旧統一教会問題など受け 霊感商法対策の検討会始まる 消費者庁

旧統一教会などの問題を巡って、霊感商法への対応の強化を求める社会的な要請が高まっているとして、消費者庁は、専門家が霊感商法などの悪質商法への対策を話し合う検討会を設置し、その初会合が開かれました。

委員からは「被害を幅広く把握するために民間の相談窓口の活用なども検討することが必要だ」とか「消費者契約法で定められた契約の取消権がどのくらい行使されたのかなど分析する必要がある」などと言った意見があがりました。

消費者庁の「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」は、29日の午後5時半からオンラインで始まり、検討会には旧統一教会の問題に取り組んできた紀藤正樹弁護士やカルト問題に詳しい立正大学の西田公昭教授など8人が出席しました。

河野消費者相「どう被害を未然防止し救済するか 議論を」

冒頭に河野消費者担当大臣は「スピード感を持って対応するよう総理から言われている。霊感商法が法律に記載されたあと、寄付のようなものに移り始めたという話もあるが、その際に消費者庁として対応できていたのかどうか。検証と同時にどう被害防止や救済していくのか、積極的に議論頂きたい」などとあいさつしました。

このあと消費者庁の事務局から、霊感商法などに関する事例や対応についての説明が行われ、全国の消費生活センターなどに寄せられる霊感商法を含む開運商法の相談件数は例年1200件から1500件ほどで推移していることや70代以上の高齢者が相談者として多いことなどが説明されました。

紀藤弁護士「相談窓口 民間の活用なども検討が必要」

そして、委員による意見交換が行われ、この中で紀藤委員は「消費生活センターへの相談だけでは被害を全部拾うことはできない。民間の相談窓口の活用なども検討することが必要だ」などと述べました。

また寄付やお布施などに関して、「宗教界の発想は法律家の議論とは異なるため、信教の自由と民法についても議論すべきだ」などと提言しました。

菅野弁護士「霊感商法の契約の取消権が効果あるか知りたい」

また弁護士の菅野志桜里委員は、「消費者契約法が改正され、霊感商法についての契約の取消権が定められて以降、どのくらい行使されたのかなど分析する必要がある」と述べました。

西田委員「予防のための消費者教育が重要」

また西田委員からは「予防のための消費者教育が重要だ。家族など周りからの相談も多いため、誰を、被害者、当事者と捉えるのかなど、法律の見直しの検討も必要だ」などといった意見もあがりました。
検討会は毎週オンラインで開かれ、YouTubeの消費者庁の公式アカウントで原則、公開されることになっています。

相談支援を行う団体「継続相談できる窓口を早く設置してほしい」

消費者庁が専門家による霊感商法などの悪質商法への対策を話し合う検討会の初会合が開いたことについて、長年、旧統一教会をめぐる相談支援を行っている団体は「継続して相談できる窓口をスピード感を持って設置してほしい」と話しました。

「統一教会被害者家族の会」は2003年から旧統一教会をめぐる金銭トラブルや脱会に関する相談支援を行っています。

この団体の立ち上げに携わった60代の夫婦は、25年前に妻が旧統一教会の関連施設に通うようになりました。

旧統一教会だと知ったのは、施設に通い始めてから1年ほどたったときでしたが、「やめようと思えばいつでもやめられるからもう少し勉強しよう」と考え、そのまま続け、その後、高額の印鑑を買ったり、韓国にある関連施設に通ったりして、関わりを深くしていったということです。

ある日、妻のかばんの中から旧統一教会に関する本をたまたま見つけ、入信に気付いた夫は、家族を脱会させたい人たちが集まるグループに参加し、およそ1年半かけて脱会させたということです。

29日の初会合を視聴した夫婦は「国には期間を限定するのではなく、継続的に相談できる窓口をスピード感をもって設置してほしい」と話しました。

そのうえで「消費者トラブルとしての相談は 被害のほんの一部で、まだ表になっていない被害をすくいあげる体制づくりについても検討してもらいたい」と話していました。

「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」とは

「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」は、いわゆる霊感商法などによる被害の未然防止や、被害救済の対策を検討していくために、消費者庁に新たに設置されました。

検討会では主に霊感商法や開運商法などについて過去に寄せられた相談などに対して消費者庁がどのように対応したのかを検証するとともに、被害の未然防止や被害の救済にどうつなげていけるのかの対策を専門の委員が話し合います。

委員には東京大学の河上正二名誉教授を座長に、旧統一教会の問題に取り組んできた紀藤正樹弁護士やカルト問題に詳しい立正大学の西田公昭教授、国民生活センターの理事長など8人が選ばれています。

検討会は、毎週、オンラインで開催され、原則公開されることになっています。

今月26日の記者会見で河野消費者担当大臣は、できるだけ速やかに報告書や提言などをまとめたいとする考えを示しています。

検討会設置の経緯は

検討会の設置の背景にあるのが、安倍元総理大臣が演説中に銃撃されて死亡した事件です。

この事件で逮捕された山上徹也容疑者は母親が多額の献金をしていた旧統一教会に恨みを募らせた末、事件を起こしたとみられています。

銃撃事件のあと、旧統一教会の元信者や家族の支援活動をしている「全国霊感商法対策弁護士連絡会」や支援団体には金銭トラブルなどの相談が急増しています。

河野消費者担当大臣は今月12日の就任会見で「最近は霊感商法というより寄付のほうが主流のようだが、消費者庁の中に霊感商法に関する検討会を速やかに立ち上げて、霊感商法についての対応はきっちりやっていきたい。これだけ様々問題視されているので、もう一度霊感商法について対応していく必要がある」と述べ、検討会の立ち上げを指示したと明らかにしました。

その後、庁内で会の方向性や委員の選定など具体的な内容の検討が進められ、最初の発表から2週間で設置されました。

旧統一教会の問題を巡っては、このほか、政府が法務省や警察庁、それに消費者庁などが被害者の救済などに連携して取り組む「旧統一教会問題関係省庁連絡会議」を設置していて、来月初めから1か月間程度、被害にあった人たちからの相談を集中的に受け付ける強化期間を設けることを明らかにしています。

霊感商法を巡るこれまでの裁判や事件は

旧統一教会を巡っては、信者に対する高額な献金の強要や、不安をあおって高額な物品を売りつける「霊感商法」が社会問題となりました。

このうち2010年に旧統一教会に1億円余りの賠償を命じた福岡地方裁判所の判決では、「勧誘者は元信者の不安や恐怖心につけ込み、心理的な圧力をかけて献金を迫った」などと指摘し、その後、原告勝訴で確定しました。

刑事事件に発展するケースも相次ぎ、2009年には「このままでは命がなくなる」などと不安をあおって10数万円から100万円余りの印鑑を購入させたとして、印鑑販売会社の幹部などを務める信者7人が特定商取引法違反の疑いで逮捕され、旧統一教会の施設が家宅捜索を受けました。

信者のうち幹部2人は執行猶予のついた有罪判決が確定し、残る5人は罰金の略式命令を受けました。また、2020年、東京地方裁判所が旧統一教会などに470万円余りの賠償を命じた判決では、元信者が行った2013年ごろの献金について「不安や恐怖心をあおられ続ける中で献金をしたと認められる」として違法な行為だと指摘していて、裁判はその後、最高裁まで争われましたが、1審の判断が維持され、確定しました。

「霊感商法」は、旧統一教会以外にも、山梨県の有限会社「神世界」グループが、東京・港区のサロンで5人の客から祈とう料の名目で合わせて現金1340万円をだまし取ったとされるいわゆる「神世界事件」では、2011年、グループの実質的な代表が逮捕され、その後、有罪判決が確定しています。

法律での霊感商法の規定 不安をあおり高額商品の売りつけなど

霊感商法は、平成30年に改正された消費者契約法で、不当な勧誘による契約を取り消すことができる権利に「霊感などによる知見を用いた告知」が追加され初めて法律で規定されました。

消費者契約法では、「霊感」を「除霊や災いの除去、運勢改善など超自然的な現象を実現する能力」としていて、「霊感商法」は「霊感などの合理的な実証が困難な特別な能力を知見として、そのままでは重大な不利益が生じるなどと不安をあおり、契約の締結を迫ること」などとしています。

消費者庁は、具体的な事例として「私は霊が見える。あなたには悪霊がついておりそのままでは病状が悪化する。この数珠を買えば悪霊が去る」などと告げて不安をあおり、高額な商品を売りつけるケースなどを上げています。

宗教法人のほか、法人格がなくても組織としての体裁がある団体であれば、消費者契約法の適用対象となり、契約を取り消す権利は、最長で契約締結から5年前までさかのぼって行使することができます。
一方、宗教法人が関連するケースについては、事業者と消費者とのやり取りが消費者契約法の適用範囲となる「消費者契約」に該当するかどうか、明確でないケースがあります。

例えば本人の意思で行われた寄付やお布施、献金については「契約」ではなく、個人の意思表示のみで成立する「単独行為」にあたる可能性があり、消費者契約法の適用外となる場合があるとされています。

全国の消費生活センターなどでは、消費者契約法が適用されるか判断に迷うケースは、弁護士会につなぐなどの対応を行っているということです。

「霊感商法」などの相談件数 357件(今年度7月末時点)

国民生活センターによりますと、全国の消費生活センターなどに寄せられた「霊感商法」に関する相談は、「運がよくなる」などとして消費者の不安につけ込んで高額な商品を売りつける「開運商法」という項目の中に分類して集計していて、「開運商法」の相談件数は、昨年度は1435件、今年度は7月末の時点で357件となっています。

「開運商法」は、最近では「占いサイト」や「占いアプリ」などに関する相談が多くを占めているということです。

国民生活センターは、旧統一教会をめぐる一連の問題を受けて、全国の消費生活センターなどに寄せられた「霊感商法」に関する過去の相談内容を洗い出す作業を進めていて、検討会と情報を共有して、今後どのような対応ができるか検討していくとしています。

旧統一教会のこれまでの説明

「世界平和統一家庭連合」、旧統一教会は、高額の献金をめぐる金銭トラブルについて、8月10日の記者会見で「2009年に一部の信徒が検挙されて以降、社会的、法的に問題になる行為をしないようコンプライアンスの徹底に努めてきた。1998年に係争中の民事訴訟は78件あったが、ことしは5件に減っている」と説明しています。

また、コンプライアンス宣言以降のトラブルについては、7月17日に出した声明で「過去に自主的に献金した信徒が、その後心変わりして返還を求めるケースがあり、2009年以降もごく僅かだが、あるのは事実だ。そうしたケースについては誠意をもって対処し、解決に向けて取り組んでいる」としています。