なぜ円安が止まらない…背景と黒田総裁の思惑は?いつまで続く?

円相場はきのう(13日)の東京外国為替市場で一時、1ドル=135円台前半まで値下がりし、およそ24年ぶりとなる円安水準となりました。原材料コストのさらなる上昇をなど、急速な円安ドル高が進むことへの懸念の声も聞かれています。

なぜ円安は止まらないのか?日銀の思惑とは?背景を解説します。

円安がパン屋にも打撃!

こちらの大阪 旭区にある創業62年の老舗パン屋では、国産だけでなく、カナダ産やアメリカ産の小麦粉も使っています。

しかし、ロシアによるウクライナ侵攻を背景とした小麦価格の上昇に、このところ急速に進んだ円安の影響も加わり、仕入れ値が去年の同じ時期と比べて1割以上、上昇しているといいます。

このため店ではことしに入って順次、20種類ほどの商品を値上げしてきましたが、さらにパンに使う油やバターを減らしても味が変わらないように工夫したりするなどして、さらなる値上げを避けるための努力を重ねています。

運営会社の社長はこう話していました。

「経営は次第に苦しい状況になってきていて、仕入れ値がさらに上がるとますます厳しくなります。経営努力でさらなる値上げは防いでいきたいです」

なぜ円安?「金利差」とは?

円安が進んでいる背景には、日本と欧米での「金利差」があります。

記録的なインフレを抑えるため金融引き締めを急ぐ欧米の中央銀行と、大規模な金融緩和を続ける日銀の金融政策の方向性が異なっているのです。このうちアメリカの長期金利は、去年末までは【1.5%前後】で推移していました。

しかし、ことしの2月、ロシアのウクライナ侵攻を受けた原材料価格の高騰でインフレへの懸念が強まると、アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会が金融引き締めを強めるという見方から【2%台】に上昇。

その後も、FRBが記録的なインフレに対応するため金融引き締めを加速させるという見方を背景に、長期金利は上昇を続け、先月、3年5か月ぶりに【3%台】に上昇しました。
一方、日本の長期金利は、日銀の大規模な金融緩和の一環で、ゼロ%程度、事実上の上限として【0.25%程度】に抑えられています。

年明けにはおよそ1%だった日米の金利差が、いまはおよそ3%と3倍に広がっている形で、より利回りが見込めるドルを買って円を売る動きにつながってます。

欧米と日本の違いが鮮明に

今後の方針についても、欧米と日本の違いが鮮明になっています。

アメリカのFRBは、ことし3月に政策金利を引き上げゼロ金利を解除したあと、先月、0.5%の大幅な利上げを決めました。さらに今月と来月も大幅な利上げが見込まれています。イギリスのイングランド銀行も今月、5回連続となる利上げが見込まれているほか、ヨーロッパ中央銀行も来月、11年ぶりの利上げに踏み切る方針です。

これに対して、日銀は今の大規模な金融緩和を続ける方針を堅持していて、こうした方向性の違いが今後も金利差が広がるという見方につながっています。

黒田総裁 なぜ金融緩和にこだわる?

日銀は、黒田総裁が「金融引き締めを行う状況には全くない」と述べるなど、大規模な金融緩和を堅持する方針を示しています。

その理由としてあげているのが、

「日本の経済や物価の状況は欧米とは大きく異なる」

ということです。

具体的にはどういうことなのでしょうか。

1.日本は新型コロナ拡大前のGDP水準まで回復せず

まず、GDP=国内総生産の規模は2019年の10月から12月期では年換算で541兆円だったのに対して、ことし1月から3月期は538兆円となっていることなどから、新型コロナの感染拡大前の水準を回復できていないとしています。

2.今、引き締めると景気を冷え込ませるおそれ

また、働く人1人当たりのことし4月の名目賃金は、前の年の同じ月と比べ1.7%の増加にとどまり、経済の持ち直しを反映して増加しているものの、上昇は緩やかなものにとどまっているとしています。

このため、今の局面で金融緩和をやめて引き締めに転じてしまうと、金利の上昇などを通じて景気を冷え込ませるおそれがあるとしています。

日銀としては、賃金と物価がともに上昇する好循環を作り出すため、粘り強く金融緩和を続けるとしています。

ただし、円安の影響については…

黒田総裁は、急速に進む円安については先行きの不確実性を高め、企業の事業計画の策定を困難にするなど「経済にマイナスであり望ましくない」としています。

アメリカが金融引き締めを加速する一方、日銀が金融緩和を続ければ金利差がさらに広がり、一段の円安となって経済へのマイナス影響も大きくなる懸念があります。

つまり、緩和を維持しても、引き締めに転じても、どちらも景気を悪化させかねないというジレンマを抱えていて、日銀は難しいかじ取りを迫られています。

経済同友会 櫻田代表幹事「円安加速 かなり深刻」

経済同友会の櫻田代表幹事は14日の定例会見で「今の円安傾向はすぐには元に戻らず、エネルギーや食料、物流の目づまりによるコスト増によって、日本国内のインフレーションはさらに加速する可能性がある。消費者や企業は、円安を否定的に受け止めていると思う」と述べました。

さらに櫻田代表幹事は「円安の要因は日米の金利差だと思うが、日本の成長していく力、稼ぐ力、よい製品を作っていく力が弱いという印象を世界に与えている結果として、さらに円安が加速しているのであれば、かなり深刻に受け止めなければならない。日本の経済力を強くしたり生産性を高めたり、競争力を上げたりすることに真剣に取り組む姿勢を見せ、行動に移すことが大事だ」と指摘。

そのうえで、一方的な円安の動きを是正するには、日本の産業競争力を高めることも重要だという認識を示しました。

夏ごろまで、さらに円安続く…?

今後の見通しについて、日本総合研究所の松田健太郎副主任研究員は「FRBはことしの夏ごろまでは、インフレ抑制に向けて強い姿勢を続けるとみられる。金利差の相関関係から見ると、アメリカの長期金利がまだ上昇していくので、1ドル=140円くらいの水準となってもおかしくはない」と述べました。

ただし「アメリカが金利を極端に上げすぎると、アメリカ経済の減速が避けられない事態に向かう懸念もあり、その場合はむしろ円高方向に向かう可能性もある」と指摘しました。

そのうえで松田氏は「為替の変動が激しく不安定な状態が続くと、日本企業は今後の事業計画を立てる上で不透明感が強くなり、経済にとってマイナスの影響が大きくなる」と述べました。