転車と歩行者の事故を想定した実験の映像からは、歩行者が頭などに強い衝撃を受けることが分かります。
実験は歩行者に見立てた人形に時速20キロの速さの自転車を正面から衝突させて行われました。
人形は衝突の反動で押し出されて腰から地面に倒れ、その後、頭を強く打っていました。
JAF東京支部の由水雅也さんは「歩行者は通常ヘルメットを着用していないので、自転車に衝突された場合、頭部に致命傷を負ってしまう可能性が高く、命に関わる重大な事故につながりかねない。自転車による事故の場合、その多くが交差点などでの出会いがしらの衝突なので、信号や一時停止など基本的な交通ルールを守ることで事故は減らすことができる。都内でも自転車の利用者は増えているので、ルールを守った運転を徹底してほしい」と話していました。

これまでもさまざまな対策

自転車の事故防止に向けてこれまでもさまざまな対策が取られてきました。

警視庁は、平成19年に自転車事故の減少に向けた「総合対策」を定め、自転車が安全に通行できる道路の整備や、安全教育などの促進、それに、指導取り締まりの強化を進めてきました。

これまでに駅前や幹線道路など特に事故の危険性が高い52地区62路線を「自転車指導啓発重点地区・路線」に指定し、取締りを集中的に行ったり自転車専用通行帯を優先して整備したりしています。

全国でも、平成27年に改正道路交通法が施行され、信号無視や酒酔い運転など特に危険な違反を「危険行為」として指定し、3年以内に2回以上取り締りを受けたり、事故を起こしたりした場合、講習の受講が義務づけられました。

こうした対策の一方で、都内では自転車の事故が依然として高止まりしていて、警視庁はさらに踏み込んだ対策で事故を減らしたい考えです。

都内では取り締まり強化を求める声も

近年の自転車の人気や交通違反の現状について、都内で聞きました。

このうち東京・港区のオフィス街では、早朝にスーツ姿で自転車に乗る人の姿が多く見られました。

28歳の会社員の男性は「妻が妊娠しているので、新型コロナに感染するリスクを考えて満員電車での移動は避けようと、数か月前から自転車で通勤するようになりました。通勤時間はこれまでとあまり変わりませんし、運動不足の解消にも役立つのでよいと思います」と話していました。

また、61歳の公務員の男性は「自分は若い頃から自転車で通勤していましたが、新型コロナの感染が拡大してから自転車を利用する人が増えたと感じています。満員電車に乗るよりも外の景色を見ながら通勤するほうが爽快感があります」と話していました。
その一方で、自転車の交通違反が相次いでいて、JR上野駅前では赤信号を無視して進んだり、歩道をスピードを出して走ったりしている自転車が複数見られました。

こうした違反について、1歳の娘をベビーカーに乗せて歩いていた40代の男性は「娘を連れて歩道を歩いていたとき、スピードを出して走ってきた自転車とぶつかりそうになったことがあります。歩道は本来、歩行者が優先だと思いますが、ベビーカーを押しているとすぐにはよけることができないので、こちらが道の脇に移動するようにしています」と話していました。

また、都内に住む82歳の男性は「2か月余り前に歩道を歩いていたところ、後ろから自転車に衝突されて転倒してしまい、左腕と頭を強く打ちました。骨折などの大きなけがには至りませんでしたが、今でもその事故が原因で定期的に病院に通っています。最近はスマートフォンを見ながら自転車に乗っている人などもたくさんみかけますが、大きな事故が起きてしまうので、警察にはしっかりと取り締まってほしいです」と話していました。

自転車団体「車の仲間という意識でルール守って」

交通ルールの啓発などに取り組む日本自転車普及協会の森下昌市郎さんは、自転車の交通違反が多い現状について、「新型コロナの感染拡大などの影響で自転車の利用者は都内でも増えていると考えられる。自転車は法律上『車両』にあたるが、免許は必要ないため、交通ルールをしっかりと学ぶ機会が少なく、特に都市部では左側通行などの基本的なルールを守っていない人が少なくないのが現状だ」と指摘しました。

そのうえで、「自転車は安全に利用すれば、適度な運動にもつながるとても便利で、最も身近な移動手段だ。その一方で、ひとたび事故が起きれば命に関わる危険性もあるので、利用する際は、自転車が車の仲間だという意識で交通ルールをしっかり守ってほしい」と話していました。