“長周期地震動を抑える” ビルの上の階に免震装置設置の実験

11年前の東日本大震災で、都心の超高層ビルを大きく揺らした「長周期地震動」と呼ばれる揺れを抑える技術の開発が進んでいます。15日は、ビルの「下」に設置することの多い免震装置を、ビルの「上」の階に設置する最新の技術の実験が行われました。

2011年の東日本大震災では、「長周期地震動」と呼ばれる周期の長い揺れが発生して震源から離れた東京や大阪の超高層ビルが、ゆっくりと大きく揺れ、天井や壁が壊れる被害が相次ぎました。

建設各社は、ビルの揺れを抑える技術の開発を進めていて、15日は「長周期地震動」を再現できる大手建設会社の施設で、ビルの模型を使った最新技術の実証実験が行われました。

今回の技術の新しさは、通常は建物と地下にある基礎の間、いわば「下」に設置して揺れを抑える免震装置を、ビルの「上」の階に設置することです。

実験で、技術を組み込んだビルの模型と組み込んでいない模型の揺れを比較した結果、技術を組み込んだ模型の揺れは、そうでないものと比べ、上層階の揺れが3割余り軽減されることが確認されました。

今回のように、免震装置をビルの上層階に設置すると、上の階が下の階の揺れを打ち消すように動いて建物全体の揺れを減らせることに加え、揺れを抑える装置の設置台数を減らすことができ、建物のスペースを多く確保できるメリットもあるということです。
この技術は、2025年2月に東京 港区芝浦に完成予定の43階建ての超高層ビルに導入される予定で、新たな技術を使った免震装置は34階と35階の間に設置されます。

清水建設技術研究所の福喜多輝センター長は、「超高層ビルは通常、上の階が大きく揺れるが、今回はその解消を目指した技術で、きょうの実験でも揺れの軽減を確認できた。特に都市部で超高層ビルが増える中、今後も対策に取り組みたい」と話していました。

東京 恵比寿の超高層ビルにも最新装置

超高層ビルの地震対策は、ビルの下側に免震装置を設置するタイプやビルの柱の間などに多くの制震装置を設置するタイプが主流となっています。

こうした中、揺れを「上」から抑える技術にメリットがあるとして、既存のビルに導入するところも出てきています。

その一つが東京 恵比寿のランドマーク、「恵比寿ガーデンプレイスタワー」です。

先月、地上40階建てのビルの屋上に、高さ7.5メートルの装置を3基設置する工事が完了しました。
装置の特徴は、積み上げられたゴムの上に、1基当たり重さ450トンの「おもり」が乗っていることです。

地震が起きると、この「おもり」がビルの揺れを止める方向に動き、揺れを打ち消す仕組みになっています。

東日本大震災の時と同じ揺れでシミュレーションした結果、ビル全体の揺れの大きさを半分に、揺れの継続時間も大幅に抑えることができたということです。
この技術を開発した建設会社は、屋上で地震対策をするメリットについて、ほかの技術では必要なビル内部の工事が必要なく、工事をしながらビルの使用を続けられることだといいます。

この装置の屋根には、もともとあったヘリポートも設置し、場所を有効に活用することもできたということです。

鹿島建設建築設計本部の栗野治彦プリンシパル・エンジニアは、「超高層ビルは大勢の人が集まって活動する重要な社会インフラで、いざという時の防災拠点にもなる。東日本大震災以降、長周期地震動対策のニーズは大きく高まっていて、これまで以上に高性能・高効率の装置の開発を進め、皆様が安心してすごせる建物を増やしていきたい」と話していました。

長周期地震動 「南海トラフ」は東日本大震災上回る想定

「長周期地震動」は大きな地震の際に発生し、震源から離れても揺れが衰えにくく、超高層ビルをゆっくりと大きく揺らすのが特徴です。

2011年の東日本大震災では、震源から遠く離れた東京や大阪の超高層ビルも大きく揺れて、揺れ幅は最大で2メートルに達し、エレベーターが止まったり、壁や天井が崩れたりする被害が出ました。

国の想定では、「南海トラフ巨大地震」で長周期地震動が発生すると、東京・名古屋・大阪の超高層ビルの揺れ幅は2メートルから3メートルに達し東日本大震災を上回ることもあるとされています。

ビルの上層階ほど揺れが大きく、固定していない家具が転倒したりオフィス機器が移動したりして人がけがをするほか、エレベーターの停止や閉じ込めなどが起きるおそれがあると指摘されています。

専門家によりますと、ビルを継続して使用するのが難しいような被害が発生する可能性もあるということで、大都市を中心に経済的に大きな影響が及ぶおそれもあります。

全国で増え続ける超高層ビル

国土交通省によりますと、高さ60メートルを超える超高層ビルは全国に数千棟あり、東京都内を中心に年々増加していて、高さ200メートルを超えるオフィスビルの建設も相次いで予定されています。

また、不動産調査会社「東京カンテイ」によりますと、去年の時点で20階以上のタワーマンションが全国に1427棟に上り、このうち3割余りは東京に集中しているということです。

専門家「長周期地震動に非常に有効 室内対策も必須」

地震工学が専門の工学院大学の久田嘉章教授は、「超高層ビルは構造上、大きくゆっくり揺れる造りになっていて、揺れを抑える装置がないと『共振』という現象で揺れがどんどん大きくなる可能性がある。揺れを抑える対策は長周期地震動に対して非常に有効で、構造被害を減らしてその後の復旧を楽にするという効果も期待できるため、今後も対策を進めていくことが必要だ」と指摘しています。

一方、「南海トラフの巨大地震など大きな地震が起きれば、対策が行われていても超高層ビルがゆっくりと大きく揺れることに変わりなく、室内の対策は必須だ」としています。

具体的には、家具やオフィスにあるキャスターがついた器具の固定を進めるほか、エレベーターの閉じ込めを想定した訓練や、安否確認の方法をあらかじめ決めておくなどの対策を呼びかけています。

久田教授は、「特に高層階では消防などの助けがすぐには期待できず、自分たちだけで助け合うしかない状況に陥る可能性がある。事前の対策で被害を大きく減らすことは可能で対策を進めてほしい」と話していました。