超高層ビル揺らす長周期地震動 2月1日から緊急地震速報対象に

地震の際に超高層ビルなどをゆっくりと揺らす長周期地震動について、気象庁は2月1日から緊急地震速報の対象に加えます。
何が変わるのか?情報を聞いたらどうすればよいのか?
詳しくお伝えします。

長周期地震動とは?

長周期地震動は大地震や巨大地震の際に発生し、超高層ビルを大きくゆっくりと揺らす周期の長い揺れです。
2011年の東北沖の巨大地震では、震源から遠く離れた東京や大阪の超高層ビルも大きく揺れました。

震源から770キロ離れた大阪・住之江区では大阪府の咲洲庁舎で揺れが10分以上続いて最上階の揺れ幅は最大3メートル近くに達し、エレベーターが止まったり壁や天井が崩れたりする被害が出ました。
国の想定では「南海トラフ巨大地震」でも長周期地震動が発生し、東京・名古屋・大阪の三大都市圏周辺では長周期による揺れが東日本大震災を上回ることもあるとしています。

2月から何が変わる?

こうした長周期地震動について気象庁は2月1日から新たに緊急地震速報の対象に加えます。

対象となるのは、気象庁の定める長周期地震動の揺れの大きさを示す4段階のうち、立っているのが困難になる「階級3」と、はわないと動くことが出来ない「階級4」の揺れが予測される地域です。
従来の震度5弱以上の揺れが予測された場合に加えて、こうした長周期地震動が予測される地域にも緊急地震速報が発表され、ビルの高層階などに警戒が呼びかけられるようになります。

一方、長周期地震動では震源から遠く離れた地域でも大きく揺れることがあり、一度、震源の近くの地域に速報が発表されたあと、長周期地震動が予測された別の地域に追加で発表されることもあるということです。

4段階の階級とは?

長周期地震動の揺れの大きさを示す4段階とは何か、詳しく見ていきます。

現在広く使われている「震度」は、地表の「ガタガタ」とした周期の比較的短い揺れを対象としているため、ゆっくりと長い長周期地震動の揺れは十分に表現できず、新たに「階級」が使われています。
「階級1」は室内にいたほとんどの人が揺れを感じるほか、驚く人もいるとされています。
「階級2」は室内の人は大きな揺れを感じ、物につかまらないと歩くことが難しい状況です。室内では、キャスター付きの器具がわずかに動くほか、棚の食器類や書棚の本が落ちることがあります。
「階級3」以上が緊急地震速報の対象となっています。

「階級3」は人が立っていることが困難になり、室内ではキャスター付きの器具が大きく動くほか、不安定な家具などは倒れることがあります。
「階級4」は、人ははわないと動くことができず、揺れにほんろうされます。室内ではキャスター付きの器具が大きく動き転倒するものがあるほか、固定していない家具の大半が移動し倒れるものもあるとされています。

気象庁によりますと、2000年以降「階級3」以上の長周期地震動を伴う地震は、東日本大震災の際の地震に加え2004年の新潟県中越地震や2016年の熊本地震などあわせて33回にのぼります。
気象庁地震津波防災推進室の古謝植之調査官は、この速報が出た場合、私たちが必要な対応は従来の緊急地震速報と大きく変わらないとしたうえで「高いビルの高層階では大きな揺れとなり、固定していない家具が転倒したり動いたりすることで、場合によっては命に関わることがある。発表されたら身の安全を守ってほしい」と話していました。

情報聞いたらどうする?

では、超高層ビルなどにいる際に緊急地震速報を見聞きしたらどうしたらよいのか。

長周期地震動のメカニズムや超高層ビルの防災対策に詳しい工学院大学の久田嘉章教授は「基本的には、その場で安全なところにとどまるということが必要だ」と指摘しています。慌てて階段を降りると転落するおそれがあるほか、屋外では落下物に当たってけがをする危険もあるからです。

そのため久田教授は、ビルの中では落下や転倒、それに移動するものから離れ、身の安全を確保することが重要だとしています。特に、キャスターがついているようなコピー機などは大きく動くことがあるため、固定されていない場合は離れることが大切です。机などがあれば下にもぐり、周囲に見あたらない場合は頭を守って、飛ばされないように伏せることも有効だとしています。

「日頃の対策していないとダメージ受ける」

また、久田教授はオフィスやマンションでは、日頃からの対策も重要だと強調しています。
頭の上や身の回りで落下、移動、転倒しうる家具や棚などをしっかり固定することはもちろんエレベーターが止まって救助が必要になったり、下の階との行き来が難しくなったりすることも想定されることから訓練などを通じて周囲と顔の見える関係を築き、いざという時に助け合うことも重要だということです。

久田教授は「超高層建築は安全性の非常に高いビルだが長周期地震動に対しては大きく長く揺れる。そのため、対策をしないと室内にダメージが出てしまうということに注意が必要だ。事前の対策とあわせて落ち着いて行動してほしい」と話しています。

長周期地震動の対策

長周期地震動の対策をまとめました。

▽棚や動きそうなものからは離れる。
▽頭を守って、丈夫なテーブルなどに避難。
▽姿勢を低く、飛ばされないように。
▽エレベーターは最寄り階で止め、すぐに降りる。

超高層ビルは情報をどう活用?

緊急地震速報の対象に長周期地震動も加わることを受け、都内の超高層ビルでは情報の活用に向けた検討が進んでいます。

複数の超高層ビルを管理・運営する大手不動産会社では、長周期地震動への対策を進めていて、2013年には独自のシステムを導入し、長周期地震動の揺れを検知した段階で防災センターに音声や画面で知らせるほか、ビルに設置した地震計の観測データから建物に損傷がないかや、どの階が大きく揺れたかを速やかに推定することもできるようになりました。
緊急地震速報で長周期地震動を伝える場合、震源が遠い場合などにはビルが揺れ始める前に情報が届くため、エレベーターを最寄り階にいち早く停止させたり館内にアナウンスしたりといった安全対策が取れるとしています。

森ビル災害対策室の細田隆事務局長は「今までより早くお客様に備えてもらうことが可能になっていくので、有効活用をわれわれとしても考えていきたい」と話していました。

NHKはどう伝える?

長周期地震動を追加した緊急地震速報が発表された場合、NHKはテレビとラジオで続報がどこに出たのか、わかりやすく伝えます。

緊急地震速報の続報が発表され、強い揺れに警戒を呼びかける地域が追加された場合、画面に地域名や都道府県名が字幕で加えられます。

長周期地震動の際も、とるべき行動に変わりはないため通常の地震の揺れと長周期地震動とを分けずに揺れへの警戒を呼びかけることにしています。

一方、ラジオでは「緊急地震速報」と自動音声で告げたあと、すでに発表されている地域に続いて新たに続報が出された地域名や都道府県名を読み上げます。