政府 原発7基 再稼働目指す方針確認 次世代の原子炉開発検討へ

政府は、電力の需給がひっ迫する状況やエネルギー安全保障に対応するため、来年の夏以降、原発7基の再稼働を追加で目指す方針を、24日開かれた脱炭素社会の実現に向けた会議で確認しました。
また、これまで原発の新増設について「想定していない」としていましたが、次世代の原子炉の開発や建設を検討することを明らかにしました。

政府は24日、総理大臣官邸で「GX=グリーントランスフォーメーション実行会議」を開き、岸田総理大臣や西村経済産業大臣、それに経団連の十倉会長などが参加しました。

この中で、電力の需給がひっ迫する状況やエネルギー安全保障に対応するため、これまでに再稼働した原発10基に加え、来年の夏以降、追加で7基の再稼働を目指す方針を確認しました。

具体的には
▽福井県にある関西電力高浜原発の1号機と2号機
▽宮城県にある東北電力女川原発2号機
▽島根県にある中国電力島根原発2号機については
安全確保のための工事を行ったうえで再稼働を進めるほか

▽新潟県にある東京電力柏崎刈羽原発の6号機と7号機
▽茨城県にある日本原子力発電の東海第二原発については
再稼働に向けた地元の理解を得るため、国が前面に立って対応することにしています。

そのうえで、中長期的には2050年のカーボンニュートラルの実現などに向けて、既存の原発を最大限活用するとしていて、現在、最長60年まで可能な原発の運転期間の延長のほか、今より安全性や経済性が高い次世代の原子炉の開発や建設を検討することを明らかにしました。

政府は、これまで原発の新増設について「想定していない」としていましたが、具体的な方向性について、年内をめどにまとめることにしています。

岸田首相 次世代原子炉の開発や建設 年末までに検討を指示

会議の中で岸田総理大臣は「ロシアによるウクライナ侵略でエネルギーの需給構造に大きな地殻変動が起こっている中、電力需給ひっ迫という足元の危機克服のため、今後数年間を見据え、あらゆる政策を総動員して不測の事態に備えていく」と述べました。

そのうえで、原子力発電所をめぐる対応について「きょうの会議では、再稼働にむけた関係者の総力の結集、安全性の確保を大前提とした運転延長など原発の最大限の活用、次世代革新炉の開発建設など、今後も政治判断が必要な項目が示された。あらゆる方策について、年末に具体的な結論を出せるよう検討を加速してもらいたい」と述べ、次世代の原子炉の開発や建設などを年末までに検討するよう指示しました。

政府はこれまで、原発の新増設などは「想定していない」としていました。

また、LNG=液化天然ガスについて、事業者間で融通する枠組みの創設など、緊急時にも対応できる枠組みを検討し、早急に結論を出すよう指示しました。

原子力規制委 更田委員長「規制として要求レベル変えず」

会議で、来年の夏以降、すでに審査に合格している原発7基の再稼働を目指す方針を確認したことについて、原子力規制委員会の更田豊志委員長は「すでに新しい規制基準に適合していると認められる原発が稼働するかどうかは、事業者がしっかりと工事を進めることや地元了解をもらう努力の問題で規制としては要求のレベルを変えることなく役割を果たすことに尽きる」と述べ、規制への影響はないという考えを示しました。

また、運転期間の延長については国会で議論するべきで、規制委員会が意見を述べる立場にないとしたうえで「技術的には運転期間に応じて劣化する設備もあれば、ケーブルやコンクリートなど運転にかかわらず劣化するものもあり、詳細な議論が必要だ。海外の事例はあるが、地震など置かれている状況も違い、すべての原発に対して一律に語ることはできないので個別に丁寧に見る必要がある」と述べました。

そのうえで、次世代の原子炉の開発や建設を検討することについては「今の規制基準はあくまで既存の原発のもので、新設や増設の計画が具体化されるのであれば、規制当局としては前もって新しい技術を規制できる準備をする必要がある。原子炉のタイプにもよるが規制のための基準を作るにはどれだけ頑張っても1年や1年半はかかる」と述べました。

西村経産相「あらゆる選択肢を排除することなく検討」

会議のあと、西村経済産業大臣は、記者団に対し「わが国のエネルギー安定供給を再構築するべく、あらゆる選択肢を確保していくことが極めて重要だ。こうした認識や観点から原子力についてもあらゆる選択肢を排除することなく検討していくことが必要だ」と述べました。

そのうえで、次世代の原子炉の開発や原発の運転期間の延長などについて「審議会の専門家の意見もいただき、与党とも連携しながら、結論を得ていきたい」と年内をめどに具体的な方向性を示す考えを示しました。

経団連 十倉会長「政府は前面に立って」

会議のあと、経団連の十倉会長は記者団に対し「原子力発電について前向きな姿勢が示された。原発の再稼働だけでなく、中長期的には運転期間の延長や次世代炉の開発についての発言もあったので心強く思っている。原子力発電は地元の理解を得たうえで進めるのが基本なので、ぜひ、政府は前面に立ってやってほしい」と述べました。

そのうえで次世代の原子炉の開発について「中長期の戦略をしっかり描いて、そこから逆算して必要なヒト、モノ、カネを投じる。そういうものをしっかり作っていただきたいと申し上げた」と述べ、官民が一体となって実用化に向けた戦略を描くことが重要だと強調しました。

再稼働目指す7基は

原子力発電所の再稼働は、東京電力福島第一原発の事故を教訓に策定された新たな規制基準にもとづいて原子力規制委員会が行う審査に合格することが前提で、これまでに九州電力、関西電力、四国電力の合わせて6原発10基が再稼働しています。

政府がこの10基に加えて再稼働を目指す方針の7基は
▽宮城県にある東北電力女川原発2号機
▽新潟県にある東京電力柏崎刈羽原発の6号機と7号機
▽茨城県にある日本原子力発電の東海第二原発
▽福井県にある関西電力高浜原発の1号機と2号機
▽島根県にある中国電力島根原発2号機です。

7基はいずれも、規制委員会の審査に合格しています。

このうち、高浜原発の2基について関西電力は、テロ対策に必要な施設の完成後に再稼働を計画していて、1号機が来年6月、2号機が来年7月を目指しています。

また、島根原発と女川原発は、安全対策工事を終える必要があり、島根原発2号機の再稼働は今年度中の工事完了後、女川原発2号機の再稼働は再来年2月の方針を、それぞれ示しています。
一方で、柏崎刈羽原発と東海第二原発は、地元からの同意が得られていない状況です。

加えて、柏崎刈羽原発は去年、テロ対策上の重大な不備が相次いで発覚し、原子力規制委員会による検査が現在も継続しているほか、東海第二原発は、安全対策工事を再来年9月に終える予定ですが、周辺自治体の避難計画の策定が終わっておらず、再稼働の時期が見通せない状況です。

原発の立地地域で見ると

すでに再稼働した10基はいずれも西日本にありますが、政府が今回、再稼働を目指すとした7基のうち4基は東日本に立地しています。

また、電力各社が示している計画が予定どおり進んだ場合、来年中にも再稼働するのは高浜原発と島根原発の合わせて3基となります。

エネルギー基本計画と原発新増設の議論

東京電力福島第一原子力発電所の事故後、政府は、エネルギー基本計画の中で原子力発電への依存度を可能な限り下げる方針を打ち出し、去年、閣議決定された第6次の基本計画でも「原発は安全性を最優先し再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り依存度を低減する」と明記しています。

エネルギー政策を所管する歴代の経済産業大臣は、原子力発電所の新規建設や増設、建て替えについて「想定していない」と繰り返し述べてきました。

一方で、去年閣議決定された第6次の基本計画では、温暖化対策めぐる議論を背景に「カーボンニュートラル実現に向けては、原子力を含むあらゆる選択肢を追求する」との方針を盛り込みました。

こうした中、経済産業省はことし4月から新たな技術を盛り込んだ原子炉を「革新炉」と位置づけ、原子力政策を議論する審議会に専門家などで構成するワーキンググループを設置。

ワーキンググループは先月、技術開発の目安を示した工程表の素案をまとめ、この中で、日本の原発をはじめとする「軽水炉」に新たな技術を反映させた「革新軽水炉」を開発し、2030年代に運転開始、海外で開発が進む「小型炉」や「高速炉」は、試験的な炉の運転を2040年代に始めるなどとしました。

この素案に対し、委員の専門家からは「安全性向上だけでなく、電力の安定供給にもつながる」とする声の一方で「議論が十分足りていない」といった指摘が相次ぎました。

また「『原発の新設や増設は想定しない』とする政府の方針と矛盾する点をどう整理するのか」とか「原発事故の影響で不安視する国民が少なくない中エネルギー情勢の理解を深める取り組みが必要だ」といった意見も出されていました。

原発の新増設をめぐる課題は

福島第一原子力発電所の事故のあと、政府は「原子力発電の依存度を可能なかぎり低減する」とする一方、原子力発電を基盤となる電源という意味の「重要なベースロード電源」と位置づけています。

去年10月に閣議決定したエネルギー基本計画でも「原発は安全性を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能なかぎり依存度を低減する」と明記しています。

そのうえで2030年度の電源構成では原子力を「20%から22%」としていて、これまでの計画の水準を据え置いています。

経済産業省によりますと、国内にある原発36基のうち、福島第一原発の事故のあと、再稼働したのは10基ですが「20%から22%」という電源構成を実現するには、20基以上の稼働が必要だということです。

また24日の会議で政府は、これまで「想定していない」としていた原発の新増設について、次世代の原子炉の開発や建設を検討することを明らかにしました。

次世代の原子炉をめぐっては、安全性が向上するとされる「革新軽水炉」や、既存の原子炉より小型で、メンテナンスがしやすく建設コストも低いとされる「SMR」と呼ばれる小型炉などの実用化が経済界などから期待されています。

原発の在り方をめぐるさまざまな意見も踏まえ、政府は、具体的な方向性を年内をめどにまとめることにしています。

電力需給は “綱渡り” 続く

電力の需給は、老朽化した火力発電所の休止や廃止などでひっ迫した状況が続いています。

このため政府は、7年ぶりに全国で節電要請を行い、7月から9月までの3か月間、無理のない範囲で節電への協力を呼びかけています。

そのうえで、老朽化して運転を停止していた火力発電所を再稼働させるなどして、必要な供給力を確保しています。

この冬に向けては、さらに需給がひっ迫する状況が懸念されるとして、政府はこれまでに再稼働した原発10基のうち、最大で9基の稼働を進める方針です。

また、この夏と同様に休止中の火力発電所を再稼働させるほか、災害で停止した火力発電所の復旧を急ぐなどしています。

ただ、想定外のトラブルに見舞われた場合、一気に電力需給がひっ迫する綱渡りの状況は変わらず、私たちの暮らしや企業の活動に欠かせない電力の安定供給は引き続き大きな課題となっています。

国際大学 橘川教授「本気で取り組むのか疑問だ」

政府がこれまで「想定していない」としていた原発の新増設について、24日の会議で次世代の原子炉の開発や建設を検討することを明らかにしたことについて、去年、閣議決定された第6次エネルギー基本計画で委員として策定にかかわった国際大学の橘川武郎教授は「本気で取り組むのであれば、具体的なプランを明らかにする必要があり、どんな原子炉を誰がどこで作るかが重要だが、電力会社の動きもなく、政策転換とまで言えるかは、疑問だ」と述べました。

そのうえで、24日発表した背景については「世界的に見て、ドイツやベルギーなど短期的には原子力を使わないと乗り切れないとする国も出てきていて、タイミングを見計らっていたのではないか。今後どの程度反発が出るかなど反応を見ようと考えている可能性がある」と語りました。

また、この方針が電力需給のひっ迫への対応として示されたことについては、「新しい原発を建設するには10年や20年かかるので、今の電力危機の解消には間に合わず、電力需給のひっ迫と結び付けて原発の新増設の方針を示すのはひきょうで、論点をずらしている」と指摘しました。

原発に批判的な立場のNPO「政府が原発再稼働に前のめりに」

原発に批判的な立場から政策提言を行っているNPO法人「原子力資料情報室」の松久保肇事務局長は「事実上の方針転換で、唐突感が拭えない。原発の新増設や立て替えについての国民的な議論が全くされていない中でまだ具体性に乏しい次世代炉の建設を打ち出すのは政府が原発再稼働に前のめりになっていると強く感じた」と話しました。

そのうえで、来年の夏以降、原発7基の再稼働を追加で目指す方針については、「柏崎刈羽原発や東海第二原発では地元判断が示される前に政府が方針を示してしまい、順序が逆になっている。再稼働を進める前に地元も含めてしっかりとした議論が必要だ」と指摘しました。