子どもの近視 “深刻に” 初の実態調査 対策は?

遠くのものが見えにくくなる近視の進み具合を示す「目の奥行き」の長さについて、小中学生を対象に初めて調査した結果を文部科学省が発表しました。
長ければ長いほど近視が進んでいるとされますが、小学6年生の平均の長さが成人の平均に達していることがわかり、専門家は近視の進行が深刻になっていると指摘しています。

調査は、子どもの視力低下の実態を把握しようと、文部科学省が昨年度、各地の小中学生およそ8600人を対象に行いました。

近視は、多くの場合、眼球の長さが延び、明るさや色、形などを感じ取る網膜の手前でピントが合ってしまうことで起きます。

一般的には視力検査の値が低下すると近視の疑いがあるとされますが、今回の調査では初めて、正確に調べるために必要な、目の表面の角膜から最も奥にある網膜までの眼球の奥行き、「眼軸」の長さを調べました。

「眼軸」の長さ 小6で成人と同じ程度に

眼軸の長さは成人の平均で24ミリ前後とされていますが、調査の結果、
▼小学6年生の平均では
▽男子が24.22ミリ、▽女子が23.75ミリと大人と同じ程度に達し、
▼中学3年生では、
▽男子が24.61ミリ、▽女子が24.18ミリとさらに長くなっていました。

また、視力検査でも裸眼の視力が1.0未満だったのは▽小学1年生でおよそ2割だったのが、▽中学3年生ではおよそ6割に増加し、およそ3割は0.3未満になっていました。

調査をまとめた東京医科歯科大学の大野京子教授は、「小学校高学年の時点で大人の平均に達していて、早い年齢で近視が進行していると見受けられる。眼軸の長さは体の成長にあわせてさらに延びる危険性もあると考えられる。コロナ禍でスマートフォンやタブレット端末を見る機会が増えていることがどう影響しているか、今後、さらに分析したい」と話しています。

医療現場では近視の低年齢化指摘する声も

「小児眼科外来」がある東京 千代田区の眼科の診療所、「お茶の水・井上眼科クリニック」には、多い日では1日に100人の子どもたちが診療に訪れます。

受診する子どもは年々増え、昨年度は4割近くが近視やその疑いを理由に受診していたということです。
近視は、30センチ以内の近いところを見る時間が長くなると進行するため、視能訓練士が子どもや保護者に対し、▽スマートフォンやタブレット端末などを見るときは、姿勢を正して、30センチ以上離すこと、▽30分に1回は20秒以上、遠くを見て、目を休めてほしいと伝えていました。

受診に訪れた小学3年生の女の子の母親は「学校の授業でタブレット端末が使われ、家でもスマートフォンで動画ばかり見ています。小さいときからスマホが身近にあり、目を使いすぎていると感じます」と話していました。
この診療所の永野雅子医師は「いまの親の世代よりも低い年齢で近視になるケースが増えていて、中には近視になる幼稚園児もいる。近視が進行すると網膜剥離や緑内障など別の病気を引き起こすリスクもあるので、画面から目を離し、目を休めることを習慣にしてほしい」と話していました。

子どもの視力 40年余り低下傾向続く

子どもの視力は、1979年に統計を取り始めて以降、40年余りにわたって低下傾向が続いています。

文部科学省が全国の国公私立の幼稚園や小中学校や高校を対象に毎年、行っている、「学校保健統計調査」によりますと、視力検査で裸眼の視力が1.0未満だった子どもの割合は、統計を取り始めた▽1979年度は
小学生で17.91%、中学生で35.19%、高校生で53.02%でした。

しかし、10年後の▽1989年度には
小学生で20.60%、中学生で40.90%、高校生で55.81%となり、
20年後の▽1999年度には
小学生で25.77%、中学生で49.69%、高校生で63.31%となるなど視力の低下が続きました。

さらに、▽2009年度には
小学生で29.71%、中学生で52.54%、高校生で59.37%となっていて、
最も新しい▽2020年度のデータでは
小学生で37.52%、中学生で58.29%と過去最多になったほか、
高校生が63.17%となっています。

2050年 世界の人口約半数が近視の予想も 各国の対策は?

近視はアジアを中心に世界で急増していて、オーストラリアなどの研究グループが2016年に出した試算では、2050年には世界の人口のおよそ半数にあたるおよそ48億人が近視になると予想されています。

WHO=世界保健機関も深刻な公衆衛生上の懸念があるとしていて、世界各地で様々な対策が取られています。
眼軸の長さが延びることで起きる近視は、30センチ以内の近いところを見る時間が長くなると進行するとされ、アメリカ眼科学会は▽20分間継続して近くを見たあとは▽20フィート、およそ6メートル以上離れたものを▽20秒間眺めるという「20ー20ー20」ルールを推奨しています。

さらに近年では、1日およそ2時間、屋外で活動し、十分な光を浴びることで近視の進行を抑えられることが分かってきていて、台湾ではおよそ10年前から小学校で1日に2時間以上、屋外で光を浴びるようにした結果、視力0.8未満の小学生の割合が5%以上減ったということです。

専門家「窓の外を見て休憩 外に出て太陽光を浴びて」

東京医科歯科大学の大野京子教授は、「近視がより進行すると、緑内障や眼底出血などの目の病気が引き起こされるリスクが高まり、失明につながる恐れもある。近年、スマートフォンや携帯ゲームが普及し、コロナ禍で外出の機会が減ったことで、世界中で子どもの近視が進んでいると指摘されている。学校でもタブレット端末を使う機会が増えているが、20分ぐらい使ったら窓の外を見て休憩すること、昼休みや体育の時間に外に出て太陽光を浴びることが大事だ。また、自宅で宿題をするときにも目と本の間の距離には気をつけ、特に夜に寝転がってスマホを見るのをやめるといった対策を子ども自身に意識して取り組んでもらうことが重要だ」と話しています。