車いすテニス 国枝慎吾さん 国民栄誉賞授与決定

政府は、車いすテニスの第一人者として、四大大会すべてとパラリンピックで優勝する「生涯ゴールデンスラム」を達成した国枝慎吾さんに国民栄誉賞を授与することを決めました。表彰式は今月17日に行われます。

車いすテニスの第一人者として、四大大会すべてとパラリンピックで優勝する「生涯ゴールデンスラム」を達成し、ことし1月に現役を引退した国枝慎吾さんに対し、岸田総理大臣は先月、国民栄誉賞の授与を政府として検討するよう指示していました。

そして、政府内で有識者にヒアリングを行うなど検討を進めた結果、国枝さんへの授与を正式に決め、3日の閣議で報告しました。

表彰式は今月17日に総理大臣官邸で行われます。

松野官房長官は閣議のあとの記者会見で「前人未到の快挙を成し遂げられ、パラスポーツの社会的認知度の拡大やスポーツの発展に極めて顕著な貢献をし、広く国民に夢と感動を、社会に明るい希望や勇気を与えた」と述べました。

そのうえで「今回の受賞が今後のパラスポーツ選手、ひいては障害者に勇気や希望を与えるとともに、共生社会、多様性が尊重される社会の実現につながることを期待する」と述べました。

国民栄誉賞の個人としての受賞は27人目で、パラアスリートへの授与は今回が初めてです。

国枝慎吾さん「パラスポーツ界のさらなる発展を祈念」

国枝慎吾さんは、国民栄誉賞の受賞が決まったことについて、次のようにコメントしています。

「大変光栄に思うとともに、身が引き締まる思いです。国民栄誉賞は、車いすテニスを始めるきっかけを作っていただいた地元のテニスクラブ、先人の方々、私の選手活動を支えてくれたチームスタッフ、スポンサー、関係者、家族、そしてファンの皆様の情熱が認められたものとして受け止めています。東京パラリンピックでは無観客ではありましたが、多くの国民の皆様からの期待と声援を肌で感じ、人生最大の経験をさせていただきました。今回、国民栄誉賞を受賞させていただくことで、車いすテニスのみならず、パラスポーツ界のさらなる発展につながることを祈念いたします。私自身、これからは車いすテニスを通じて経験させていただいたことを生かして、スポーツ界や社会に少しでも貢献できるよう活動していきたいと思います。ありがとうございました」

世界の車いすテニス界の第一人者 千葉 柏出身

国枝慎吾さんは、千葉県柏市出身の39歳。長年、世界の車いすテニス界をリードしてきた第一人者です。

9歳の時に脊髄の病気で両足に障害が残りその2年後に車いすテニスを始めました。

2006年、22歳で初めて世界ランキング1位となり、四大大会のシングルスで歴代最多となる28回の優勝を誇るなど、前人未到の記録を次々と打ちたててきました。

パラリンピックには2004年のアテネ大会から5大会連続で出場し、シングルスでは2008年の北京大会と2012年のロンドン大会で連覇を果たし、おととしの東京大会で2大会ぶり3回目の金メダルを獲得しました。

そして、去年、長年の悲願だったウィンブルドン選手権を制して、四大大会すべてとパラリンピックで優勝する「生涯ゴールデンスラム」を達成しました。

素早い車いすの操作と正確で多彩なショットに加え、かつて車いすテニスではほとんど見られなかった強打のトップスピンのバックハンドを取り入れるなど、車いすテニスの競技性の向上に貢献しました。

国民栄誉賞とスポーツ界

スポーツ界では、これまでに11人と1つの団体が国民栄誉賞を受賞していて、パラアスリートの受賞は初めてです。

国民栄誉賞は、広く国民に親しまれ、社会に希望を与えることに大きな功績があった人を内閣総理大臣が表彰するとして、1977年に始まった制度で、受賞者には、賞状や盾、腕時計などの記念品が贈られます。

国民栄誉賞には、これまでに26人と1つの団体が受賞しています。

第一号の受賞者は、プロ野球でホームランの世界記録を達成した王貞治さんで、その後、歌手の美空ひばりさんや、映画監督の黒澤明さんなどが続き直近では、フィギュアスケートでオリンピック2連覇を達成した羽生結弦さんが2018年に受賞しました。

団体としては唯一、2011年のサッカー女子ワールドカップで優勝した、日本代表チームの「なでしこジャパン」が受賞しています。

このうち、スポーツ界からは11人と1つの団体が受賞していて、分野別でみると最も多くなっています。

また、これまでにスポーツ界で受賞を辞退したのはプロ野球と大リーグで活躍したイチローさん、プロ野球の阪急で盗塁記録を打ち立てた福本豊さん、それに、大リーグ、エンジェルスの大谷翔平選手の3人となっています。

スポーツ庁 室伏長官「国民栄誉賞がふさわしい方」

スポーツ庁の室伏広治長官は「『これは人間なのか』というような、考えられないようなパフォーマンスを見せていただき、それを追求し続けトップで居続けたことが本当にすばらしい。真摯(しんし)にひたむきで、競技だけでなくさまざまなものを乗り越えて多くの感動を届けていただいた。国民栄誉賞がふさわしい方だと思うし、長官としてもこれ以上うれしいことはなくお祝い申し上げたい」と述べました。

そのうえで「今後も役割は無限にあると思うので、受賞を1つのステップとして大きく羽ばたいていってほしい」と述べ、期待を寄せていました。

日本テニス協会会長 “誇らしい 世界のテニス界の至宝”

日本テニス協会の山西健一郎会長は「国枝慎吾さんへの国民栄誉賞授与が決定されたことは、大変うれしく、同じテニス人として誇らしく思います。国枝さんは、わが国のみならず、世界のテニス界の至宝であるとともに、他の競技も含めたアスリートにとっての目標であり、憧れです。国枝さんとともに、これからも彼に続くアスリートたちの挑戦を応援していきます」とコメントしました。

JPC会長 “あらゆる人々に大いなる勇気”

JPC=日本パラリンピック委員会の森和之会長は「“世界のクニエダ”として、まさに日本が世界に誇るアスリートでした。今回の受賞は、パラアスリートとしては初めてとなりますが、現在、世界に向けて頑張っているパラアスリートの励みになると同時に、あらゆる人々に対して大いなる勇気を与えるものになると思います。これからも日本を代表して世界の頂点を極めた経験をいかして、新たなステージでますます活躍されることを祈っております」とコメントしました。

地元の千葉 柏のテニスの施設で喜びの声

車いすテニスの第一人者、国枝慎吾さんに国民栄誉賞が授与されることが決まり、国枝さんの地元、千葉県柏市では喜びの声が聞かれました。

柏市出身の国枝さんは11歳のころ、市内にある「吉田記念テニス研修センター」で、車いすテニスを始めました。

その後、この施設を引退まで練習拠点とし、引退したあともテニスをしたり、趣味の将棋を指したりするために訪れているということです。

3日、施設で練習していた小学4年生の男子ジュニアの選手は「すごいと思います。大きな声を出して思い切り打つところがかっこいいです。僕も国枝選手のように世界一になりたいです」と話していました。

70代の男性は「同じテニス仲間として、とてもうれしいです。本人の努力する姿は周りに希望を与えてくれました。柏市の名誉だと思います」と話していました。

パラリンピックの北京大会で国枝さんに同行するなどして、長年サポートしてきた、施設の代表の吉田好彦さんは「国民栄誉賞の授与は、すばらしいことで、『やったな』と思います。ひじのけがで苦しんでいたこともありましたが、それを乗り越えて、自分で決めたことをやり抜き継続するのは本当にすごいと思います。これからも彼の挑戦を応援したいと思います」と話していました。

千葉県の熊谷知事は「国枝さんの活躍は、車いすテニスを競技スポーツとして広く認知させるとともに、車いすテニスの強化と後進育成にも貢献されるなど、共生社会の実現に向けて果たした功績は多大であり、深く敬意を表します。今後とも、本県はじめ、広くスポーツの普及、発展にお力添えをいただけますことを期待しております」というコメントを出しました。