アポロ計画以来の月探査「アルテミス計画」 ロケット打ち上げ

宇宙飛行士の月への着陸を目指す国際プロジェクト「アルテミス計画」で、月までの試験飛行を行う無人の宇宙船を搭載した大型ロケットが、日本時間の16日、アメリカのケネディ宇宙センターから打ち上げられました。NASAによりますと宇宙船は予定どおりロケットから切り離され、月に向けて飛行を続けているということです。

NASA=アメリカ航空宇宙局は日本やヨーロッパも参加する国際的な月探査計画「アルテミス計画」で2025年を目標に、アポロ計画以来となる宇宙飛行士による月面着陸を目指しています。

計画の第1段階として16日、アメリカ・フロリダ州のケネディ宇宙センターから宇宙船オリオンを搭載した大型ロケット「SLS」=「スペース・ローンチ・システム」が打ち上げられました。

準備作業中、燃料の水素を注入する際に漏れが確認され、発射台で漏れを止める作業を行うなど、打ち上げは当初の予定よりも40分以上、遅れましたが、日本時間の午後3時47分ごろ、ロケットは無事、打ち上げられ、ごう音を立ててながら上昇していきました。

NASAによりますと日本時間の午後6時前に宇宙船オリオンは予定どおり、ロケットから切り離され、現在、月に向かっているということで、このあと、月を周回して地球に戻る、およそ25日間の試験飛行を行う計画です。

宇宙船の内部にはマネキン3体が載せられ、衝撃や放射線の影響など、将来の有人飛行に向け必要なデータを集めます。

また、ロケットには日本の開発した小型の探査機2機も搭載され、月やその周辺でさまざまな観測や実験が行われる予定です。

NASA会見「新たな始まり『アルテミス時代』の到来」

宇宙飛行士の月への着陸を目指す国際プロジェクト「アルテミス計画」で、NASA=アメリカ航空宇宙局は大型ロケットの打ち上げ後、記者会見し、無人の宇宙船が予定通り、ロケットから切り離され、月に向かう軌道への投入に成功したと発表しました。

宇宙船は現在、月に向けて飛行を続けているということです。会見でNASAのネルソン長官は、半世紀前のアポロ計画を念頭に、「我々はただ単に月に戻る訳ではない。月面で暮らし、その先の火星へ人類を送り届ける方法を学ぶために向かう。これは新たな始まりであり、『アルテミス時代』の到来だ」と述べ、今回のミッションが、人類が火星に向かう足がかりになることへの期待を示しました。

「アルテミス計画」とは

「アルテミス計画」は宇宙飛行士を再び月に送る計画で、アメリカが中心となって進め、日本やヨーロッパなども参加しています。

1960年代から70年代、人類を月面に送り込んだ「アポロ計画」と同様、ギリシャ神話にちなんで名付けられ、「アルテミス」は「アポロ」の双子の妹で、月の女神とされています。

計画ではまずは、3つの段階で月を目指します。

第1段階の今回は、新たに開発したロケットを使って同じく新たに開発した宇宙船「オリオン」を無人の状態で打ち上げ、月を周回する試験飛行を行います。

その後、第2段階として2024年を目標に実際に宇宙飛行士を乗せて月を周回する試験飛行を行い、第3段階として2025年を目標に宇宙飛行士が月面に降り立つ計画です。

計画どおりに実現すれば、1972年にアポロ17号が宇宙飛行士を乗せて月面に着陸して以来、およそ半世紀ぶりのこととなります。

さらにその先には月を周回する新しい宇宙ステーション「ゲートウェイ」を建設し、宇宙飛行士を定期的に送り込んで滞在できるようにする計画です。

この計画では月を拠点として、2030年代には火星に有人着陸することも見据えています。

NASAは当初、2024年までに宇宙飛行士を月に降り立たせることを目指していましたが、ロケットの開発が遅れて打ち上げがずれ込んでいました。

今回の計画でNASAは初めての女性飛行士の月面着陸を目指すほか、日本人宇宙飛行士が月面に降り立つことも検討されています。

月面着陸を目指す探査機は「OMOTENASHI(オモテナシ)」

このうち「OMOTENASHI」は今回の打ち上げで唯一、月面着陸を目指す探査機です。

日本はこれまで、月面に着陸した実績がなく、成功すれば、旧ソビエト(1966年)、アメリカ(1966年)、中国(2013年)に続く4番目となります。

「OMOTENASHI」は、ロケットから分離されたあと探査機が持つガスジェットを噴射して、月に向けて軌道を修正。そして、月に降り立つ直前に、着陸態勢に入るため、向きを変えるとともに、探査機そのものを回転させながら姿勢を安定させます。

大気のある地球と異なり、パラシュートを開いて減速することができないので速度を落とすための固体ロケットを進行方向に噴射。時速をおよそ180キロまで落として月に衝突させます。

探査機にはあらかじめ、衝撃を吸収する緩衝材を入れるなど、複数の対策が施されていて、まさに月に「体当たり」で着陸する計画。成功したかどうかは、地球に送られる電波で確認することにしています。

「OMOTENASHI」はミッションとして、月面着陸のほか、月に向かう軌道に入った後、被ばく線量を1分ごとに計測する予定で、有人での月探査活動に備えて、放射線環境に関するデータを集めることにしています。

月面に降り立つことができれば、世界最小の月面着陸機になるということで、注目されます。

月の裏側に回り込む探査機は「EQUULEUS(エクレウス)」

もう1つの探査機「EQUULEUS」は、JAXAや東京大学などが共同で開発。地球からは見えない月の裏側に回り込む計画です。

そのエリアには、月と地球の引力に加えて、探査機の遠心力が釣り合う「ラグランジュ点」と呼ばれる場所が5か所あり、この周辺にある軌道に入ると、最小限の燃料でとどまり続けることが可能です。

この特性を生かすことで、将来、月へのアクセスや、火星探査の重要拠点となる「宇宙港」の建設場所になりうることから「ラグランジュ点」は宇宙開発上の重要な場所だと位置づけられています。

「EQUULEUS」は、この場所に効率よく到達することが目的で、ロケットからの分離後は、推進剤に水を使い、1年半ほどかけて月の重力を使うなどして軌道を変えながら月の裏側にある「ラグランジュ点」に向かう計画です。

そして、有人での月や周辺探査に重要な地球周辺の放射線環境や、月にぶつかる隕石の撮影などに挑戦することになっています。

超小型の探査機は開発のコストやハードルが低く、今後も活用の機会が増えると期待されることから、JAXAは月面着陸や航行に必要な技術を実証し、将来の科学探査の可能性を広げるねらいです。

宇宙船「オリオン」今回の試験飛行計画

今回打ち上げられる宇宙船「オリオン」は「アルテミス計画」に合わせてNASA=アメリカ航空宇宙局などが開発しました。

打ち上げられたあと月へ向かう軌道にのって飛行し、打ち上げから12日後に、およそ48万キロ離れた月の裏側付近を通過して再び地球に向かい、25日後に太平洋に着水する計画です。

今回の試験飛行は、オリオンが問題なく月を往復することができるか確かめるとともに、有人飛行に必要なさまざまなデータの計測が行われます。

その1つが3体のマネキンを使った実験です。

マネキンにはそれぞれ名前がつけられ、そのうちの1体「カンポス」は船長の席に設置され、振動や衝撃の大きさなどを計測します。

ほかの2体は「ヘルガ」と「ゾーハ」という名前で、今回計画されている女性飛行士の月面着陸に向けて女性の体が飛行中に受ける放射線の影響を5000個以上のセンサーを使って調べます。

「ゾーハ」には放射線から人体を保護するベストが着せられ、その効果も確かめます。

また、オリオンが地球に帰還する際には表面温度がおよそ2800度に達すると予想され、オリオンの耐熱シールドがこうした高温に耐えられるか確かめるということです。

今回打ち上げの「SLS」とは

今回打ち上げられるNASAのロケット「SLS」は小型衛星を10機搭載する予定でそのうち2機が日本の探査機です。

2機のサイズは1辺がそれぞれおよそ11センチ、24センチ、37センチといういわゆる“超小型”で、いずれも地球の近くで分離されたあと自力で月へ向かいます。

JAXAによりますと、打ち上げが延期になったあと、先月13日に2機ともにバッテリーの充電を行うなど、必要な作業を終えているということです。

「SLS」8月と9月打ち上げ中止理由

今回の打ち上げに使われる大型ロケット「SLS」はアルテミス計画やその先の宇宙探査のために開発されました。

全長およそ98メートルの2段式で、月を回る軌道に最大で27トンを打ち上げる能力があります。

「コアステージ」と呼ばれる1段目のロケットは、スペースシャトルで使われたエンジンを改良して作られた、液体水素と液体酸素を使ったメインエンジンを4基搭載しています。

また、左右に2基ある補助ロケットは、スペースシャトルで使用された補助ロケットをもとに開発された固体燃料のロケットです。

コアステージが切り離されたあと、搭載された「ICPS」と呼ばれる2段目のロケットが宇宙船「オリオン」を月に向かう軌道に乗せます。

NASAによりますと、SLSは打ち上げ時、アポロ計画で使われた大型ロケット「サターンV」よりも大きな推進力を出すことができるということで、「NASAが開発したロケットの中で最も強力だ」としています。

SLSには複数のバリエーションが計画され、将来はさらに大きな推進力を持つロケットが使われる予定です。

NASAによりますと、8月にはコアステージのエンジンを冷却できないトラブルが発生、また9月には燃料注入の際に水素漏れが発生し、それぞれカウントダウンの途中で打ち上げが中止されました。

NASAは問題があった箇所の部品交換や作業手順の変更を行ったうえで、事前にテストを行い対策ができていることを確認し、今回の打ち上げに臨んでいるとしていますが、今回も燃料を注入する際に水素漏れが確認され、対応する事態になりました。

打ち上げから帰還まで

NASAによりますと大型ロケットSLSはおおむね次のような手順で打ち上げられます。

▽打ち上げのおよそ9時間前からSLSに、燃料となる液体水素や液体酸素を注入する作業を行います。
▽50分前には担当者による最終のブリーフィングが行われます。
▽15分前、打ち上げの責任者がこのまま打ち上げ作業を進めるか、最終判断を行います。
▽10分前には最終的な打ち上げに向けたカウントダウンを始め、内部電源への切り替えなど最終調整を行います。
▽そして打ち上げの6秒前にコアステージのエンジンが点火されます。

そして、打ち上げられてから、
▽およそ2分後に補助ロケットが、▽8分後にコアステージがそれぞれ切り離されます。

その後、打ち上げからおよそ1時間半後にオリオンが月に向かう軌道にのるよう、2段目のエンジンの噴射が行われ、およそ2時間後にオリオンが分離されます。

オリオンは月へ向かって飛行し、打ち上げから5日後には月に「最接近」します。そして、月を周回しながら12日後に地球から最も離れたおよそ48万キロのところにまで到達します。

打ち上げから15日後に地球に帰還する手順が始まり、打ち上げから25日後、アメリカ西部カリフォルニア州サンディエゴ沖の太平洋に着水する計画です。

ケネディ宇宙センター周辺には多くの観光客

半世紀ぶりの宇宙飛行士による月探査の第一歩となるロケットの打ち上げを一目見ようと、ケネディ宇宙センターがあるフロリダ州ケープカナベラルや、その周辺には多くの人が集まっています。

ケネディ宇宙センターが見える公園には、打ち上げ時刻の8時間以上前からキャンピングカーなどで大勢の人がやってきて、双眼鏡やカメラで発射台の方向を見たり、写真を撮ったりして打ち上げを待っていました。

このうち、イギリスから打ち上げを見にきたという男性は「月探査への第一歩が見られるのは一生に一度の機会です。将来、超重量級のロケットや宇宙船が誕生する可能性があり、とても興奮しています」と話していました。

また、中西部オハイオ州から車で20時間かけてやってきたという夫婦は「ここに到着したら、どんどん気分が盛り上がってきました。たびたびカウントダウンの途中で延期されましたが、3度目の正直で成功すると思います」と興奮した様子で話していました。

地元の観光当局によりますと、今回の打ち上げに合わせておよそ10万人の観光客がこの地域を訪れると見込んでいるということです。

打ち上げを見た人たちは

ケネディ宇宙センターから15キロ余り離れた公園では、全米各地や海外から訪れた人たちがロケットの打ち上げを見守りました。

集まった人たちは声を合わせてカウントダウンをし、ロケットが打ち上げられると大きな歓声をあげていました。

そして、夜空を上昇していくロケットが見えなくなるまで軌跡を追っていました。

地元フロリダ州に住む女性は「とても感動的で美しく、涙が出てきました」と話していました。

また、イギリスからきたという男性は「言葉を失いました。まだ実感がわきません。音が切り裂くように伝わってきました。今まで見たものの中で一番、輝いていました」と話していました。