“懲らしめ”から“立ち直り”へ 115年ぶりに変わる刑

「懲役10年」「禁錮2年」

ニュースで耳にすることがある刑の名称。
この2つの刑をなくし、「拘禁刑」という新たな刑に一本化する法案が成立しました。

明治時代に制定されて以来115年ぶりの大転換です。いま、なぜ変わるのか。
(社会部 白井綾乃 伊沢浩志)

「刑務作業中心」の実態

東京の府中刑務所内の工場では、民間から受注している衣類などを作るため20代から70代の数十人の受刑者たちがミシンを動かしていました。
「懲役刑」では、こうした刑務作業が義務づけられていて1日に最大で8時間行います。
規則正しい生活を送ることや就労意欲を養うことなどがその目的です。

しかし、犯した罪の反省にはつながらないという元受刑者もいます。
傷害致死の罪で別の刑務所で10年以上を過ごした男性は、刑務作業だけでは自分の罪に向き合うことができなかったといいます。
●元受刑者
「僕は作業をやっているときに内省が深まることはなかったですね。やはり“やらされている感”というか、どうしてもそういう気持ちになる」
刑法犯で検挙された人のうち再犯者の割合を示す「再犯者率」の統計です。
平成24年に45%を超えると、その後も約半数が再犯者という状況で、高止まりが続いています。

今回の改正では、刑法の条文に「改善更生を図るため、必要な作業、または指導を行うことができる」と明記しました。

自分と向き合って「立ち直り」へ

では、立ち直りを後押しするためにはどうすればいいか。

期待されている1つが、グループで行う教育プログラムです。
府中刑務所では、薬物依存の6人の受刑者と専門の職員が週に1回集まり、3か月かけて教育プログラムを行っています。
1回90分間のプログラム。
この日のテーマは、薬物を使うデメリットと使ってしまう「引き金」についてでした。
職員
「デメリットはどうだったのですか?」
受刑者
「時間にルーズになったり、信用を失ったり。それでまた刑務所生活になることです」

対話を重ねて自分自身で気づくことで、薬物を断つことを目指していて、ある受刑者は「いろいろ話すことが自分を見つめ直すいいきっかけになる」と話していました。

●府中刑務所 片山裕久教育専門官
「グループに参加することは、落ち着いて自分の本当の気持ちをよく見つめるだけでなく、それを話すことで自分自身の中に生まれてくる気持ちを感じられる、そういう貴重な機会です」

拘禁刑の導入で、刑務作業だけでなく、こうした教育的な処遇を受刑者の状況にあわせて増やしていくことが可能になります。
傷害致死の罪を犯した元受刑者も「怒り」をいかにコントロールするかについて1年半グループで学んだことで、自らの罪と向き合い、反省することができたといいます。

●元受刑者
「自分で事件を起こしたにもかかわらず、自分も巻き込まれたように感じていたんですけど、『それは違うんじゃないか』と思わせてくれたのが教育の内容でした。生い立ちから事件の内容に至るまで、言いたくないこともさらけ出すグループワークがあったので、勉強になったというか、参加してよかったです」

高齢受刑者「作業」から「体の機能回復」へ

高齢受刑者の問題も深刻です。
刑務所を出所してから2年以内に罪を犯し刑務所に再び入った人の割合は、65歳以上が、ほかの年代よりも高いのが現状です。
身体的な衰えで出所後の社会生活がままならず、犯罪を繰り返してしまう人が少なくないためです。
高齢受刑者にどんな処遇をすべきか。
府中刑務所では認知機能や体力を回復させるリハビリのような取り組みをおととしから行っています。
●府中刑務所 作業療法士 紙田緑さん
「特に高齢受刑者は出所後の就職がとても難しいと思います。いま受刑者が抱えている身体能力や認知機能の特性からみえる課題を1つでも解消したうえで出所して、地域生活に定着することが、再犯防止につながると思います」

115年ぶりの大転換 課題は?

法務省は、拘禁刑の導入で、従来の刑務作業だけでなくこうした教育プログラムや体の機能回復などをその人に応じて組み合わせる「柔軟な処遇」ができるようになると話します。

●法務省成人矯正課 細川隆夫課長
「刑務作業だけをさせて刑期が終了したら社会に出るのでは、再犯を防ぐことは難しい。個々の特性・問題をよく見極めて、作業のほかにも必要な処遇があれば、それを時間にとらわれずに実施していきたい」

受刑者の数は、ことし3月末時点で約3万8000人。
罪の内容や犯罪に至った背景、刑期もさまざまです。
受刑者が犯した罪に向き合い、更生するには、本人の自発的な姿勢が不可欠です。
1人1人にそうした処遇を行うには、携わる刑務官の意識改革や、専門的な知識がある人材を確保できるかという課題があります。

そして、課題は刑務所内の処遇だけではありません。
受刑者は刑期を終えれば社会に戻ります。
仕事や住まいを確保できずに安定した生活を送れない人も少なくありません。
●龍谷大学矯正・保護総合センター 浜井浩一センター長
「最終的に立ち直る場所は刑務所ではなく地域社会の中です。『ここで生きていきたい』と思えないと再犯につながってしまうので、社会で支えていくことが大切です。そういった意味でも刑務所の中の環境をより自律性や自発性を重視した社会での生活に近いものにして、社会復帰のための準備期間となるようにしていくことが必要です」

受刑者たちが自らの罪に真剣に向き合うことは被害者のためでもあり、再犯が起きないことは、新たな被害を生まないことにつながります。

改正された刑法は、公布から3年以内に施行されることになっています。
施行までにどのような準備ができるのか。
また、実際どのように運用がされるのかが、今後の課題だと言えます。