西九州新幹線 一番列車が出発 開業日迎え記念の式典が各駅で

長崎駅と佐賀県の武雄温泉駅を結ぶ西九州新幹線が23日開業しました。計画から半世紀近くが経った開通となり、持続的に集客していけるかが今後の課題となりそうです。

JR九州の西九州新幹線は23日、長崎駅と佐賀県の武雄温泉駅の66キロの区間が開業し、午前6時すぎに西の発着点となる長崎駅から「かもめ」の一番列車が出発しました。開通した区間は最速23分で結ばれます。これにより、博多駅と長崎駅の間は乗り換えが必要になるものの、30分短縮して最速1時間20分となります。

沿線の各駅は、昭和48年の計画から半世紀近くを経て実現した開通に大きな期待を寄せていて、23日は自治体関係者や地元出身の著名人らが参加して記念の式典を行いました。

このうち、西の発着点となる長崎駅のホームには多くの鉄道ファンが集まり、午前6時17分、1日駅長に任命された長崎市出身のタレント長濱ねるさんの合図で、一番列車が出発しました。

また、午前7時すぎには東の発着点となる武雄温泉駅からも一番列車が出発しました。列車の名称は白と赤のカラーを特徴とする「かもめ」で、この区間を最短23分で結びます。

計画から半世紀近くを経て実現した新幹線の開通を祝って、沿線の各駅でも記念式典が行われ、佐賀県の嬉野温泉駅では鉄道好きとしても知られる女優の松井玲奈さんが1日駅長を務めています。
また、長崎県の諫早駅では体操のオリンピック金メダリストで諫早市出身の内村航平さんが1日駅長に任命されました。

出発の合図を終えた内村さんは「右手をあげると演技をしてしまいそうになった。半世紀の期間を経ての開業だということでとても大きなイベントだと感じた。諫早出身として諫早の良さをいろいろなところで伝えていきたい」と話していました。
長崎駅と武雄温泉駅の間には、諫早、新大村、嬉野温泉の3つの駅があり、この区間を最速23分で結びます。

国の整備計画がまとめられた昭和48年から半世紀近くを経て実現した新幹線の開通で、沿線では集客効果を見込んだ再開発も進んでいます。

ただ、西九州新幹線をめぐっては、国の計画で示されている博多方面とを結ぶ区間の建設について、国と佐賀県の協議が続いていて、佐賀県は在来線の利便性低下や費用負担の面から反発しています。

全国のほかの新幹線と接続していない中で、今回の開業によって観光需要などを生み出し、地域を活性化できるかが課題となりそうです。

武雄温泉駅 長崎行き一番列車が出発

西九州新幹線の東の玄関口、佐賀県の武雄温泉駅では午前7時すぎ、長崎行きの一番列車が出発しました。

ホームでは大勢の人が手を振って新幹線を見送っていました。

嬉野温泉駅で記念式典 松井玲奈さん「多くの方の思い出の地に」

佐賀県嬉野市の嬉野温泉駅で行われた開業式典では、鉄道好きとしても知られる女優の松井玲奈さんが1日駅長に委嘱され、武雄温泉行きの一番列車を見送りました。
松井さんは嬉野温泉駅の中野裕介駅長から委嘱状を受け取り、たすきをかけられると「これから先、この駅が多くの方の思い出の地となることを祈っています」と挨拶しました。

そして午前6時40分すぎに、武雄温泉行きの一番列車を、手を振って見送りました。

新幹線のホームには大勢の地元の人たちが集まり、一番列車に歓声をあげていました。

JR長崎駅で「通り初め」

JR長崎駅では午前5時半すぎ、切符を持っている乗客たちが改札を通る「通り初め」が行われました。

乗客たちはJR九州の職員の先導で順番に改札を通過し、改札を通過する様子や列車の案内板を撮影していました。

JR長崎駅で記念式典 長濱ねるさんが1日駅長

JR長崎駅では西九州新幹線の一番列車の出発を前に午前5時から記念の式典が開かれました。

式典では、はじめにJR長崎駅の1日駅長の任命式が行われ、長崎市出身のタレント長濱ねるさんに委嘱状が手渡されました。

長濱さんは、「すばらしい幕開けの日にこのような大役を承り本当に光栄に思います。きょうという1日がこれから県民のみなさんにとって、そして長崎を訪れるみなさんにとって希望となりますよう、『かもめ』が末永く愛されていきますよう精一杯つとめます」と意気込みを語りました。

そして、長崎県の大石知事ら関係者も参加し、くす玉を割って開業を祝いました。

JR長崎駅 改札前に長蛇の列

JR長崎駅では、一番列車に乗車するため多くの人が改札前に長蛇の列を作り、入場を待っていました。

先頭に並んでいた京都から来たという22歳の男性は、「おとといの午後6時から駅の外で並んでいます。7か月前からこの日を心待ちにしていました。かもめがほかの新幹線とどんなところが違うのかや大村湾の景色を見るのが楽しみです。もう待ちきれないです」と話していました。

また、大阪から来たという10歳と8歳の兄弟は、「きょう午前0時から並んでいます。かもめの中を見るのが楽しみでワクワクしています。かもめが大阪までつながってほしいです」と話していました。

特急「かもめ」ラストラン 鉄道ファンが最後の姿を見届ける

西九州新幹線の開業に伴い、長崎と博多の間を結んできた特急「かもめ」は23日未明、ラストランを迎え、長崎駅では鉄道ファンが慣れ親しんだ特急の最後の姿を見届けました。

長崎と博多の間を走る特急「かもめ」は、昭和51年7月から運行が始まりおよそ154キロを2時間ほどで結んできました。

23日の西九州新幹線開業に伴って特急「かもめ」は運行を終えることになり、長崎駅には慣れ親しんだ特急の最後の姿を見届けようと鉄道ファンなどたくさんの人が集まりました。

ホームに近づく「かもめ」の明かりが見えると旗を振って出迎えました。

そして、車両が停車すると先頭車両の前で記念撮影をしたり電光掲示板に表示された「ありがとう特急かもめ」という文字を動画で撮影したりして運行の終了を惜しんでいました。

さらに、「かもめ」が回送列車として車両基地に向かって発車すると遠ざかる列車に手を振って見送っていました。

長崎市内から母親と来ていた小学5年生の男の子は「悲しいです。特急『かもめ』は乗った時の揺れが眠りやすくて優しかった。『ありがとう』と言いたいです」と話していました。

また、みずから描いた特急「かもめ」の絵を持って駆けつけた30歳の男性は、「本当に最後ということで兵庫県から駆けつけました。特急『かもめ』は多くの人に愛されていると改めて実感しました。悲しいという気持ちもあるけど次の時代に羽ばたいていってほしいです」と話していました。

乗客「初めて座れて感動」

JR長崎駅では、一番列車の乗車前にホームで記念撮影をする乗客たちの姿が多く見られました。

三重県の20歳の大学生の男性は「『かもめ』と描かれたマークなどを撮影しました。『かもめ』は以前から使われているマークですが、古くからの良さを残しつつ現代版にアレンジされていて、JR九州らしさを感じます。鉄道が大好きなので、早く乗車したいです」と話していました。

また、午前6時半すぎ、新大村駅を出発した最初の新幹線が長崎駅に到着しました。

娘と一緒に乗車したという大村市の男性は、「シートが柔らかくて子どもも楽しんでいました。朝一番の列車に乗れて嬉しかったです」と話していました。

母親と一緒に乗車した小学6年生の男の子は、「まだだれも座っていないシートに初めて座れて感動しました。シートの色は黄色で他の列車に比べて派手でした。シートを倒したり、テーブルを出したりして乗り心地を確かめていたら、あっという間に長崎駅に着いてしまい、全然時間が足りませんでした」と話していました。
武雄温泉駅では、長崎行きの一番列車が発車するのを前に、午前6時すぎに利用客向けに改札が開けられました。

嬉野市から訪れた49歳の会社員男性は「きょうはお祭りのつもりではっぴを着てきました。開業を機に嬉野、武雄にたくさんの人が来てくれたら嬉しいです」と話していました。

また23日午前0時から母親と一緒に並んだという、佐賀県鳥栖市の小学生の男の子は「きょうが楽しみでそわそわしていました。実際のかもめは想像以上にかっこよくて、気分が上がりました」と笑顔で話していました。

停車駅が新たに設けられた町では

西九州新幹線の停車駅が新たに設けられた佐賀県嬉野市の嬉野温泉では観光客から、「家族旅行で利用したい」といった声が聞かれました。

嬉野市にある嬉野温泉は「日本三大美肌の湯」の1つとして知られ、23日開業した嬉野温泉駅の近くの温泉街には源泉からお湯を引いた足湯施設が3か所あります。

このうち、「シーボルトのあし湯」では、観光で訪れた人たちがとろとろと柔らかい肌触りの足湯を楽しんでいました。

長崎県長与町から息子と訪れた64歳の女性は「これまで車でしか来られませんでしたが、これからは新幹線が開通したので長崎から日帰りで旅行した気分になれますね」と話していました。

また、佐賀県唐津市から3人の子どもを連れて訪れた37歳の男性は「新幹線の開業はきのうニュースで見て知ったので、このあと帰宅する時に駅を見て帰りたいです。いつか家族旅行の機会に新幹線に乗ってみたいと思います」と話していました。

特急大幅減 地域経済への影響を懸念 佐賀 鹿島

西九州新幹線の開業にともなって長崎本線の一部の区間は並行在来線となり、特急列車の本数が大幅に減る佐賀県鹿島市では地域経済への影響を懸念する声が広がっています。

地元の鹿島商工会議所では特急減少の影響をたずねるアンケート調査を行った結果、回答があった41社のうち「影響が出る」と答えた企業が21社とおよそ半数にのぼりました。

企業からは福岡方面への出張が不便になりビジネスへの影響は避けられず移動手段を車に変更せざるを得ないという声が寄せられたほか、地元の医療機関からは福岡から通う非常勤医師の通勤に影響するといった声も寄せられ、地域経済の広い範囲に影響が及ぶ実情が浮き彫りになりました。

鹿島商工会議所の森孝一会頭は「これまで福岡方面と鹿島市は1時間に1本から2本の特急で結ばれていたが、それが3分の1になって地域の経済が大きな影響を受けることは疑いのないことだ」と話しています。

そのうえで「博多との間をいつでも1時間あまりで行き来できる利便性が大きく損なわれることになり、取引先に『不便になった』というイメージを持たれることが懸念される」と話していました。

ほかの新幹線と接続する見通し立たず 集客が今後の課題に

ただ、西九州新幹線をめぐっては武雄温泉駅から東の、博多方面とを結ぶ区間の整備について国と佐賀県の協議が続いていて、佐賀県は在来線の利便性低下や費用負担の面から反発しています。

全国のほかの新幹線と接続する見通しは立っておらず、本州の大阪などから博多を経由して長崎に向かう場合、2回の乗り換えが必要です。

観光やビジネスの利用客を持続的に集めていけるかが今後の課題となりそうです。

経済効果分析 近藤春生教授「大幅な効果は考えにくい」

新幹線開業による経済効果を分析している西南学院大学の近藤春生教授は「直接、ほかの新幹線につながるわけではなく、時間短縮の効果が小さい。地元では多くの観光客が訪れることを期待されていると思うが、大幅な効果はちょっと考えにくい」と話しています。

また、昭和48年に国が決定した整備計画に基づき、新幹線建設が進められている現状について近藤教授は、「地域や日本全体の経済の状況、社会や財政の状況を踏まえて見直すことも考える時期にきている」と述べ、時代の変化に合わせたしくみが必要だとの考えを示しました。