サハリン2 三井物産と三菱商事 新会社に参画の方針決める

ロシア極東の石油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン2」について、三井物産と三菱商事は権益を維持するため、ロシア政府が大統領令に基づいて今月設立した新会社の株式を取得し、参画する方針を決めました。両社は近くロシア政府に通知することにしています。

「サハリン2」についてロシア政府は今月5日、これまでの運営会社から事業を引き継ぐ新たなロシア企業を設立し、プロジェクトに参画している三井物産や三菱商事に対して、新会社の株式を取得することに合意するかどうか1か月以内に通知するよう求めていました。

これを受けて三菱商事は25日に取締役会を開き、権益を維持するために新会社の株式を取得する方針を決めたということです。

三井物産もすでに取締役会で新会社の株式を取得する方針を決めていて、両社は近くロシア政府に通知することにしています。

サハリン2について日本政府は、電力やガスの安定供給の観点から重要なプロジェクトだとして、新会社への参画を前向きに検討するよう両社に要請し、それぞれがロシア側が示す条件などを踏まえ検討を進めていました。

ロシア政府は、通知の受け取りから3日以内にそれを認めるか、拒否するかを決めるとしていて、今後ロシア側がどのような判断を示すかが焦点となります。

官房長官「引き続き状況を注視」

松野官房長官は、記者会見で「三井物産と三菱商事が正式に参画同意の意向を固めたことは承知している。今後両社からロシア政府に対し、新会社への参画同意の申請を行い、その後ロシア政府が参画を認めるか否かを判断することになる。引き続き状況を注視し、LNGの安定供給に万全を期していきたい」と述べました。

ロシア側のねらいは

ロシア政府には、サハリン2の事業を引き継ぐ新会社の設立によって、欧米と歩調を合わせて制裁を続ける日本に揺さぶりをかけるねらいがあるものとみられます。

これまでサハリン2の事業主体だった「サハリンエナジー社」には、ロシアの政府系ガス会社「ガスプロム」が50%、イギリスの「シェル」が27.5%、「三井物産」が12.5%、「三菱商事」が10%それぞれ出資していました。

サハリンエナジーはロシア政府との間であらかじめ開発する区域を定め、原油や天然ガスの生産量などに関する契約を結んできました。

サハリン2に出資する外国企業からすると、この契約を結んであらかじめ条件を決めておくことでロシア政府による一方的な条件変更を避けられるほか、開発の権利を取り上げられる、いわゆる「接収」のリスクも低くできるとみていました。

ことし6月に発表された「大統領令」やその後示された「大統領令に関する決定」では、サハリン2の開発の権利や義務は、新たに設立されるロシア企業に移転されると明記されています。

ロシア側のねらいについて、日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員は「夏の電力需給が非常に厳しくなり、この冬はさらに厳しくなるという日本の状況をロシア側は把握して精査していると考えておくべきだ。そうした中で、サハリン2という日本にとって重要な供給先に対して揺さぶりをかけてきたと考えられる」と話しています。

一方で、新会社がサハリン2からLNGを調達する日本の電力・ガス各社に対してこれまでと同様の契約条件を提示していることについて「信頼できるエネルギー供給者としてのロシアの立場はウクライナ侵攻を通じて極めて大きなダメージを被っている。そうした中で日本に対して不当に不利益が出るようなことになれば、ますますロシアの評価が落ちることになるのは間違いない」と述べ、国際的な孤立を避けるためにも契約条件の変更には慎重なのではないかと分析しています。

「サハリン2」権益の維持に向けて

三井物産と三菱商事が「サハリン2」の事業を引き継ぐ新会社に参画する方針を決めた背景には、ロシアからのLNG=液化天然ガスの輸入に影響が出かねないという判断があったとみられます。

サハリン2から日本が輸入するLNGは、輸入量全体のおよそ8%にあたり、その多くは火力発電に使われています。

輸入量のすべてを発電用に使った場合、国内の発電量のおよそ3%に相当するということです。

サハリン2は日本と距離が近く、タンカーによって3日程度でガスを運ぶことができるため、これまでLNGを安定的に確保できる供給拠点と位置づけられてきました。

仮にサハリン2からのLNGの輸入が滞った場合、これだけの量を市場で調達するのは難しく、調達価格も大幅に高くなります。

このため政府は、早くから日本として権益の維持を目指す方針を明らかにし、萩生田前経済産業大臣は「撤退を求める声もあるが、撤退すれば第三国に権利を譲ることになって、ロシアはばく大な利益を得ることになる」と述べ、アメリカにも理解を求めてきました。

三井物産と三菱商事は、こうした政府からの要請もあり、新会社に参画する方針を決めたとみられ、官民で連携して、権益の維持に向けて取り組むことにしています。

専門家は「有事に備えて今から対応策の準備が必要」

ロシア政府は、通知の受け取りから3日以内に三井物産と三菱商事の新会社への参画を認めるかどうか判断するとみられます。

サハリン2の事業を引き継ぐ新たな会社は、LNG=液化天然ガスを調達する日本の電力・ガス各社に対して、これまでと同様の購入価格や調達量などの条件を提示しています。

このため日本企業の間では、新会社に移行しても、サハリン2からのLNGの調達はこれまでと大きく変わらないという見方もあります。

ただドイツではロシアの政府系ガス会社「ガスプロム」がパイプラインの「ノルドストリーム」による天然ガスの供給を設備点検などを理由にたびたび停止していて、エネルギーを武器に対抗措置を講じているという見方もあります。

こうした中、専門家は大手商社が新会社に参画できたとしても、ロシアが何らかの理由で日本へのガスの供給を絞るといったリスクも出てくるのではないかとみています。

日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員は「ドイツで起きていることを考えると、日本でも避けなければならない有事が起きる可能性はゼロとは言えず、そうした有事に備えて今から対応策を準備しておくことが必要だ。代替可能な供給先を探しておくことに加えて、節電や節ガスといったエネルギーをむだに使わない消費をしていくことがひとつのカギになっていく」と話しています。