【詳しく】通園バス 置き去り防止へ 安全装置の設置義務づけ

静岡県で3歳の女の子が通園バスの車内に取り残されて死亡した事件を受けて、政府は再発防止のための緊急対策をまとめました。幼稚園などの送迎バスに安全装置の設置を義務づけることなどが盛り込まれています。

緊急対策の詳しい内容、そして事件の再発を防ぐための各地の取り組みをまとめました。

政府が緊急対策 安全装置の設置を義務づけ

政府は、来年4月から全国の保育所や幼稚園などの送迎バス、合わせておよそ4万4000台に安全装置の設置を義務づけることなどを盛り込んだ再発防止のための緊急対策をまとめました。

それによりますと、再発防止に向けて、来年4月から誰が運転や乗車をしているかにかかわらず、バスの乗り降りの際に点呼を行うなどして子どもの所在を確認することや、全国の保育所や幼稚園、それに認定こども園などの送迎バス合わせておよそ4万4000台に子どもの置き去りを防ぐための安全装置を設置することを義務づけるとしています。

この義務に違反した施設は業務停止命令の対象になり得るとしたうえで、命令に従わない場合は罰則を科すこともあるとしています。

一方、小中学校と放課後児童クラブは、小さな子どもに比べて置き去りになる可能性が低いとして、安全装置の設置は義務づけないものの、設置を希望する場合には費用を補助するとしています。

また、園長などの責任を定めた安全管理マニュアルを新たに作成し、今後、すべての施設に配布することにしています。
こども政策を担当する小倉少子化担当大臣は「1度ならず2度までも幼い命が失われたことは痛恨の極みだ。今回はあくまでスタートラインにすぎず、対策をすべての施設に実施してもらえるようにしたい」と述べました。

緊急対策 詳しい内容は

政府が取りまとめた緊急対策の詳しい内容です。

1.所在確認や安全装置の装備義務づけ

まず、来年4月から、子どもが送迎バスを乗る時や降りる時の所在確認と、置き去りを防ぐための安全装置の設置が義務づけられます。

このうち、子どもの所在確認は、保育所、幼稚園、認定こども園、特別支援学校などに加え、小学校や放課後児童クラブなども対象になります。

一方、安全装置の設置は、保育所、幼稚園、認定こども園、特別支援学校などの合わせておよそ4万4000台の送迎バスが対象になり、1年間の経過措置が設けられます。

都道府県による指導監査などで、適切な対応が行われているかを確認し、義務違反が明らかになった場合には、業務停止命令の対象となり得るとしたうえで、命令に従わない場合は罰則を科すこともあるとしています。

2.安全装置の仕様に関するガイドラインの作成

また、安全装置の仕様に関するガイドラインを、年末までに取りまとめるとしています。

安全装置は、人的ミスを補完するためのもので施設側の負担が大きくならないよう、今の送迎バスに、あとから設置できるものも視野に入れるとしています。

3.安全管理マニュアルの作成

安全管理の徹底に関し、園長などの責任を定めたわかりやすいマニュアルを作成し、この中では、送迎業務の流れにそってポイントを整理したうえで、子どもが置き去りになっていないかを確認するチェックシートも盛り込んでいます。

また、バスの外から内部の状況が確認できるよう、ラッピングやスモークガラスには注意が必要だと呼びかけています。

4.総合経済対策に盛り込み 財政措置

さらに、10月取りまとめる総合経済対策に今回の対策を盛り込み、早期に財政措置を講じるとしています。

具体的には、送迎バスの安全装置や登園管理システム、それに子どもの居場所を知るためのGPS機器の導入支援に加え、安全管理マニュアルへの理解を深めてもらうための動画の制作や研修の実施などを財政措置の対象に挙げています。

「AI搭載カメラでアラート」実証実験

一方、神奈川県厚木市では、都内の企業が開発しているAIを搭載したカメラが車内で園児を認識するとアラートのメールを送る装置の実証実験が行われました。

この装置は、都内にあるAIの画像認識サービスを行う企業などが連携して開発していて、車内に取り付けたAIを搭載したカメラが園児の画像を認識すると、スマートフォンにアラートのメールを送り、置き去りを防ぐ仕組みです。

12日、認定こども園に協力してもらい、通園バスから降りる際、4人の園児のうち、1人が寝てしまい車内に取り残されるという想定で実証実験が行われました。
実験では取り残された園児が起きると、カメラが園児を認識し、数分後、車外にいる担当者のスマートフォンにアラートのメールが送られてきました。メールには、車内の映像も添付されていて、職員が駆けつけ、園児を車外に連れ出していました。

実験に協力した認定こども園を運営する「厚木田園学園」の小澤俊通 理事長は「通園バスはチェック項目があり担当者が徹底しているが、こうした装置で補完することができればよいと思う」と話していました。

装置を開発している「インテリジェンスデザイン」の末廣大和 取締役は「開発は装置の精度などを高める段階に入っていて、来年春の実用化を目指したい」と話していました。

バスに取り残されたら… 子どもたちが訓練

富山市の幼稚園で12日に行われたのは、バスに取り残された場合にクラクションを鳴らして助けを求める訓練です。最初はクラクションをたたいたり押す力が弱かったりしてうまく鳴らすことができなかった子どもたちも、両手を使って体重をかけるよう教わると、最後にはしっかりと音を鳴らせるようになっていました。

年長の男の子は「初めてクラクションを鳴らしたけど、いつもの100倍の力で押したら音が鳴りました」と話していました。

設置義務づけの安全装置 年内にガイドライン作成へ

事件から4日後の9月9日、岸田総理大臣は、バスで子どもの送迎を行っている全国すべての施設の実態把握を進めるとともに、再発防止策をまとめるよう、こども政策を担当する小倉少子化担当大臣に指示しました。

これを受けて、小倉大臣のもとに「関係府省会議」が設けられ、子どもを預かる施設の責任者や自治体関係者などへのヒアリングのほか、各施設でのバス送迎の緊急点検などを通じて課題の検証が進められてきました。

その結果を踏まえ、4回目となる12日の会議では、来年4月から全国の保育所や幼稚園などの送迎バス合わせて4万台余りに安全装置の設置を義務づけることなどを盛り込んだ再発防止策がまとまりました。

政府は、安全装置の設置費用について、1台につき20万円を上限に最大で9割程度を補助することなどを検討していて、今の国会に提出する今年度の補正予算案に必要な費用を盛り込む方針です。

また、設置を義務づける安全装置をめぐっては、国土交通省の作業チームが必要な機能などを議論していて、年内にガイドラインを作成することにしています。

一方、政府は、装置の設置だけでなく人による安全管理も徹底するため、各自治体に対し年末までに実地調査を行うよう求めることにしています。