JR山手線 乗客を乗せた営業列車で自動運転の実証運転が始まる
都心の大動脈、JR山手線で、11日午後から、乗客を乗せた営業列車で自動運転の実証運転が始まりました。踏切がある過密ダイヤの路線では初めてで、鉄道自動化の加速につながるか注目されます。
JR東日本は、人口減少などを背景にした将来的な運転士不足への懸念から、自動運転の開発に取り組んでいて、山手線では、4年前から終電後の深夜に、ことし2月以降は日中に、乗客を乗せずに走行試験を行ってきました。
そして11日から、山手線としては初めて乗客を乗せた営業列車で自動運転の実証運転を行うことになり、最初の列車が午後4時前に品川区の大崎駅を出発しました。
列車は、通常と同じ11両編成で、JR東日本が独自に開発したATO=自動列車運転装置が搭載され、車両の先頭などに「ATO」という文字が入っています。
運転士は各駅を出発する際にボタンを押すだけで、加速や減速、停車は自動で行われ、1周34.5キロの山手線を走行していました。
高架上を自動で走る東京の「ゆりかもめ」などの新交通システムと違い、山手線はホームドアのない駅や踏切が残り、人や車が線路内に入った際の対応が必要になります。
加えて、1日平均76万人が利用し、ラッシュ時には3分に1本という過密ダイヤで、こうした環境での自動運転の実証運転は国内では例がないということです。
JR東日本は、装置を搭載した2つの列車を今後2か月間で合わせて1000周ほど走行させ、運転機能や安全対策、それに省エネ性能などのデータを集めることにしています。
そのうえで▼2028年ごろの山手線のすべての列車への自動運転の導入を目指し、▼2030年ごろには運転士だけのワンマン運転を、▼将来的には運転士も乗らず、係員だけが乗務する運転も実現させたいとしていて、今回の実証運転は鉄道自動化の加速につながるか、試金石として注目されます。
高架上を自動で走る東京の「ゆりかもめ」などの新交通システムと違い、山手線はホームドアのない駅や踏切が残り、人や車が線路内に入った際の対応が必要になります。
加えて、1日平均76万人が利用し、ラッシュ時には3分に1本という過密ダイヤで、こうした環境での自動運転の実証運転は国内では例がないということです。
JR東日本は、装置を搭載した2つの列車を今後2か月間で合わせて1000周ほど走行させ、運転機能や安全対策、それに省エネ性能などのデータを集めることにしています。
そのうえで▼2028年ごろの山手線のすべての列車への自動運転の導入を目指し、▼2030年ごろには運転士だけのワンマン運転を、▼将来的には運転士も乗らず、係員だけが乗務する運転も実現させたいとしていて、今回の実証運転は鉄道自動化の加速につながるか、試金石として注目されます。
走行訓練重ね 課題洗い出す会議も
山手線での自動運転の導入に向け、JR東日本は、5年前からプロジェクトチームを立ち上げ、開発を進めてきました。
4年前、終電後の深夜に初めて走行試験を行い、ことし2月からは日中時間帯に一般の営業列車が前後を走る中、乗客を乗せない試験用の車両を走行させてきました。
そして、今回初めて乗客を乗せた営業列車で実証運転を行うことになり、ことし6月下旬から山手線の運転士およそ250人を対象に走行訓練を重ねてきました。
先月行われた訓練には男女2人の運転士が参加し、1周34.5キロの山手線をおよそ半周ずつ運転しました。
出発の際にボタンを押すだけで、ふだんは速度の操作で使うレバーに触れることなく、自動で行われる加速や減速などを確認していました。
駅のホームから線路内に人が立ち入った想定の訓練では、手動操作で列車を緊急停止させ、安全確認を行ったあと再びボタンを押すと、列車は自動運転でゆっくりと駅に向かって走っていました。
運転士の1人は「停止位置を修正する際にまだ操作に不慣れな部分もありますが、営業運転までにしっかり克服したい。正直、緊張もありますが、お客様によりよい乗り心地を感じてもらえるよう頑張っていきたい」と話していました。
また、自動運転のシステム開発担当者と訓練走行を行った運転士たちが課題を洗い出して改善につなげる会議も続けられてきました。
先週の会議では現場の運転士から「お客さんが満員に近い状態の時や、天気も夏の雨と冬の雨、特にみぞれではブレーキの効きや加速も異なることがある」と自身が運転する際に意識してきた点を伝え、自動運転のシステムの改善に生かしてほしいと要望していました。
開発担当のJR東日本モビリティ・サービス部門の北原知直さんは、「営業運転ではいろいろな事象や想定外のトラブルも起きると思うので、その異常事態に自動運転がしっかり対応できるかが鍵になる。手動運転に切り替えられる機能も持たせているので、どのような場面で手動で操作をしたか、データを分析しながらシステムの構築につなげていきたい」と話していました。
4年前、終電後の深夜に初めて走行試験を行い、ことし2月からは日中時間帯に一般の営業列車が前後を走る中、乗客を乗せない試験用の車両を走行させてきました。
そして、今回初めて乗客を乗せた営業列車で実証運転を行うことになり、ことし6月下旬から山手線の運転士およそ250人を対象に走行訓練を重ねてきました。
先月行われた訓練には男女2人の運転士が参加し、1周34.5キロの山手線をおよそ半周ずつ運転しました。
出発の際にボタンを押すだけで、ふだんは速度の操作で使うレバーに触れることなく、自動で行われる加速や減速などを確認していました。
駅のホームから線路内に人が立ち入った想定の訓練では、手動操作で列車を緊急停止させ、安全確認を行ったあと再びボタンを押すと、列車は自動運転でゆっくりと駅に向かって走っていました。
運転士の1人は「停止位置を修正する際にまだ操作に不慣れな部分もありますが、営業運転までにしっかり克服したい。正直、緊張もありますが、お客様によりよい乗り心地を感じてもらえるよう頑張っていきたい」と話していました。
また、自動運転のシステム開発担当者と訓練走行を行った運転士たちが課題を洗い出して改善につなげる会議も続けられてきました。
先週の会議では現場の運転士から「お客さんが満員に近い状態の時や、天気も夏の雨と冬の雨、特にみぞれではブレーキの効きや加速も異なることがある」と自身が運転する際に意識してきた点を伝え、自動運転のシステムの改善に生かしてほしいと要望していました。
開発担当のJR東日本モビリティ・サービス部門の北原知直さんは、「営業運転ではいろいろな事象や想定外のトラブルも起きると思うので、その異常事態に自動運転がしっかり対応できるかが鍵になる。手動運転に切り替えられる機能も持たせているので、どのような場面で手動で操作をしたか、データを分析しながらシステムの構築につなげていきたい」と話していました。
山手線の課題と制御システム
JR「山手線」は、一日当たりの利用客の平均がコロナ前は100万人を超え、昨年度も76万人に上っています。
踏切が1か所残っているほか、30の駅のうち新宿駅と渋谷駅の2つの駅ではまだホームドアが整備されておらず、線路内への侵入や混雑時のホーム、駆け込み乗車などを想定した安全対策が求められます。
今回の自動運転の実証運転では、列車に速度や停止位置を制御する装置が搭載され、地上に設置された「自動列車制御装置」と連携して走行する仕組みです。
装置の故障や、線路内に車や人が入ることがあれば、運転士が通常の手動運転に切り替えたり、列車を緊急停止させたりすることになっているほか、従来どおり車掌も同乗しており必要に応じて避難誘導などの対応をするとしています。
このほか、これまでの試験では、自動運転によって駅間の所要時間を変えずに最高速度を抑えられ、およそ12%のエネルギー削減効果があったということで、実際の営業列車でより詳細な分析をしていくということです。
踏切が1か所残っているほか、30の駅のうち新宿駅と渋谷駅の2つの駅ではまだホームドアが整備されておらず、線路内への侵入や混雑時のホーム、駆け込み乗車などを想定した安全対策が求められます。
今回の自動運転の実証運転では、列車に速度や停止位置を制御する装置が搭載され、地上に設置された「自動列車制御装置」と連携して走行する仕組みです。
装置の故障や、線路内に車や人が入ることがあれば、運転士が通常の手動運転に切り替えたり、列車を緊急停止させたりすることになっているほか、従来どおり車掌も同乗しており必要に応じて避難誘導などの対応をするとしています。
このほか、これまでの試験では、自動運転によって駅間の所要時間を変えずに最高速度を抑えられ、およそ12%のエネルギー削減効果があったということで、実際の営業列車でより詳細な分析をしていくということです。
国内の鉄道自動化の動き
人口減少などを背景に、自動運転を目指す動きは鉄道業界で広がっていて、国土交通省は先月、鉄道で自動運転を導入する際の技術的要件などを盛り込んだ初の指針を公表しました。
この中では、自動化のレベルを6段階で示しレベルの高いものから順に、
▼係員が誰も乗らない段階、
▼避難誘導などのため運転士ではない係員が乗務する段階、
それに日本独自の規格として、
▼運転士ではない係員が列車の先頭部に乗務する段階を示しています。
3つめについては、JR九州が、福岡市などを2両編成で走る在来線の「香椎線」でおととしから実証運転を始めています。
▼今回の山手線の実証運転はさらに1つ下の段階で、運転士が乗車し各駅を出発する際にボタンを押します。
ただ加速や減速などの操作はシステムに任せるため運転士の業務が大きく減り、車掌が担ってきたドアの開閉なども担えるとして、JR東日本は近い将来、ワンマン運転の実現を目指しています。
山手線と同じ段階の自動運転は、JR西日本が大阪環状線で終電後の深夜に走行試験を行ったほか、JR東日本では常磐線の踏切のない一部の区間で始めています。
この中では、自動化のレベルを6段階で示しレベルの高いものから順に、
▼係員が誰も乗らない段階、
▼避難誘導などのため運転士ではない係員が乗務する段階、
それに日本独自の規格として、
▼運転士ではない係員が列車の先頭部に乗務する段階を示しています。
3つめについては、JR九州が、福岡市などを2両編成で走る在来線の「香椎線」でおととしから実証運転を始めています。
▼今回の山手線の実証運転はさらに1つ下の段階で、運転士が乗車し各駅を出発する際にボタンを押します。
ただ加速や減速などの操作はシステムに任せるため運転士の業務が大きく減り、車掌が担ってきたドアの開閉なども担えるとして、JR東日本は近い将来、ワンマン運転の実現を目指しています。
山手線と同じ段階の自動運転は、JR西日本が大阪環状線で終電後の深夜に走行試験を行ったほか、JR東日本では常磐線の踏切のない一部の区間で始めています。
【Q&A】実証運転の意義や安全面の課題は
鉄道の自動運転に詳しく、国の検討会の座長として指針作成にも関わった東京大学の古関隆章教授に聞きました。
Q1 今回の山手線の実証運転の意義は?
A1 これまで自動運転は、新交通システムのように比較的低速で、高架で日常の空間からある程度隔離されたところでまず実現し、それがヨーロッパを中心に地下鉄にも展開していった歴史がある中で、日本の一般鉄道の自動化は20年30年遅れてきた側面もあります。
山手線は利用者も本数も多い代表的な都市鉄道で、踏切があることも含めてわれわれの生活空間に非常に近いところを走っており、日本の自動運転の重要なモデルになる試みで意義は大きいと思っています。
Q2 安全面で乗り越えるべき課題は。
A2 もちろん人間が作るものなので見落としがないとは言えない。
地震への心配もあるし、雷が落ちれば通信や電力のシステムが故障するかもしれない。
酔っ払ってホームドアから手や頭を出す乗客がいるかもしれない。
まずは経験を積む中で一つ一つ確認し、問題があれば直していくというプロセスになると思います。
乗客については、国の検討会の報告書でも「利用者の理解と協力で自動運転が成立する」と明文化されていて、「お客様は神様」ではなく安全な交通システムを作っていく非常に重要なプレーヤーの1人だと位置づけ、技術と協力的な行動が合わさってよいものができていくとしています。
Q3 日本の鉄道は開業から150年、大きな節目となるでしょうか。
A3 開業150年でお祝いムードもあるかもしれませんが、現実問題としては、すでに日本の人口は減り始め、高齢社会の中でお客さんも減る。
鉄道を運営する技術者や運転士も減っていく。
さらに新型コロナの影響で想定より早くお客さんが減ってしまい、外国のお客さんによる“かさ上げ効果”も吹き飛んでしまった。
安全で良質な鉄道サービスを維持していくことへの危機感は多くの鉄道関係者にあり、山手線の自動運転の実証は、この先50年100年の日本の鉄道の発展、あるいは交通の発展を考えるうえで非常に重要な礎になると思っています。
Q1 今回の山手線の実証運転の意義は?
A1 これまで自動運転は、新交通システムのように比較的低速で、高架で日常の空間からある程度隔離されたところでまず実現し、それがヨーロッパを中心に地下鉄にも展開していった歴史がある中で、日本の一般鉄道の自動化は20年30年遅れてきた側面もあります。
山手線は利用者も本数も多い代表的な都市鉄道で、踏切があることも含めてわれわれの生活空間に非常に近いところを走っており、日本の自動運転の重要なモデルになる試みで意義は大きいと思っています。
Q2 安全面で乗り越えるべき課題は。
A2 もちろん人間が作るものなので見落としがないとは言えない。
地震への心配もあるし、雷が落ちれば通信や電力のシステムが故障するかもしれない。
酔っ払ってホームドアから手や頭を出す乗客がいるかもしれない。
まずは経験を積む中で一つ一つ確認し、問題があれば直していくというプロセスになると思います。
乗客については、国の検討会の報告書でも「利用者の理解と協力で自動運転が成立する」と明文化されていて、「お客様は神様」ではなく安全な交通システムを作っていく非常に重要なプレーヤーの1人だと位置づけ、技術と協力的な行動が合わさってよいものができていくとしています。
Q3 日本の鉄道は開業から150年、大きな節目となるでしょうか。
A3 開業150年でお祝いムードもあるかもしれませんが、現実問題としては、すでに日本の人口は減り始め、高齢社会の中でお客さんも減る。
鉄道を運営する技術者や運転士も減っていく。
さらに新型コロナの影響で想定より早くお客さんが減ってしまい、外国のお客さんによる“かさ上げ効果”も吹き飛んでしまった。
安全で良質な鉄道サービスを維持していくことへの危機感は多くの鉄道関係者にあり、山手線の自動運転の実証は、この先50年100年の日本の鉄道の発展、あるいは交通の発展を考えるうえで非常に重要な礎になると思っています。