蒸し暑い夏に注意 ほこりなどが原因の「トラッキング火災」

台風や低気圧などによる雨で湿度が高くなりやすい時期に注意したいのが、たまったほこりなどが原因で起きる「トラッキング火災」です。
専門家は湿気が多くなると火災の危険性が高まるとして、住宅のコンセントの掃除などの対策を呼びかけています。

「トラッキング火災」は、コンセントと電源プラグの間にたまったほこりが湿気など水分を吸収することで、樹脂で絶縁されているプラグに微弱な電流が流れ火花が発生して起きるもので、過去には住宅が全焼する被害も出ています。

2008年に福島県いわき市の住宅で起きた火災ではトイレのコンセントから火が出て壁の一部などが燃え、消防によりますとコンセント部分にたまったほこりなどが原因とみられています。

特に台風などでまとまった雨が降ったり湿った空気が流れ込んだりして湿気が多くなると、ほこりがより水分を含んで電気が流れやすくなるため、火災のリスクが高まります。

気象庁によりますと東京の都心では6月から9月にかけて特に湿度が高く、平均湿度は80%前後に達します。

東京消防庁のまとめでは去年までの5年間に都内で536件のトラッキング火災が発生し、比較的火災が少ない傾向にある7月から9月の3か月間で159件起きています。

NITE=製品評価技術基盤機構は湿度が上がるこの時期に改めてコンセントやプラグの周りの清掃を行うこと、器具を長時間使用しないときにはコンセントからプラグを抜くなどの対策を呼びかけています。

連日の厳しい暑さで使う機会の増えたエアコンでもトラッキング火災が起きていて、注意が必要です。

東京理科大学・松原美之教授は「トラッキング火災は冬場などでも起こりうるが、湿度が高いとリスクは上がる。冷蔵庫や本棚の裏などふだんは見えないプラグを掃除することは有効だ。火災を防ぐ商品などもあるので活用してほしい」と話していました。

発生のメカニズムには「湿度」が…

トラッキング火災の発生のメカニズムには、「湿気」が大きく関わっていいます。

火災に詳しい東京理科大学の松原美之教授によりますと、電源プラグは2つの刃の間に電気が流れないよう本来は絶縁されていますが、コンセントとの間に汚れやほこりが入ることで電気抵抗が下がり、微少な電流が流れ出すようになります。

これによって汚れやほこりが炭化したり電気プラグの表面が劣化したりして徐々に大きな電流が流れ、プラグ間には電気の通り道ができます。

この通り道を「トラック」と呼びます。

トラックに大きな電流が流れてプラグが発熱・発火する=いわゆるショートすることで「トラッキング火災」が発生します。

松原教授は、プラグにたまったほこりが電気を通しやすいほど火災の発生リスクが高まり、湿気を多く含むことで電気が流れやすくなると指摘します。

トラッキング火災を防ぐには

NITE=製品評価技術基盤機構によりますと、トラッキング火災を防ぐにはコンセントやプラグ周辺の清掃をこまめに行うことや、器具を長時間使用しないときにはコンセントからプラグを抜くなどの対策が有効だということです。

特に、コンセントに長期間プラグを接続していると、ほこりなどがたまっているおそれがあります。

プラグをしっかりと差し込んでほこりがたまっていないか確認する、コンセントなどに水分が付着しないようにするといった対策を心がけましょう。

また、ほこりをためないために、使っていないコンセントを抜いたり、プラグにほこりをたまりにくくする製品を使用したりすることも有効です。

そして、万が一、煙や火花が出た場合にはすぐにコンセントから電源プラグを引き抜くほか、ブレーカーを落とすなどすることが大切だということです。

危険性を察知するための実証実験も

最新のIT技術を使って、トラッキング火災の危険性を察知する実証実験も始まっています。

東京・足立区は東京電力と共同で、ことし2月から区内の住宅の分電盤に電流を検知する特殊な装置を取り付けています。

ほこりなどの影響でプラグの絶縁機能が低下すると電気の流れに乱れが生じ、その“異常な電流”を装置が検知すると情報が携帯電話の回線で東京電力へ送られます。

そして速やかに住民に電話とメールで知らせ、トラッキング火災の危険性が高まっていることを知らせる仕組みです。

実験に参加している70代の男性は「冷蔵庫の裏など、ふだん掃除しようと思ってもできないところもあるので、装置をつけたことで安心感が増しました」と話していました。

足立区によりますと実証実験は現在、区内の2世帯で行われ、ことし10月までに100世帯への取り付けを目指すということです。
足立区の淺野壽和建築防災課長は「区内には木造住宅が密集している地域が多く、こうした装置で火災を防ぐ意識を啓発していきたい」と話しています。