NPT再検討会議 ロシアの反対で「最終文書」採択できず閉幕

世界の核軍縮の方向性を4週間にわたって協議してきたNPT=核拡散防止条約の再検討会議は、最終日になって「最終文書」の草案のウクライナ情勢をめぐる文言にロシアが反対したことで、合意に至らず閉幕しました。
前回の会議に続いて再び「最終文書」が採択できなかったことで、NPT体制への信頼が大きく揺らぎかねない結果となりました。

8月1日からニューヨークの国連本部で開かれていたNPTの再検討会議は、26日夜、日本時間の27日、最後の全体会合が開かれました。

この中で、前日に議長が示していた「最終文書」の草案についてロシアの代表が「文書は各国の立場を反映しバランスが取れていなければならないが、残念ながらこの文書はそうなっていない」と述べ、受け入れられないという姿勢を示し、会議は「最終文書」を全会一致で採択できないまま閉幕しました。

「最終文書」の草案には、ロシア軍が掌握しているウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所について、ロシアの名指しは避けながらも原発周辺での軍事活動に重大な懸念を示し「ウクライナ当局による管理の重要性を確認する」という表現が盛り込まれていました。

外交筋によりますと、ロシアの代表団は、草案に反発しながらも前日まで同意するかどうか明確な姿勢を示さず、最終日の昼ごろになって本国からの指示で受け入れられないという立場をスラウビネン議長に伝えてきたということです。

このため議長は、最後の全体会合の開始を再三延期し、文言を調整してロシアの説得を試みましたが、ロシア側は応じなかったということです。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって核の脅威が高まる中で開かれたNPTの再検討会議は、前回7年前に続いて「最終文書」を採択できずに閉幕し、NPT体制への信頼が大きく揺らぎかねない結果となりました。

中満泉事務次長 “ロシアの反対で「最終文書」採択されず”

NPTの再検討会議が閉幕したあと、国連で軍縮部門のトップを務める中満泉事務次長が記者会見を開き「最終文書は完璧な内容ではなかった。それでも大多数の国が全会一致で採択することが国際社会の利益になると考えていた」と述べ、ロシア1か国の反対で「最終文書」が採択されなかったことに遺憾の意を示しました。

また、会議では各国が誠意をもって交渉に臨み、修正された草案で歩み寄る姿勢をみせていたため、最終日の午前までは全会一致での採択を想定していたことを明らかにしました。

そのうえで中満事務次長は、次回のNPT再検討会議が4年後の2026年に開催され、来年にはその準備会合が開かれることに言及し「活動をすぐに始めなければならない。核軍縮に向けた取り組みが再び活発になるよう努力しなければならない」と述べ、引き続きNPT体制のもとで核軍縮の取り組みが進むよう、働きかけていくと強調しました。

岸田首相「唯一の戦争被爆国として使命感持って取り組み進める」

岸田総理大臣は、27日午後、オンラインで記者団の取材に応じ「ロシア1か国の反対で合意が成立しなかったことは、極めて遺憾だ」と述べ、ロシアの対応を非難しました。

一方で「採択に反対したのはロシアのみで、国際的な核軍縮・不拡散体制の礎石であるNPTの維持・強化が、国際社会全体の利益だと多くの国々が強く意識していることが確認されたという意味は決して小さくはない」と指摘しました。

そのうえで「NPTを維持・強化していくことこそが核軍縮に向けた唯一の現実的な取り組みだという信念を持ち、唯一の戦争被爆国として歴史的な使命感を持って取り組みを進めていきたい」と述べ、引き続き、NPT体制の維持・強化に力を尽くしていく考えを強調しました。

林外相「現実的で実践的な取り組み 粘り強く着実に進めていく」

NPT=核拡散防止条約の再検討会議でロシアの反対により「最終文書」が採択されなかったことを受けて、林外務大臣が談話を発表しました。

談話では「ウクライナをめぐる問題を理由にロシアが反対し、成果文書の採択に至らなかったことは極めて遺憾だ」としています。

一方で「締約国間の真剣な議論を経てロシア以外の国は採択に反対しなかった最終成果文書案が作成されたことは意義がある」と指摘しています。

そのうえで「核軍縮をめぐる国際社会の分断が深まる中、核兵器国と非核兵器国の双方が参加するNPTを維持・強化していくことが重要だ。来年の日本主催のG7広島サミットでの議論などを通じて『核兵器のない世界』の実現に向けた国際社会の機運をいっそう高め、現実的かつ実践的な取り組みを一歩ずつ、粘り強く着実に進めていく」としています。