政府 物価高騰で住民税非課税世帯に5万円給付など追加策を決定

物価の高騰を受けて、政府の対策本部は、住民税の非課税世帯を対象に1世帯当たり5万円を給付することなどを盛り込んだ追加策を決めました。
また、岸田総理大臣は、切れ目ない大胆な対策が必要だとして、この秋に新たな経済対策をまとめるよう指示しました。

政府は9日午前、総理大臣官邸で「物価・賃金・生活総合対策本部」を開き、物価の高騰を受けた追加策を決めました。

追加策では、電気やガス、食料品などの値上がりで生活に困っている人たちを支援するため、住民税が非課税の世帯を対象に1世帯当たり5万円を給付するとしています。

また、ガソリンなどの燃料価格の上昇を抑えるため、石油元売り各社に支給している補助金を年末まで継続するほか、食料価格の高騰対策として、政府が売り渡す輸入小麦の価格を来月以降も、今の水準に据え置く方針です。

さらに、地域の実情に応じた支援を行うため、地方創生臨時交付金について6000億円規模の枠を新たに設けるとしていて、これらの措置に新型コロナ対策なども合わせて、今年度予算の予備費から3兆円台半ばを支出するとしています。

岸田総理大臣は「国際商品市況の動向や世界的な金融引き締めなどが、内外経済に与える影響などを注視しつつ、物価・景気の状況に応じて、切れ目なく大胆な対策を講じていく」と述べたうえで、関係閣僚に対し、この秋に新たな経済対策をまとめるよう指示しました。

【詳しく】住民税非課税世帯に5万円給付

給付の対象となるのは、物価上昇による家計への負担の割合が大きい低所得者世帯で、具体的には今年度・令和4年度分の住民税が非課税となっている世帯です。

政府は電気・ガス料金、それに食料品などの価格上昇分が毎月5000円程度だとして、5万円は、その半年分を十分上回る金額だとしています。

給付は、市区町村が対象の世帯を抽出して、プッシュ型で行う予定で、自治体から届く確認書に返信すれば、原則として世帯主名義の銀行口座に振り込むとしています。

ことし1月以降に収入が減少し、住民税の非課税相当の収入となった世帯も対象となりますが、給付を受けるには、市区町村への申請が必要になるということです。

内閣府によりますと、給付の対象は1600万世帯程度を見込んでいるということで、年内にも給付したいとしています。

松野官房長官は午後の記者会見で、物価高騰対策として住民税の非課税世帯に5万円を給付する理由について「特に家計への影響が大きい低所得世帯の負担軽減を図るために対象とした。給付額は、電力、ガス、食料品などの価格高騰による影響を十分に上回る金額として、1世帯当たり5万円とした。住民税課税情報を活用して、可能なかぎり早期に支給する」と述べました。

【詳しく】ガソリン価格の負担軽減は

ガソリン価格の高止まりが続く中、政府は、ことし1月から石油元売り会社に補助金を出し、市場で決まっていた価格を税金で抑え込む異例の対策をとっています。

政府は、ガソリンなどの燃料価格の上昇を抑えるため、石油元売り会社に補助金を支給していて、現在は1リットル168円を基準価格としたうえで、それを上回る分について35円までなら全額を、35円を超えた分についてはその半額を支給しています。

補助金を支給する制度は今月末で期限を迎えますが、期限が迫る中、政府は、1リットル168円の基準価格は維持する形で年内まで制度の大枠を延長させる一方で、上限については来月は1リットル当たり35円、11月は30円、12月は25円と段階的に引き下げることで最終的な調整を進めていました。

ただ、ここにきて円安ドル高が急速に進んだことなどを踏まえて、9日に発表された対策では補助金の在り方について原油価格の動向を見極めながら引き続き検討するとしています。

経済産業省によりますと、これまでの負担軽減策で、ことし6月には、レギュラーガソリンの全国平均の価格が最大で41円余り抑制される効果があったということです。

その一方で、国費から支出する金額は、ことしに入ってから今月末までに1兆8800億円に上る見込みで、今回の制度の延長でさらに予備費から1兆3000億円程度を充てるとしています。

対策の延長をめぐっては、財源をどう確保するかが依然、課題となっています。

ガソリンスタンドでは継続支援に期待と懸念の声

都内のガソリンスタンドでは、継続的な支援を期待する声が出る一方、国の今後の財政を懸念する声も聞かれました。

東京・世田谷区のガソリンスタンドを訪れた50代のドライバーは「ガソリンが高いので車内のエアコンを弱めにするなどの工夫をしていました。補助の延長はすごく助かるので、財源があるかぎり続けてくれると車に乗る側としてはありがたいです」と話していました。

また、80代のドライバーは「補助を延長してくれた方が助かるので、われわれとしては続けてもらった方がいいけど、国はものすごく借金をしている。国全体としてどのようにバランスを取るべきなのか心配しています。次の世代が借金を返すことになるので、これを返すのは大変だろうなと思います」と話していました。

一方、ガソリンスタンドの責任者をつとめる男性は「補助がなければ今の価格では販売できないので、ほっとしています。価格が200円になってしまうと、仕事で使っているドライバーなどに支障が出てくると思うので、できるだけ買い求めやすい価格を維持できればと思っています」と話していました。

【詳しく】輸入小麦と配合飼料の支援策は

対策本部で価格の据え置きが決まった輸入小麦は、国内で消費される小麦のおよそ9割を占めます。

安定供給をはかるために、政府がまとめて輸入し、製粉会社などに売り渡す「国家貿易」という仕組みが取られていて、価格は年2回、4月と10月に半年間の買い付け価格の平均をもとに見直されています。

政府によることし4月から今月までの輸入小麦の売り渡し価格は、主な産地の不作やウクライナ情勢による需給のひっ迫などで小麦の先物価格が上昇した影響で、主な5つの銘柄の平均で1トン当たり7万2530円と、過去2番目の高い水準となりました。

農林水産省によりますと、円安の影響で輸入コストが増えたことなどから、来月からの売り渡し価格はさらに2割ほど上昇する見込みでしたが、今回の対策で、10月以降の売り渡し価格を今月までと同じ、1トン当たり7万2530円に維持したうえで、来年4月以降の価格については通常、半年間の算定期間を1年間に延長して平準化することで急激な変動を抑えることにしています。

ただ、小麦を原材料とした商品の販売価格で、小麦の調達コストが占める割合は、家庭用の小麦粉で29%、食パンやゆでうどんで8%、飲食店で食べる中華そばやうどんは1%にとどまるということで、さまざまな原材料価格や輸送費が高騰する中、消費者が価格据え置きの効果をどれだけ実感できるかは不透明です。

一方、とうもろこしなどの原料価格の高騰で値上がりしていた家畜の餌となる配合飼料の対策も拡充されます。

農林水産省は、飼料の輸入価格が上昇して一定の水準を超えた場合、畜産農家に対し、上昇分の一部を補填(ほてん)してきましたが、予備費を活用して補てん額を上積みすることで、配合飼料の価格をことし12月まで今の水準に据え置くことになりました。

パン販売店は歓迎も 他の原材料高騰などに懸念

輸入小麦の売り渡し価格が据え置かれることについて、毎日、大量の小麦を使用するパンの販売店は歓迎する一方で、ほかの原材料の高騰などに懸念を示しています。

東京・三鷹市で70年余り営業してきた専門店では、毎日8000個ほどのパンを製造・販売していて、輸入小麦を中心に一日当たり200キロの小麦粉を使用しています。

しかし、去年の年末から小麦粉の仕入れ価格が上昇しはじめ、今月の時点では去年の同じ時期より18%ほど値上がりして、利益を圧迫しています。

このため、店ではことし1月、およそ8割の商品で販売価格を3%から10%ほど引き上げましたが、小麦粉の価格高騰は止まらず、7月には、およそ7割の商品で再値上げを余儀なくされました。

1年間に2度の値上げは異例で、店の松井成和代表(54)は「お客さんにも迷惑がかかるのですごく悩みました。しかし、店として耐えられないくらいの原材料価格の上昇で、2度の値上げに踏み切らないと利益を出せなくなってしまうような状況でした」と話しています。

今回、輸入小麦の売り渡し価格が据え置かれることについて、松井代表は「店の経営は一定程度、助かります」と歓迎しています。

しかし、店の経営を圧迫しているのは小麦粉の価格高騰にとどまりません。

ほかの原材料でも去年の同じ時期と比べて、マーガリンが20%、砂糖は15%、パンを揚げる時に使用する食用油は40%ほど、仕入れ価格が上昇しているうえ、来月には、最低賃金の改定に合わせて、アルバイト従業員の時給の引き上げも検討しています。

松井代表は「輸入小麦以外の食材の価格は上昇したままで、来月からは人件費も上昇します。さらにもう1度、値上げをすべきかどうか、いまだに悩み続けています」と話しています。

鈴木財務相「必要な財政出動はちゅうちょなく」

鈴木財務大臣は、閣議の後の記者会見で「今回の追加策を迅速に届けるため、今月下旬には予備費から3兆円半ばを措置する。必要な財政出動はちゅうちょなく機動的に行い、切れ目のない対応をしていく」と述べました。

岸田総理大臣から、この秋に新たな経済対策をまとめるよう指示が出たことについて鈴木大臣は「予算の規模などについては、今後の検討で決まる」としたうえで、「新型コロナや物価高騰を乗り越えて経済をしっかり立て直すことが重要だ。一方で足元の財政状況は、より一層厳しさを増しており財政規律は守らなければならない」と述べ、物価の高騰などで影響を受ける暮らしや経済の立て直しと財政健全化の両立を図る考えを改めて示しました。

野村農相「負担軽減に向けた今後の対応も検討」

政府の対策本部が物価の高騰を受けて政府が売り渡す輸入小麦の価格を今の水準に据え置くなどの対策を決めたことについて、野村農林水産大臣は「いろいろなモノの価格が上がる中、小麦の売り渡し価格や配合飼料の価格の据え置きなどの施策で、今のところはなんとか我慢してほしいという思いだ。負担軽減に向けた今後の対応も検討しているので、まとまりしだいお伝えしたい」と述べました。

山際経済再生相「切れ目なく対策打つ」

山際経済再生担当大臣は、閣議のあとの記者会見で「今回の追加策で、日常生活に不可欠な食料品やエネルギーを中心とする価格上昇の影響を緩和し、国民生活やなりわいをしっかり守っていく」と述べました。

また「10月からは、6000品目を超える値上がりがあることも分かっている。当面のものに関しては予備費を使って対応し、その先のものもしっかり継続して、切れ目なく対策を打っていく」と述べました。

立民 泉代表「遅すぎる 対象狭い」

立憲民主党の泉代表は、記者会見で「各品目の値上げが拡大している中で、遅すぎる。1世帯当たり5万円の給付は、住民税が非課税の世帯だけでは対象が狭く、生活が厳しい『ワーキングプア』の世帯も含めるべきだ。一日も早く国会を開いて補正予算を編成すべきだ」と述べました。

東京都の支援の内容

今回、東京都がまとめた支援の内容です。

【運輸事業者】
中小が対象で、
▽営業用の貨物車1台当たり2万3000円を、
▽営業用の軽貨物車1台当たり8000円を、
▽路線バスやコミュニティバスについては1台当たり3万5000円を支給します。

【銭湯】
銭湯に対しては、1つの浴場に対して45万6000円を支給します。

【中小企業】
また、売り上げが減少している中小企業には、展示会の出展や商品設計、マーケティング調査など、販路開拓のためにかかる経費のうち、5分の4を、限度額200万円で助成します。

【病院や有床の診療所】
▽光熱費への支援として、病床1つにつき最大でおよそ3万6000円を
▽食材費への支援として、患者1人につき最大でおよそ1万5000円を支給します。

【救護施設や更生施設】
▽光熱費への支援として、入所者1人につき最大でおよそ1万2300円を
▽食材費への支援として、入所者1人につき最大でおよそ7900円を支給します。

【介護サービス事業所】
送迎や訪問に使う車両の燃料費への支援として、1台につき、
▽通所系の場合、最大で1万3200円を
▽訪問系の場合、最大7200円を支給します。

【特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの高齢者施設】
▽光熱費への支援として、入所者1人につき最大でおよそ1万7100円を
▽食材費への支援として、入所者1人につき最大でおよそ1万1100円を支給します。

【認可保育所や認定こども園など】
食費と光熱費への支援として、園児1人につきおよそ8800円を支給します。

【障害者支援施設や障害児入所施設、障害者グループホーム】
食費や光熱費への支援として、利用者1人につき最大でおよそ2万8800円を支給します。

【障害福祉サービス事業所】
燃料費や光熱費への支援として、利用者1人につきおよそ7600円を支給します。

このほか、
【生活や運営に困っている世帯や団体も支援】

▽区市町村から「子育て世帯生活支援特別給付金」を給付されている、ひとり親の子育て世帯には、児童1人当たり5万円を上限として、区市町村の給付金の半額を都が負担します。

▽生活が苦しい世帯に無料で食料品を配る「フードパントリー」を行う団体には、区市町村の社会福祉協議会を通じて行う食料費や輸送費などへの補助を、月6万円から月12万円に引き上げます。

また、
▽児童養護施設や自立援助ホームなどを10年以内に退所し、生活に困窮している人には、担当者が生活や就労の相談に乗るほか、一時的な生活物資を提供します。