漫画家100人余 ウクライナ支援 描き下ろし色紙をオークション

軍事侵攻を受けるウクライナの人たちなどを支援しようと「あしたのジョー」などの作品で知られるちばてつやさんを始めとする100人余りの漫画家たちが描き下ろした色紙のチャリティーオークションが始まりました。

これは「日本漫画家協会」の会長を務めるちばてつやさんが発案して、3日からオンラインサイトで始まりました。

ちばさんのほか「はじめの一歩」で知られる森川ジョージさんや、「賭博黙示録カイジ」などの作品で知られる福本伸行さんなど、第一線で活躍する110人の漫画家たちが平和をテーマに描き下ろした色紙146枚が3回に分けて出品されます。
また「あしたのジョー」と「はじめの一歩」の人気キャラクターが共に描かれた色紙など、複数の漫画家が共同で手がけた色紙も出品されています。
ちばさんは「こんな大変な時代に漫画家として何かできることはないか考え、この企画を始めました。世界で苦しんでいる人を応援するという動きがもっと広がればいい」と話していました。
森川さんは「漫画を読めるということは平和なんだということを改めて考えるきっかけにしてもらいたい」と話していました。

オークションは今月23日まで行われ、売上金はウクライナなどで支援活動を行っている「国境なき医師団」に寄付されるということです。

チャリティーオークションの中心となった作者2人の思いは

今回のチャリティーオークションは、ちばてつやさんと森川ジョージさんという、日本を代表するボクシング漫画の作者2人を中心に始まりました。

77年前、6歳のときに旧満州で敗戦を迎え、日本に引き揚げたちばてつやさんは、ことしの終戦の日、日本漫画家協会のホームページに次のようなメッセージを掲載しました。

【ちばてつやさん】
「暑い夏です。夏になると、子供の頃に迎えた8月15日を思い出すのです。私は引き揚げ者です。大陸の強烈な夏の日差しに縁どられた藤色の木陰で友達と遊んでいたその日、親が勤めていた製紙工場の工場長のところで集まって、玉音放送を聴いた大人たちの打ちひしがれた姿。そしてその日を境に住んでいたところは突如として外国になり、祖国日本に帰るための逃避行が始まりました。冬になると思い出す、あの骨まで凍る強烈な寒さと空腹感。道中体力が尽き亡くなった人はもちろん、軍からはぐれた敗残兵に銃殺を乞う人々もいたと聞きます。あれから77年、幸い日本では今も『戦後』が続いています。それを簡単に『平和』と呼んで良いのかわかりませんが、色々不安定な世界情勢の中ではとても恵まれていて、本当に大切な状態だと思います。一方、世界を見渡すといつでもどこかで戦争や紛争が絶えません。飢えに苦しみ薬がなくて死んで行く人々が数知れず。我が日本では、平和だから漫画が描けるし読んでももらえる。そんな今だからこそ、何かできることはないかといつも考えていました。これはそんな思いから有志で始めたチャリティです」

このメッセージが掲載される前、森川ジョージさんのもとにちばさんから連絡があったといいます。

【森川ジョージさん】
「原稿の作業中にですよ、ちばてつやから電話がかかってきまして。こっちは締め切りですからそれどころじゃないって時間にかけてきて、『森川くん、最近ニュース見てて胸が痛いことばっかり言うんだよ。なんかわれわれで役に立てることないのかな』と相談されて」ちばさんのアニメを見たことがきっかけで漫画家を志し、ちばさんと同じボクシングを題材とした「はじめの一歩」が大ヒットして日本を代表する漫画家の1人となった森川さん。
「人生の師」と仰ぐちばさんからの頼みを受け、チャリティーオークションの開催を決断し、漫画家たちにもみずから呼びかけました。

ちばさんは森川さんに連絡した理由を次のように説明してくれました。

【ちばてつやさん】
「みんなこの時代に、こんなにいろんなところで大変な思いをしてる人がいるのに、漫画家はのうのうと漫画だけ描いているだけでいいのかなと思ったんです」ことばの背景には、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻がありました。

ちばさんはことしの2月、病気の治療のために手術を受けました。

手術を終えて目を覚ましたときには、侵攻が起きていたといいます。

【ちばてつやさん】
「手術の麻酔から覚めた時、集中治療室でテレビの画面がずっと出てたんですよね。なんとなく見てたら私は幻想見てるのかなと思ったの。もうあちこち花火があがったように見えてね。どこかでお祭りでもやってるのかなと思ったら、ロシアの侵攻が始まった時でした。だから麻酔が覚めてからもしばらくぼんやりしてね、何が起こったか分からなかった。悪い夢かと思った。私はたまたま手術が終わったばっかりでしたけど、普通に生活してても何が起こったか分からない、そんな出来事でした」

テレビから流れるウクライナの光景は、77年前に経験した自身の記憶と重なりました。
同じようなことが二度と繰り返されないために、ちばさんは平和の大切さを訴え続けてきました。

【ちばてつやさん】
「戦争のすごくつらかった記憶っていうのはできるだけ思い出したくないので、記憶の底の方に沈めているんですけど、やっぱり何か言わなくちゃいけないっていう時にムラムラっと出てきてね、それを漫画に描いたりしてきました。これからも少しでもね、漫画家たち、作家や音楽家とかいろんな表現をする人たちみんなに声をかけて、戦争の怖さやリアルを発信していきたい」

その思いは、森川さんを始め、戦争を経験していない漫画家たちにも受け継がれています。

【森川ジョージさん】
「漫画をこうやって普通に描ける時代っていいよねって、ちばさんが一番言うんですよ。ちばさんたちの世代は戦争を味わって知っているから、『あれは嫌だよ』ってちゃんと言ってくれるんです。それで僕らは『ああそうなんだ、漫画描くのって大変だったんだな』って思うことができる。当然、戦中を経験した方と比べれば、戦後生まれの僕らは対岸の火事でしかないじゃないですか。これは本当に申し訳ないですけど。ただそれでも平和の大切さをかみしめて漫画を描いていられるというのは、ちばさんから脈々と引き継がれていることだと思うんです」