藤井聡太五冠 棋王戦制す 史上最年少で六冠 29年ぶり記録更新

将棋の八大タイトルの1つ「棋王戦」の第4局が栃木県で行われ、藤井聡太五冠(20)が渡辺明二冠(38)に勝利し、6つ目のタイトルとなる「棋王」を獲得しました。これで、羽生善治九段(52)以来、史上2人目の「六冠」達成となり最年少記録も29年ぶりに更新しました。

将棋の八大タイトルの1つ「棋王戦」五番勝負は挑戦者の藤井五冠が渡辺二冠を相手にここまで2勝1敗とし、タイトル獲得に王手をかけていました。

第4局は19日、栃木県日光市のホテルで行われ、序盤は互いに淡々と駒組みを進めますが、以降はあとがない先手の渡辺二冠が中央に跳ねた2枚の桂馬を中心に攻め手を積極的に繰り出します。

対する後手の藤井五冠は守りを固めて反撃の機会をうかがっていましたが、終盤、持ち駒を次々に繰り出し、鋭い攻撃を展開して追い詰めていきます。

そして、午後7時24分、渡辺二冠が132手までで投了。

藤井五冠が3勝1敗で「棋王戦」を制し、竜王、王位、叡王、王将、棋聖に続く6つ目のタイトルを獲得しました。
「六冠」は1994年12月に羽生九段が初めて達成して以来史上2人目です。

また、羽生九段の24歳2か月よりも3年6か月若い20歳8か月で「六冠」獲得を成し遂げ、最年少記録を29年ぶりに更新しました。

一方、渡辺二冠は「棋王戦」11連覇はならず、10年前に初めて制して以降、守り続けてきた「棋王」の座を明け渡すことになりました。
藤井六冠は来月から、今回と同じ渡辺名人を相手に「名人戦」七番勝負に挑む予定で、羽生九段以来となる「七冠」を最年少で達成する可能性もあり、注目されます。

“六冠”達成は史上2人目 最年少記録も29年ぶりに更新

藤井聡太さん(20)は今回の「棋王戦」を制して、6つ目のタイトルを獲得しました。日本将棋連盟によりますと、将棋界で「六冠」を達成したのは史上2人目です。

初めて達成したのは羽生善治さん(52)で、1994年12月に「竜王」のタイトルを獲得し、「六冠」となりました。

羽生さんは「六冠」達成時「24歳2か月」でしたが、藤井さんはこれを「3年6か月」も更新する「20歳8か月」で成し遂げ、最年少記録も29年ぶりに更新。初タイトルから「六冠」達成まで最年少記録をすべて塗り替えました。

また、史上初の「七冠」は羽生さんが1996年2月、「王将」を獲得して達成。当時の七大タイトルすべてを独占しています。

藤井さんは八大タイトルのうち、竜王、王位、叡王、棋王、王将、棋聖の6つを保持したことになります。
このほか、渡辺明さん(38)が「名人」を、永瀬拓矢さん(30)が「王座」をそれぞれ保持。来月からは「名人戦」に挑戦する予定で、羽生さん以来となる「七冠」を史上最年少で達成する可能性も出てきました。

藤井さん「『六冠』にふさわしい将棋指せるよう頑張る」

史上最年少で六冠を達成した藤井聡太さんは「きょうの対局は攻め合いにいくタイミングをうまくはかれず、終盤はどうなっているか分からないまま指していた。判断の難しい局面が続いた1局だったが、何とかよい結果を残せたと感じている。まだまだ実力的には足りないところが多いので『六冠』の立ち場にふさわしい将棋を指せるように、よりいっそう頑張らなくてはいけない」と話していました。

藤井六冠が会見「『八冠』目指す意識ない まずは実力高めたい」

対局後、藤井聡太六冠は会見に臨み「対局が終わったばかりで実感はそれほどないが、大変な将棋ばかりの中で結果を残すことができたのは非常にうれしく思う。これまでは五番勝負挑戦のチャンスを作ることも難しい状況が続いていたので、自分としては驚きもある」と今の気持ちを語りました。

そして今回の『棋王戦』については「序盤から中盤の最初にかけてテンポよく進む将棋が多かったが、そのあとの中盤から終盤はどれも非常に難しくて適切な判断ができなかった局面も多かったので、そういった難しい局面を考えることができたという意味では収穫の多いシリーズだった」と振り返りました。
その上で八大タイトルすべての制覇に一歩前進したことについて聞かれると「『八冠』を目指すという意識はないし、まだ実力的にも足りないところが多いので、まずは実力を少しでも高めていけるように取り組んでいければと思う」と話していました。

渡辺さん「チャンスある将棋にしないと結果はついてこない」

「棋王戦」11連覇を果たせなかった渡辺明さんは「駒損をなかなか解消できず、つらいのかなと思っていた。もう少し息長く指せる手があったのか分からなかった。今回の棋王戦で負けた対局ではあまりチャンスがなかったが、もう少しチャンスがある将棋にしないと結果はついてこない。『棋王戦』は長い年月出場させてもらったのでいろいろ思い出はあるが、また出場できるように取り組んでいきたい」と話していました。

日本将棋連盟会長 佐藤九段「20歳と思えない凄み感じる」

藤井聡太五冠(20)が「棋王戦」を制し、史上最年少で「六冠」を達成したことについて、日本将棋連盟の会長を務める佐藤康光九段(53)は「このたびは棋王位獲得ならびに史上最年少での六冠達成、誠におめでとうございます。毎年度8割を超える勝率で実績を積み重ねられるすばらしい活躍ですが、今年度の強敵を連破し続けての結果は20歳という若さと思えない凄みを感じます。今後も体調にご留意され、さらなる高みを目指される事を期待いたします」とコメントしています。

師匠の杉本昌隆八段「着実に勝ちを積み重ねる姿勢 驚くばかり」

師匠の杉本昌隆八段(54)は「棋王獲得おめでとうございます。最年少での六冠達成を喜ばしく思います。過密なスケジュールの中、着実に勝ちを積み重ねる姿勢には驚くばかりです。棋王戦はその昔、大師匠の板谷進九段が当時の名人含めた歴代の『三人の名人』、大山康晴十五世名人、中原誠 十六世名人、谷川浩司十七世名人に勝ち、挑戦者決定戦で敗れた心残りのある棋戦です。今回の孫弟子の快挙を喜んでおられることでしょう。さらなる活躍を期待しています」とコメントしています。

“六冠”までの歩み

藤井聡太さん(20)は、2016年、中学2年のときに史上最年少となる14歳2か月でプロ入りしました。

デビュー後から前人未到の29連勝を達成するなど快進撃を続け、2020年7月には「棋聖戦」を制し、17歳11か月で初めてタイトルを獲得しました。

このときの相手は、今回の「棋王戦」で対局した渡辺明さん(38)で、タイトル獲得の最年少記録を30年ぶりに更新しました。

▽その後も、2020年8月には18歳1か月で「王位」を獲得し「二冠」。

▽2021年9月には19歳1か月で「叡王」を獲得し「三冠」。

▽2021年11月には19歳3か月で「竜王」を獲得し「四冠」。

▽去年2月には19歳6か月で「王将」を獲得して「五冠」。

▽そして19日、20歳8か月で「棋王」を獲得して「六冠」を達成。

いずれも最年少記録を更新しています。

藤井さんはタイトル獲得後も防衛を続けていて、これまで臨んだ挑戦・防衛のあわせて12期のタイトル戦をすべて制し、七番勝負では3敗目を喫したことがないなど、無類の強さを見せています。

さらに、昨年度までの年間の勝率は5年連続で8割を超え、今年度も18日までの勝率は8割2分3厘とトップ。来月からは「名人戦」への挑戦が始まり、羽生善治さん(52)以来となる「七冠」を最年少で達成する可能性もあり、注目されます。

藤井五冠の地元でファンが歓喜

藤井五冠の地元、愛知県瀬戸市の文化センターには、対局をリアルタイムで解説する「大盤解説」の会場が設けられ、ファンが解説を聞きながら棋王戦第4局の行方を見守りました。

そして渡辺二冠が132手までで投了して藤井五冠が勝利すると、歓声とともに拍手が沸き起こり、用意したくす玉を割って史上最年少での六冠達成を祝いました。

高校1年の男子生徒は「歴史的瞬間に立ち会えて本当にうれしい。駒が躍動していました。地元の誇りです」と話していました。

60代の女性は「ハラハラしながら対局を見守ったが、無事、六冠を達成して本当にうれしい。次は七冠達成を期待して応援します」と話していました。

名古屋駅前では新聞の号外配布

愛知県出身の藤井五冠が、渡辺二冠に勝利して史上最年少で「六冠」を達成したことを受け、近鉄名古屋駅前では19日午後8時すぎ、新聞の号外が配られました。

新聞社によりますと、近鉄名古屋駅前では500部の号外が配られ、通りかかった人たちが次々と手に取り、中には立ち止まって紙面に目を通す人もいました。

号外を受け取った愛知県安城市の会社員の男性は「羽生さんの記録をどんどん上回っていき、すごいと思いました。これから20年、30年、将棋界を引っ張っていってもらいたいです」と話していました。

藤井さんと同じ20歳だという愛知県犬山市の大学生は「自分と同じ年なのに比べものにならないぐらいすごいと思いました。ひとつのことに没頭する姿を見習いたいです」と話していました。