北方四島 ビザなし交流 ロシアが“協定破棄” 一方的に発表

ロシア政府は、北方領土の元島民らによる、いわゆる「ビザなし交流」などの日本との合意を破棄したと、一方的に発表しました。ウクライナへの軍事侵攻を受けて、日本政府が制裁を科してきたことに反発した形です。

ロシア政府は5日、北方領土の元島民らによる「ビザなし交流」や、元島民が故郷の集落などを訪問する「自由訪問」など、これまでに日本との間で結ばれた合意を破棄したと、一方的に発表しました。そのうえでロシア外務省に対して、この決定を日本政府に通知するよう指示したとしています。

「ビザなし交流」などの交流事業をめぐっては、ことし3月、ロシア外務省がウクライナへの軍事侵攻を受けて、日本政府が制裁を科したことに反発して、停止する意向を明らかにしていました。

その際に、北方領土問題を含む平和条約交渉を中断する意向を表明していて「すべての責任は、反ロシア的な行動をとる日本側にある」と一方的に非難していました。

「ビザなし交流」は日本人と北方四島に住むロシア人がビザの発給を受けずに、相互に訪問する枠組みです。
先月亡くなった旧ソビエトの最後の指導者、ミハイル・ゴルバチョフ氏が1991年(平成3年)4月に初来日した際に署名した「日ソ共同声明」の中で、北方四島の名前が具体的に書かれ、ソビエト側が領土画定の問題の存在を初めて文書で認めました。

そして、ソビエト側から日本人と四島住民との交流を拡大するため「ビザなし」の枠組みが提案され、その後同じ年の10月に日ソ外相の間で往復書簡が交わされる形で合意されました。
そして、今から30年前の1992年(平成4年)4月にロシア人訪問団の第1回目の受け入れがあり、翌5月には日本人の元島民らの第1回目の北方領土訪問が実現しました。

その後、1999年(平成11年)からは元島民が故郷の集落などを訪問する「自由訪問」という枠組みも作られ「ビザなし交流」と合わせてこれまでに双方およそ3万人が参加しました。北方領土問題の解決に向けて、民間レベルでも草の根の交流を行い相互理解を深めてきました。
日本人が北方領土を訪れる際には、船が使われていましたが、元島民の高齢化を考慮して、2017年(平成29年)4月にモスクワで行われた日ロ首脳会談では人道的な観点から航空機を利用した北方領土への墓参が合意され、元島民や政府関係者らがチャーター機で墓参に訪れました。
しかし、北方四島との交流事業は新型コロナウイルスの感染拡大の影響でおととし以降中止されていて、さらに、ことし3月にはウクライナへの軍事侵攻に対する日本の制裁措置に反発したロシアが、平和条約交渉を中断し、ビザなし交流などの交流事業も停止すると一方的に発表していました。

岸田首相「極めて不当で断じて受け入れられない」

岸田総理大臣は、記者団に対し「極めて不当で断じて受け入れられない。ロシアに対し、こうした考え方を伝達した上で、改めて強く抗議した」と述べました。

そのうえで「政府として、高齢になった元島民の思いに何とか応えたいとの考え方に変わりはないが、現状の日ロ関係のもとで北方四島の交流事業などを行う状況にはなく、こうした対応をとらざるを得ないことについては理解を賜りたい。今後のウクライナ情勢やロシアの対応をしっかり注視していきたい」と述べました。

松野官房長官「ロシア側に改めて強く抗議」

松野官房長官は、閣議のあとの記者会見で「極めて不当なもので断じて受け入れられない。現在までのところロシア側からの通知はないが、きょう、ロシア側に対し、改めて強く抗議した」と述べました。

そのうえで「日ロ関係の現状は、すべてロシア側に責任があるが、北方四島の交流事業などを行う状況にはない。もちろん、高齢になった元島民の方々の思いに何とか応えたいという考えに変わりないが、このような対応を取らざるをえないことについて、ご理解を賜りたい」と述べました。

林外相「極めて不当 改めて強く抗議」

林外務大臣は閣議のあとの記者会見で「極めて不当であり、断じて受け入れられない。現在までのところロシア側からの通知はないが、きょう外務省の欧州局参事官から、在京ロシア大使館の次席に対してこうした考えを伝え、改めて強く抗議した」と述べました。

根室 石垣市長「非常につらい」

北海道根室市の石垣雅敏市長は6日午後、NHKの取材に対し、「北方領土との交流拠点としての役割を果たしてきた私たちにとって許せないことだ」と述べ、非難しました。

そして、「ビザなし交流は元島民や四島の隣接地域にとって北方領土を感じるための大きなウエイトを占めている。それが閉ざされるというのは非常につらい」と述べました。

そのうえで、「30年の交流の積み重ねは閉じようと思っても閉じきれないと信じている。元島民が最も多く暮らす根室市の役割は大きいと思っているので、これからも返還運動をしっかり続けたい」と話していました。

北方領土元島民からは落胆の声

歯舞群島の多楽島出身で、元島民らでつくる千島歯舞諸島居住者連盟の河田弘登志副理事長(87)は「今まで積み重ねてきた努力が水の泡になってしまったようで、がく然としている。これまでお互いに話し合いながらやってきたが、今回は一方的な発表で、考えられないことだ」と落胆した表情で話していました。

そのうえで「できれば元に戻してもらって、全ての交流事業ができるようになってほしい。こうした状況だからこそ、北方領土の返還が国民1人1人の問題だということを皆さんに理解してもらいたい」と話していました。