スキーしていただけなのに…相次ぐ“誤検出”

スキーしていただけなのに…相次ぐ“誤検出”
「大丈夫!?何があったの?」

取り乱した母親からの突然の電話。
スキーして、カレーを食べて、温泉に入っていただけなのに?

そして、人気のスキー場があるエリアの消防はいま、次々とかかってくる「意図しない」119番通報に困惑しています。

原因はどちらも、いざというときにあなたの命を守ってくれるかもしれない、最新のスマホやスマートウォッチの機能です。

“大丈夫!?”母親に連絡したのは

東京都内に住む30代の雄太さん(仮名)は今月2日、長野県にあるスキー場にいました。
午前中、めいっぱいスキーを楽しみ、「そろそろ帰ろうかな」と板を車に積み込んでいた、その時。

電話が、かかってきました。
離れて暮らす、実家の母親からでした。

「大丈夫!?何があったの?」

なぜか、激しく取り乱している母親。
詳しく話を聞くと、携帯電話に「雄太さんが転倒した」という連絡が来たので、あわてて電話をかけたということでした。

スキーの腕前には自信があり、大けがをするような転倒をしたわけでもない。
もちろん、警察や消防と関わった覚えはない。

でも、母親に連絡がいった理由には、思い当たる節がありました。
それは、いつも身につけている、愛用のスマートウォッチです。

雄太さんは、最後のひと滑りを楽しんでいる最中、スマートウォッチが震えたのに気付いていました。
でも、「LINEかメールでも来たのかな」と思い確認はしていませんでした。

実際には、転倒を検出する機能が作動していたのです。

「転倒」「衝突」スマホがあなたを助ける時代に

最近のスマートフォンやスマートウォッチの中には、転倒や衝突を自動的に検出する機能が備わっているものがあります。
速度や方向が急激に変化したり、その後に、一定時間、反応が無かったりすると、利用者が急病で倒れたり、交通事故に巻き込まれたりした可能性があると判断。

雄太さんのように、あらかじめ登録していた緊急連絡先にメッセージが送られるほか、何も操作しないままでいると、持ち主が危険な状態に陥っていると判断して、自動的に119番通報する機能もあります。

こうした機能を持つスマートフォンやスマートウォッチはメーカーを問わずに存在していて、国内の出荷台数の半分近くを占めるとされるアップルの「iPhone」では、去年9月に発売が始まった最新の「iPhone14」シリーズから、衝突の自動検出機能が搭載されました。

これによって、こうした機能を備えた端末を持つ人は増えているとみられます。

急増 スキー場からの自動通報

持ち主を助けてくれるかもしれない、自動検出機能。しかし、これが思わぬ波紋を広げています。

今月5日、長野県の北アルプス広域消防本部が「転倒や衝突の検出機能で119番への自動通報が急増している」とツイートしました。
詳しく話を聞くと、先月16日から今月10日までに寄せられたスマホやスマートウォッチからの自動通報は、あわせて83件に上るということです。

このうち、実際の「事故」は1件だけ。そのほかはすべて、救助の必要のない「意図しない通報」でした。そして、大半の通報はスキー場から発信されていました。
白馬や栂池高原など、この消防の管轄エリアには全国的にも人気のスキー場が数多くあります。
スキーやスノーボードを楽しんでいて、転ぶなどした時に、スマホやスマートウォッチがその衝撃などを検知して自動通報されていると、この消防ではみています。
北アルプス広域消防本部通信指令室 田中茂樹 消防士
「自動音声なので呼びかけても応答がなく、こちらから折り返し電話をかけて、何があったのかを確認する必要があります。すぐに電話に出てくれればいいんですが、2、3回かけなければならなかったケースもあります」
そして、「スキー場の利用者に呼びかけたいこと」として、この2点を挙げました。
●必要に応じて、自動検出機能のオン・オフを切り替えてほしい
●意図しない通報をした場合、消防からの折り返しの電話にはすぐに出て「出動は必要ない」と伝えてほしい

「連絡つかない」「外国の人も」各地で困惑

人気のスキーリゾートがあるほかの消防でも、同じような事態が起きていました。
昨シーズン、およそ75万人が利用した長野県の志賀高原などを管轄する消防本部では、去年12月以降、50件近くの自動通報がありましたが、実際の「事故」はゼロ。

また、湯沢高原などが管轄エリアの新潟県の消防本部では、同じく去年12月以降、80件近くの自動通報がありましたが、こちらも、通報が必要なレベルの事故だったケースはなかったといいます。
これらの消防の担当者も指摘していたのが「折り返し電話をかけ、何があったのかを確認する必要があるが、持ち主がスキーを楽しんでいる場合などは連絡がつきづらく、非常に困っている」ということ。

実際に重大な事故があった場合の救助活動への影響を懸念する声も聞かれました。

そして、パウダースノーが外国から来た人に人気の、北海道のニセコエリアでは別の悩みも。
ここでも、先月上旬からのおよそ1か月で50件余りの自動通報がありましたが、1件を除いて「事故」ではなく、さらに折り返し連絡してみると、そのほとんどが外国からのスキー客。

何があったのか、事故かどうかを英語で確認するのは簡単ではないといいます。
ニセコエリアを管轄する羊蹄山ろく消防組合消防本部の担当者
「うちは規模が大きくないので通報への対応は2人で行っているのですが、事実確認に時間がかかり、業務に影響が出ています。さらに件数が増えると、本当に緊急の対応が必要な通報に迅速に対応できなくなる可能性もあると感じます」

総務省消防庁も注視

総務省消防庁は各地の消防本部から連絡を受けてこうした状況を認識し、全国のほかの消防にも「意図しない通報」があることを伝えたということです。

また、去年の秋まではみられなかった現象のため、「iPhone14」の発売が影響している可能性があるとみて11月下旬にはアップルの日本法人と話し合いの場を持ったということです。

その後、アップルは、基本ソフトをアップデートし、「衝突事故検出の最適化」を行ったとしていて、総務省消防庁の担当者は「状況を注視しています」と話しています。

“よりよい機能になってほしい”

「意図しない通報」がもたらす波紋。

しかし、SNS上には、自動検出機能が命を守ることにつながったという書き込みも、見られます。

岐阜県の男性は、父親の友人がスマートウォッチの自動検出機能に救われたと書き込みました。

父親の友人は70代。心臓に持病があり、去年の夏、ひとりで歩いている時に、突然、体調が悪化して意識を失ったそうです。
倒れたのは路地裏で、その時、周りには人がいませんでした。

しかし、身につけていたスマートウォッチが、自動で119番通報してくれたのです。
救急隊が駆けつけ、なんとか一命をとりとめることができました。
SNSに書き込んだ男性
「スマートウォッチがなかったらと考えると恐ろしいですし、本当に感謝しています。私も釣りが趣味で足場が悪い場所に行くこともあるので、もしものときのために自分も身につけたいと思っています」
また、冒頭でご紹介した、スキーを楽しんでいて母親に転倒の連絡がいったという雄太さんは、こう話します。
雄太さん
「母親には新年早々、申し訳ないことをしました。ただ、機能としてはとてもよいものだと思っているので、ぜひブラッシュアップしてほしい。場面や活動の内容に応じて、細かく設定が変えられるといいですよね」
日々、進化を遂げる最新のテクノロジー。

便利になる一方で、思いも寄らぬ影響が出ることも少なくありません。

自動検出機能が、ユーザーにとってはもちろん、通報を受ける側にとってもより使い勝手のいいものになることを私たちも期待したいと思いました。
(ネットワーク報道部 鈴木有 芋野達郎 土方薫/岡山局 坂井耀一郎/長野局 大谷紘毅/SNSリサーチ 小山佳予子)