捨てられるバナナ

捨てられるバナナ
「日本で、年間1000トンのバナナを廃棄しています。弊社だけで
ある企業の担当者の言葉です。

日本人がよく食べる果物、18年連続1位のバナナ。そんなバナナが、実は大量に捨てられているというのです。いったいなぜ?
(報道局記者 長野幸代)
最初に向かったのは、東京・表参道にあるバナナジュース専門店。
若い世代に人気の、おしゃれな外観です。

注文して受け取った商品には、あるシールが貼られていました。
「もったいないバナナ」

聞くと、すべて「規格外」の、これまで廃棄されていたバナナを使っているとのこと。

そんなバナナが、ジュースになるんですか?
榊原大輔店長
「去年からこのバナナを使うようになりましたが、正直、味は全然変わらない。廃棄されていたといっても、結局全部、外側(バナナの皮)が理由で、皮をむけば味も質も全く問題ない」
このバナナ、果物の生産販売大手のドールが提供したものです。

会社に廃棄の現状について聞きました。
成瀬晶子シニアマネージャー
「日本国内で、我々のドールの名義で廃棄されているバナナだけでも、年間1000トンのバナナが規格外として排出されています」

バナナ、どうして捨てられる?

よく食べる果物、18年連続1位のバナナ。おいしく栄養分が豊富なことや、手頃な価格も人気の背景にあります。
(※日本バナナ輸入組合「バナナ・果物 消費動向調査」2022年7月)

財務省の貿易統計によると、日本は年間およそ100万トンのバナナを輸入しています。

消費されるバナナのほとんどは、海外から輸入されたものです。

しかし、この会社以外にも、スーパーなどの店頭に並ぶまでのさまざまな過程で、多くのバナナが廃棄されているといいます。

せっかく輸入されたのに、国内で廃棄されてしまうという大量のバナナ。

この会社の場合、規格外として廃棄されたバナナの9割以上を動物園やフードバンクなどへ寄付しています。このほかにもジュース店に提供したり、アイスなどの加工食品に活用したりすることで、バナナの廃棄の現状を消費者に知ってもらいたいとしています。

そもそも、どうしてそんなに多くのバナナが規格外になるのでしょうか。
成瀬晶子シニアマネージャー
「皮に少し傷がついたものや、輸入してから店頭に並ぶまでに熟れすぎてしまって茶色の点々、いわゆるシュガースポットがついたものは、消費者から購入されるのを敬遠されがちで、スーパーで規格外として廃棄されてしまうリスクが高いんです」
私も思い当たる節があります。

スーパーに行くと必ず手に取るバナナ。家で少しでも長く保管しておけるよう、傷のない青いものを見つけて買っていました。

こうした行動が、バナナの廃棄につながっていたのです。
成瀬晶子シニアマネージャー
「我々もなるべく最善の状態で買って頂けるよう熟度管理をしていますが、バナナにも個体差はあり、すべてを100%『完璧』な熟度にするのは難しく、今まで、熟れすぎたものは規格外として廃棄していたのが現状です」
実は、日本に送られる前にも、バナナは大量に廃棄されています。

フィリピンにあるこの会社の農園だけで、2万トンのバナナが現地で埋め立て廃棄されています。
フィリピンの文化に詳しく、「甘いバナナの苦い現実」の著者でもある、立教大学の石井正子教授。

バナナはほとんどが輸入なので消費者は生産地のことを知りにくい、とした上で、次のように話しました。
石井正子教授
「日本のスーパーに並んでいる、安くて傷のないツルツルのバナナは、さまざまな課題が指摘されている生産者たちの相当な苦労と、ものすごい量の、捨てられるバナナの上に成り立っています。もう少し見た目にこだわらず、消費のあり方を考えてみることが大事ではないか」
中身には何も問題ないのに、店頭に並ぶ前に捨てられてしまう。

それはバナナだけではありません。

「訳あり」の理由は?

東京・大田区の住宅地に、「訳あり激安」の看板を掲げる店があります。

19円の飲料水に79円のめんつゆ。一般のスーパーで売られている食料品の価格の半額以下の商品もあります。
訳ありの理由。
・お中元のギフトなど、販売の時期を過ぎたもの。
・包装されたビニール袋や外箱が破れたもの。
・パッケージがリニューアルされて流通できなくなったもの。
・賞味期限が迫ったパンや飲料
もちろん商品自体には何の問題もありませんが、このままでは廃棄されてしまいます。

これを仕入れて販売しているのです。

運営するファンタイムの松井順子代表によると、去年1年間で、全ての店舗の合計で、およそ35万点の商品、およそ700トンを販売しました。
松井順子代表
「食べられるものが、お金をかけて大量に処分されています。買い取り依頼は、入れ替わり立ち替わり入ってきています」
実は、消費者の「不在」も、新たな廃棄を生んでいることが分かりました。

消費者のためお金をかけて廃棄する

店の倉庫の一角にある、飲料が入った段ボールが積まれたコーナー。

実は、ネット通販で注文を受けたものの、注文者が不在のため受け取られず、売主に返却された商品たちです。
松井順子代表
「飲料は重いのでインターネットで注文されることがあると思いますが、配達されたときに出張とか、不在票に気づかなかったとか、何かの理由で受け取れなかった場合、配達を繰り返されたあと、売り主に商品が返送されます。すると伝票のはがし跡があるので、この商品はもう再販されず廃棄につながる」
伝票の跡なんて気にしません、と思わず言いました。
松井順子代表
「レビューに書きませんか? 注文して届いた商品に伝票のはがし跡があると、残念に思われることもあると思います。それを販売店さんは懸念している。気持ちよく買っていただきたいという思いが、廃棄につながっています」
「私たちは『完璧』なものに慣れ過ぎているんですよね。気づかないところで、すごく贅沢な完璧な商品をいつも買っている。でもその裏では廃棄がとても多く出ています」

私たちは変われるか

相次ぐ食料品の値上げによる、家計への負担。
1世帯あたりの支出は、前の年度に比べおよそ3万5000円増えるとみられています。
(※日本総合研究所 9月29日時点CPI見通しに基づいた試算)
その一方、1世帯あたり年間およそ5万6000円分の食品が捨てられているという推計もあります。
(※京都市の推計 2019年度)
日本総合研究所の小方尚子主任研究員は、食品ロスを60%削減することで、物価高を相殺する経済効果があると試算します。

その上で、次のように話しました。
小方尚子主任研究員
「日本ではオイルショックをきっかけに、省エネ性能の高い家電などが登場し、消費者も選択し、社会全体で省エネが進んだ。今回も同じ熱意を持って食品ロスの削減に向けて取り組むことが、より安いコストで豊かな食生活を送る可能性を広げることにもつながる」
“もったいない、を再流通させたい”。
今回の取材で何度も聞いた言葉です。

私たちは物の値動きに敏感な一方、その商品の裏側をどこまで知ろうとしていたのか。
消費への向き合い方やその選択のあり方が、問われていると思います。
報道局記者
長野幸代
2011年入局
岐阜局、鹿児島局を経て報道局経済部
現在サタデーウオッチ9担当