政府 再来年秋 健康保険証を廃止 マイナカード一体化発表

政府は、現在使われている健康保険証を2024年の秋に廃止し、マイナンバーカードへ一体化した形に切り替えると発表しました。
また、運転免許証との一体化の時期についても、当初予定していた2024年度末から前倒しする方針も示しました。

岸田総理大臣は13日、河野デジタル大臣や加藤厚生労働大臣、寺田総務大臣と、マイナンバーカードについて協議しました。
このあと、河野デジタル大臣が記者会見を開き「デジタル社会を新しく作っていくための、マイナンバーカードはいわばパスポートのような役割を果たすことになる」と述べ、2024年の秋に現在使われている健康保険証を廃止し、マイナンバーカードへ一体化した形に切り替えると発表しました。

政府は、廃止の時期が来てもマイナンバーカードを取得しない人などに対しては、働きかけを進めていくと同時に、何らかの対応を検討していくとしています。

一方、河野大臣は、運転免許証とマイナンバーカードの一体化の時期について、当初予定していた2024年度末から前倒しする方針も示しました。

また基本ソフトの「アンドロイド」を使う一部のスマートフォンで、来年5月からマイナンバーカードの機能を搭載し、オンラインで行政手続きが可能になるほか、民間事業者がマイナンバーカードで本人確認をする際に国に支払っている電子証明書の利用料を3年間、無料にすることを明らかにしました。

マイナンバーカードをめぐって政府は来年3月末までにほぼすべての国民に行き渡ることを目標としていますが、11日時点の申請枚数は、全国民の56%にとどまっていることから、普及率を高めたい考えです。

松野官房長官「よりよい医療 受けてもらうこと 可能に」

松野官房長官は、午後の記者会見で「マイナンバーカード1枚で医療機関を受診してもらうことで、健康・医療に関する多くのデータに基づいた、よりよい医療を受けてもらうことが可能となる。こうしたことから、マイナンバーカードと健康保険証の一体化を進めるため、再来年秋に保険証の廃止を目指すことにした」と述べました。

そのうえで「国民に進んで申請し保有してもらえるよう、健康保険証や運転免許証との一体化やコンビニ交付、さまざまな官民のウェブサービスでの申請や閲覧などのメリットの拡大のほか、高いセキュリティーを有していることについてのわかりやすい広報に、しっかりと取り組んでいきたい」と述べました。

加藤厚生労働相「理解得られるよう丁寧に取り組んでいく」

加藤厚生労働大臣は、記者会見で「システム改修などの対応に必要な予算は経済対策に盛り込んでいく。岸田総理大臣からは国民や医療関係者から理解が得られるよう丁寧に取り組んでいく必要があると指示があった。医療関係者や関係省庁などと連携して取り組みを進めていきたい」と述べました。

また、切り替えまでにマイナンバーカードを取得できなかった人への対応について「保険料を納めている方々は保険診療を受ける当然の権利を持っている。そのうえで、いろいろな事情で手元にカードを持っていない人が必要な保険診療を受ける際に、どういう手続きをしていくのか、今後しっかりと検討していきたい」と述べました。

寺田総務相「保険証と一体化 格段に普及が進む」

寺田総務大臣は、記者団に対し「日本は国民皆保険制度であり、保険証と一体化するということは、ほぼすべての国民にマイナンバーカードが行き渡るということで、格段に普及が進む。ただ、生まれてすぐの0歳児にどうやってカードを取得してもらうかや、認知症の方への対応など、いろいろクリアすべき点がある」と述べました。

また寺田総務大臣は「マイナンバーカードは非常に安全なものだ。ナンバーが仮に他人に知られたとしても個人情報が流出することは一切ない。また、ICチップには、税や年金、医療情報などの個人情報は一切記録されていない。万が一悪用された場合には、直ちにチップが使えなくなる仕組みになっており、個人情報保護に十分配慮したものだという点をしっかりとPRしたい」と述べました。

健康保険証とマイナンバーカードが一体化すると…

マイナンバーカードを保険証として登録すると、マイナンバー制度の専用サイト「マイナポータル」で、これまでの特定健診の結果や処方された薬の情報、医療費が見られるようになります。

また、確定申告の医療費控除の手続きも、マイナポータルを通じて自動入力できるようになります。
一方、医療機関なども、患者の同意を得られれば、特定健診の結果や過去の診療情報などが見られるようになり、厚生労働省は、質の高い医療の提供につながるとしています。

行政手続きの利便性向上やコスト削減などの効果に期待

政府はマイナンバーカードを、デジタル社会を構築するための基盤と位置づけ「ほぼ全国民に行き渡ること」を目標としています。

国民の側には、カードによって、税金の確定申告や、保育所の入所申請、児童手当などの手続きが、オンラインで行えるなど、行政手続きの利便性が高まるとしています。

一方で、行政側にとっても、迅速で正確な本人確認によって、ミスやなりすましを防止できるほか、事務処理の効率化やコストの削減などの効果が期待できるとしています。

総務省によりますと、マイナンバーカードの申請枚数は11日時点で、7072万枚余り、全国民に占める申請率は56.2%となっています。

ただ、申請から交付までおおむね1か月かかることから、交付枚数で見ると6240万枚余り、交付率は49.6%となっています。

今後の課題は

日本はすべての国民が公的な医療保険に加入する「国民皆保険制度」を取っています。

受診などの際に、健康保険証を示すことで、医療費の多くが健康保険や国民健康保険などで賄われ、一部を負担するだけですむ仕組みです。

政府の方針では、2年後の2024年秋に今の保険証を廃止するとしていますので、それまでに、すべての人がマイナンバーカードを取得し、保険証として利用できるよう登録する必要があります。

カードを保険証として登録している人は今月2日の時点でおよそ2480万人と、全国民の2割にとどまっています。

あと2年ほどの間に、すべての国民が手続きを終えられるのかが課題となります。

また、ひとり暮らしの高齢者などマイナンバーカード取得の申請を行うのが難しい人や、どうしても取得したくないという人などへの対応も検討する必要があります。

一方、医療機関などの体制をどう整えていくのかも課題です。

厚生労働省は医療機関などに対し、原則として、来年度からマイナンバーカードを保険証として利用できるシステムの導入を義務づけています。

しかし、今月2日時点で、システムの運用を始めている医療機関や薬局は33.5%にとどまっています。

厚生労働省は、導入にかかる費用への補助額を増やすなどして整備を促していくとしています。

日本医師会の松本会長も「医療現場に負荷がかかったり、混乱が生じたりする可能性もあるので、しっかりと手当てをしてもらいたい」と、政府に注文を付けています。

マイナンバーカード普及に向けた取り組み

政府はマイナンバーカードの普及に向けて、さまざまな取り組みを行っています。

【カード取得を促す マイナポイント】
ことし6月からは、最大で2万円分のポイント還元を受けられる「マイナポイント第2弾」を始めています。

マイナンバーカードの取得に伴って最大5000円分、健康保険証としての登録や国からの給付金を受け取る「公金受取口座」の登録で、それぞれ7500円分ずつ、ポイント還元が受けられるものです。

11日までに、いずれか1つ以上の項目への申請は2400万件を超え、総務省は、カードの普及にも大きな効果が出ているとしています。

【企業に “出張窓口”】
自治体の職員が、企業に出向き、カードの申請を行うための「出張窓口」を設ける取り組みも行われています。

マイナンバーカードの申請や受け取りには、通常、役場などに出向く必要がありますが「出張窓口」を利用すれば昼休みなどにカードの申請や写真撮影ができ、カードも郵送で送られてきます。

【携帯電話ショップでも】
携帯電話の販売店で、カードの申請をサポートするサービスも行われています。

NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの携帯大手3社の販売店、合わせておよそ8000店舗で、店員がスマートフォン上で申請画面を表示させ、氏名や住所などの入力を一緒に進めてくれるほか、顔写真の撮影など申請に必要な作業をサポートしています。

【運転免許証と一体化へ】
カードの利便性を高めるための検討も進めています。

来年2月からは引っ越しに伴う転出の手続きを、市区町村の窓口に出向かずに、オンラインでできるようになります。

運転免許証のマイナンバーカードの一体化も計画されています。

【地方交付税に反映も】
さらに、政府は、来年度の地方交付税の算定や、新たに設ける交付金の配分に、自治体ごとのカードの交付率を反映させる方針です。

普及に取り組む自治体を後押ししたいとしていますが、自治体からは反発も予想されます。

普及に向けて安全性と利便性がカギに

マイナンバーカードの普及に向けては、個人情報流出への不安をどう払拭(ふっしょく)するかや、申請手続きの煩雑さが課題となっています。

デジタル庁は、ことし1月から2月にかけて、2万人を対象にインターネットでマイナンバーカードの取得状況について調査を行いました。

この中で、カードを取得していない人に、取得しない理由を複数回答で尋ねたところ「情報流出が怖いから」が35.2%と最も多くなりました。

次いで「申請方法が面倒だから」が31.4%、「カードにメリットを感じないから」が31.3%などとなりました。

政府がカードの安全性やメリットについて国民の理解を取り付けられるかどうかが、カード普及のカギを握っているといえそうです。

自治体間で普及状況に大きな差

総務省は、9月末時点で、マイナンバーカードの交付率が高い自治体をまとめました。

その結果、最も高かったのは新潟県粟島浦村で87.9%でした。

次いで、大分県姫島村が87.7%、宮崎県都城市が84.7%、兵庫県養父市が82.9%と4つの自治体で80%を超えています。

石川県加賀市が76.9%、福井県池田町が76.3%、高知県宿毛市が74.8%、静岡県西伊豆町が74.7%、長崎県小値賀町が74.6%、長野県南牧村が74.4%と続いています。

一方、最も低い自治体は25%台となっていて、自治体間で普及状況に大きな差が生じています。

立民 長妻政調会長「進め方が非常に乱暴 丁寧に議論を」

立憲民主党の長妻政務調査会長は、記者会見で「進め方が非常に乱暴で、開業医などから疑問の声が数多く寄せられている。医療の質の向上が目的であればいいが、マイナンバーカードを普及させるためというなら本末転倒ではないか。丁寧に議論する必要がある」と述べました。

公明 北側副代表「方向性としては正しい」

公明党の北側副代表は、記者会見で「デジタル社会を進めていくために、マイナンバーカードはまさしく基盤となるもので、できるだけ多くの国民に持ってもらうことは重要な政策だ。健康保険証と一体化し、さらには運転免許証とひも付けしていくことは方向性としては正しい。しっかりと協力したい」と述べました。

共産 志位委員長「制度そのものを廃止すべき」

共産党の志位委員長は、記者会見で「『マイナポイント』というアメでだめだったら、今度は健康保険証のひも付けというムチでマイナンバーカードを持たせるやり方に反対だ。個人情報が守られるのかどうか、多くの国民が懸念を持っていて、政府に対する信頼がないところにいちばんの問題がある。制度そのものを廃止すべきだ」と述べました。