字幕や音声解説を加えた「バリアフリー映画」 まだ2割に満たず

去年11月までの1年間に国内で公開された日本映画490本のうち、聴覚や視覚に障害がある人が楽しめるよう、セリフなどの字幕や音声解説を加えた「バリアフリー映画」は、2割にも満たないことが東京のNPOの調査でわかりました。

「バリアフリー映画」は、セリフだけでなく場面描写と効果音を表す字幕や、音声による解説を加えた映画で、聴覚や視覚に障害があっても、スマートフォンの専用のアプリなどを使えば、劇場で映画を楽しむことができます。

東京のNPO法人「メディア・アクセス・サポートセンター」が、去年11月までの1年間に国内で公開された日本映画490本を調査したところ「バリアフリー映画」は80本で、全体の16.3%にとどまっていることがわかりました。

また「バリアフリー映画」を上映していても、アプリに連動して字幕を映し出す専用のメガネを貸し出していない映画館もあり、こうしたところではスクリーンと同時に字幕を見ることができないということです。

メディア・アクセス・サポートセンターの川野浩二事務局長は「映画をバリアフリーにするには、多くのコストがかかるため、制作できるのは大手の会社に限られているのが現状だ。取り組みに対する国の助成金もあるが、間口がとても狭いので、さらに使いやすいものに変えていってほしい」と話しています。

関係者「障害のある人も対等に映画を楽しめる社会に」

石川県の聴覚障害者センターの施設長として障害者支援にあたり、自身も両耳が聞こえない藤平淳一さんによりますと「バリアフリー映画」は、本数がもともと少ないうえに、上映も平日の昼間などに限られているケースが多いということです。

藤平さんは「平日の夜でも土日でも、当たり前に映画を鑑賞したいし、ろうあ者だって、新作が公開されれば見に行きたいです。耳が聞こえる人が笑ったときに私たちも笑う。聞こえる人が泣いていれば、一緒になって私たちも泣く。聞こえる人も、聞こえない人も、対等に映画を楽しめる社会になってほしいと思います」と話していました。

1作品200万円まで助成する制度はあるが…

文化庁は「映画のバリアフリー」のための字幕や音声ガイドの制作に対し、1作品当たり200万円までを助成する制度を設けています。

昨年度は47作品について申請があり、18作品への交付が決定したということです。

ただ、この制度に申請できるのは、映画を実際に制作した会社や団体だけで、完成後の作品に字幕や音声ガイドを後から付ける事業は対象に含まれないということです。

文化庁はNHKの取材に対し「字幕や音声ガイドの制作は、作品の許諾などとも関わるため、助成の対象は制作した企業や団体に限っている。映画のすそ野を広げるために重要な取り組みなので、今後も必要な対応を講じて、支えていきたい」としています。

“誰もが一緒に楽しめる”コンセプトの映画館では

東京 北区にあるミニシアター「シネマ・チュプキ・タバタ」は障害のあるなしにかかわらず、“誰もが一緒に楽しめる映画”を提供することをコンセプトに、6年前、クラウドファンディングなどで資金を募ってつくられました。

耳が不自由な人でも映画を楽しめるよう、上映されるすべての作品に字幕があらかじめ付けられ、座席には目が不自由な人などが場面の描写などについて、音声での詳しい説明を聞きながら鑑賞できるイヤホンがついています。

また、小さな子どもがいる場合や周囲に人がいる環境が苦手な人でも、安心して映画を楽しめる個室もあります。

映画を見に来ていた視覚障害の男性は「目が悪くなってからは、好きだった映画からも足が遠のいていましたが、この映画館は障害のことを気にせずに作品を楽しむことができます」と話していました。

映画館の代表の平塚千穂子さんは「目が見えない人は、見えないからこそ聞くことで想像力を働かせ、聞こえない人は、聞こえないからこそ俳優の小さなしぐさもものすごく注意深く見ています。障害のあるなしにかかわらず、さまざまな人たちが一緒に映画を鑑賞することは、すごく広がりと可能性を秘めていると思うのでこの場所がもっともっと自然に、人々が混じり合える場所になればよいと思います」と話していました。