韓国 ユン大統領 北朝鮮に非核化呼びかけ 革新勢力に配慮か

韓国で10日就任演説を行ったユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領は、核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮に対し、実質的な非核化に転じるよう呼びかけ、対話する用意があるという姿勢を示しました。
一方、日本やアメリカへの言及はなく、わずかな差で当選した保守系のユン大統領としては、北朝鮮に対する融和的な政策を支持する革新勢力にも一定の配慮を示した可能性があります。

韓国のユン・ソンニョル大統領は10日、就任式に臨み、4万人あまりを前に宣誓をしたあと、就任演説を行いました。

この中でユン大統領は、核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮に対し「核開発を中断して実質的な非核化に転換するなら国際社会と協力して経済と市民生活を画期的に改善できる大胆な計画を準備する」と呼びかけ、核問題の平和的な解決のため、対話する用意があるという姿勢を示しました。

これについて、韓国の通信社、連合ニュースは「南北対話は非核化につながるべきだという点を明確にした」という専門家の見方とともに「朝鮮半島情勢が流動的な状況で、北に対して融和的な態度をとることも、刺激することもできないことを考慮したとみられる」と伝えています。

一方、ユン大統領は、北朝鮮に対する抑止力の強化に向けて、アメリカとの同盟関係や、日本を含む3か国の連携を重視する立場を繰り返し強調してきましたが、10日の演説では言及がありませんでした。

ことし3月の大統領選挙で革新系の候補をわずかな差でおさえて当選した保守系のユン大統領としては、ムン・ジェイン(文在寅)政権下で北朝鮮に対して進められた融和的な政策を支持する革新勢力にも一定の配慮を示した可能性があります。

「実質的な非核化に転換なら大胆な計画を準備も」

ユン・ソンニョル大統領は就任演説の中で、北朝鮮に対し「実質的な非核化に転換するなら経済と市民生活を画期的に改善できる大胆な計画を準備する」と呼びかけました。

これについて韓国の通信社・連合ニュースは、原則的な立場の表明にとどまったとしたうえで「朝鮮半島情勢が流動的な状況で、北に対して融和的な態度をとることも、刺激することもできないことを考慮したとみられる」と伝えています。

また、韓国の複数の専門家は、かつてイ・ミョンバク(李明博)政権が掲げた「非核・開放3000」という政策に似ているという見方を示しています。

この政策は、北朝鮮が核を放棄すれば、大規模な経済支援を行って1人当たりの国民所得を3000ドルに引き上げるというものでした。

ただ、専門家らは、北朝鮮が非核化をめぐるアメリカとの対話の再開に応じていない以上、ユン政権の提案に耳を傾ける可能性は低いとしています。

青瓦台を使わず新しい執務室で公務始める

韓国のユン・ソンニョル大統領は、歴代の大統領が執務にあたってきた、青瓦台と呼ばれる建物を使わず、9日まで国防省だった建物に移した新しい執務室で、さっそく公務を始めました。

来週21日には、アメリカのバイデン大統領との初めての首脳会談が、この執務室で行われることになっています。

韓国メディアによりますと、同じ建物の別の階で、本格的な執務室を整備する工事が現在進められていて、来月には完成するということです。

また、韓国大統領府は、執務室が移された建物の新たな名称を募集していて、来月発表される見通しです。

就任に合わせて「青瓦台」を一般市民に開放

ユン・ソンニョル大統領の就任に合わせて「青瓦台」と呼ばれ、70年余りにわたって、歴代の大統領が利用してきた大統領府が10日から一般の市民のために開放されました。

ソウル中心部にある「青瓦台」の名称は、大統領の執務室があった建物の屋根の青い瓦に由来し、敷地の面積はおよそ25万平方メートルと、東京ドーム5個分程度の広さがあり、敷地内には、大統領や家族が生活する公邸や迎賓館などもありました。

広大な敷地の中で、大統領と周囲との意思の疎通が難しいといった指摘もあり、ユン大統領は「帝王的な大統領のイメージの象徴であり、大統領は市民に近いところで働くべきだ」として、大統領府を5キロほど離れた国防省だった建物に移して執務を始めました。

「青瓦台」は9日までムン・ジェイン前大統領が使用していて、当面、建物の中に入ることはできませんが、さっそく多くの市民が訪れ、記念撮影をしたり、庭園を散策したりするなどして、思い思いの時間を楽しんでいました。

一方、ユン大統領が就任までのわずか2か月弱で、大統領府を移転させるとしたことについては、計画に無理があるとか、国防省の移転も伴うことから安全保障上の空白や混乱をもたらす恐れがあるなど、批判の声もあがっていました。