米 アカデミー賞 ミシェル・ヨーさんが主演女優賞 アジア系初

アメリカ映画界最高の栄誉とされるアカデミー賞が発表され、俳優のミシェル・ヨーさんが、アジア系として史上初めて主演女優賞を受賞しました。

ヨーさん「夢は実現することの証し」

ことしで95回目を迎えるアカデミー賞は、現地時間の12日、日本時間の13日、ロサンゼルス近郊のハリウッドで各賞の発表が行われました。

この中で、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」に出演した俳優のミシェル・ヨーさんが、アジア系として史上初めて主演女優賞を受賞しました。

マレーシア出身のヨーさんは「これは希望と可能性のかがり火です。そして、夢は実現することの証しでもあります」と喜びを語りました。

キー・ホイ・クァンさんが助演男優賞

また、同じ作品に出演した、アジア系の俳優のキー・ホイ・クァンさんが助演男優賞を受賞しました。

かつて子役としてアメリカの人気映画に出演し、今回、最高の栄誉を手にしたキー・ホイ・クァンさんは、「私の人生の旅路は船の上で始まり、難民キャンプを経て、今はハリウッドの大きな舞台にいます。映画の中でしか起きないようなことが、私には起きています。これがアメリカン・ドリームです。皆さん、夢を諦めないで」と喜びを語りました。

「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」7部門

「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」は、ヨーさんが演じるコインランドリーを経営する中国系アメリカ人の女性を主人公に、SF映画とアクション映画の要素が盛り込まれた作品で、作品賞や監督賞なども含めた7つの部門で受賞を果たしました。

長編ドキュメンタリー賞は「ナワリヌイ」

また、長編ドキュメンタリー賞には、ロシアでプーチン政権を批判する急先ぽうとして知られる反体制派の指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏の活動を取り上げた、「ナワリヌイ」が選ばれました。

ナワリヌイ氏の妻「夫が自由になる日を夢みている」

「ナワリヌイ」が長編ドキュメンタリー賞を受賞したことを受けて、2人の子どもとともに授賞式に出席した、妻のユリアさんは、「夫は真実を述べただけで刑務所にいます。夫は民主主義を守るためだけに刑務所にいます。夫が自由になり、私たちの国が自由になる日を夢みています」と述べました。

ナワリヌイ氏はプーチン政権を批判する急先ぽうとして知られ、3年前の8月、ロシア国内を旅客機で移動中に突然意識を失い、ドイツの病院に搬送されて一命を取り留めました。

この時、原因の究明にあたったドイツ政府は、ナワリヌイ氏が、旧ソビエトで開発された神経剤「ノビチョク」と同じ種類の物質によって攻撃されたと発表しました。

国際的な調査報道グループは、ロシアの治安機関が化学兵器の神経剤を使って襲ったとする調査結果を公表し、ロシア政府の関与が疑われる毒殺未遂事件として、プーチン政権に対する国際的な批判が高まりました。

おととし1月には療養していたドイツからロシアに帰国しましたが、空港で拘束され、今も詐欺などの罪で刑務所に収監されています。

ナワリヌイ氏が率いる政治団体も、おととし4月に「過激派組織」認定の動きを受けて、解散に追い込まれました。

ロシア報道官「受賞には政治的な問題」

「ナワリヌイ」が長編ドキュメンタリー賞を受賞したことについて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は13日、記者団に対し「見ていないので、ドキュメンタリーについて何か言うことは論理的ではない」と述べるにとどめました。

一方で「受賞には政治的な問題があると考えている。ハリウッドは時々、作品を政治化しているのでこうしたことが起きるのだ」と述べ、今回の受賞は米ロ間の対立が深まる中、政治的な背景があると示唆して批判しました。

脚色賞ノミネート カズオ・イシグロさんは受賞逃す

一方、黒澤明監督の名作を原作とした「生きる LIVING」で脚本を担当し、脚色賞にノミネートされていた、ノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロさんは、受賞を逃しました。

カズオ・イシグロさん「ここにいることが夢のよう」

カズオ・イシグロさんは、アカデミー賞の発表を前に、会場に姿を現し、記者団の取材に応じました。

この中で、カズオ・イシグロさんは「私は映画の世界の人間ではないので、賞の候補としてここにいることが不思議な夢のような感じです。オリジナルの作品には、スーパーヒーローにならなくても、普通の人生でもすばらしいものになるという、特別なメッセージが込められていたと思います。黒澤明の原作が作られたのは70年前で、第2次世界大戦の直後でした。リメイクにあたっては、そうした時代に作られた原作よりも、楽観的なものにしなければならないと思っていました」と語りました。

アジア系の俳優や映画の躍進に注目集まる

ことしのアカデミー賞では、アジア系の俳優や映画の躍進に注目が集まっています。

このうち、イギリス植民地時代のインドを舞台に、男たちの友情を描いたインド映画の「RRR」で使われた曲「ナートゥ・ナートゥ」が歌曲賞を受賞しました。

主人公の2人がテンポのよいリズムに乗って息を合わせて軽快に踊る様子が話題を呼んでいました。

映画の公式アカウントはSNSに投稿し「この部門でインドに初のオスカーをもたらしたことができた幸運に感謝する。この現実離れした瞬間をことばで言い表すことができない」としています。

インドのモディ首相は13日、SNSへの投稿で「すばらしい!曲の人気は世界的だ。今後、何年も人々の記憶に残る曲になるだろう。おめでとう、インドは大喜びし、誇りに思っている」として作曲者などに祝意を示しました。