五輪組織委 高橋元理事を逮捕 受託収賄の疑い 東京地検特捜部

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の高橋治之元理事が、大会のスポンサー契約をめぐって紳士服大手の「AOKIホールディングス」の前会長らから総額5100万円の賄賂を受け取っていたとして、東京地検特捜部は、高橋元理事を受託収賄の疑いで、AOKI創業者の青木拡憲前会長ら3人を贈賄の疑いで逮捕しました。

受託収賄の疑いで逮捕されたのは、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の元理事の高橋治之容疑者(78)です。

また贈賄の疑いでAOKIホールディングス前会長の青木拡憲容疑者(83)と前会長の弟で副会長だった青木寶久容疑者(76)、それに子会社のAOKIの前社長、上田雄久容疑者(40)の3人が逮捕されました。
東京地検特捜部によりますと、高橋元理事は、青木前会長らから東京大会のスポンサー契約や公式ライセンス商品の製造・販売契約に関し、有利な取り計らいを受けたいという依頼を受け、みずからが経営する会社の口座に2017年10月からことし3月までの間に総額5100万円を振り込ませ、賄賂を受け取ったとして受託収賄の疑いが持たれています。

関係者によりますと、高橋元理事の会社は2017年9月に青木前会長らの資産管理会社とコンサルタント契約を結び、2018年にAOKIホールディングスは大会スポンサーとなり、公式ライセンス商品を販売していました。

高橋元理事は大会スポンサーの候補として組織委員会の幹部に紹介していたほか、青木前会長らはライセンス商品に関する審査を早めるよう要望する文書を元理事に示していた疑いがあるということです。

特捜部は、元理事らの認否を明らかにしていません。

関係者によりますと、高橋元理事は逮捕前の特捜部の任意の事情聴取に対して「オリンピックに関することは協力できないと伝えていた。受け取った資金はAOKIの事業全般に関するコンサルタント業務の正当な報酬だった」などと説明し、不正を否定していたということです。

また青木前会長は任意の事情聴取に対し、「元理事の人としての力に期待した」などと供述していたということです。

電通「誠に遺憾、捜査に全面的に協力」

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の高橋治之元理事が受託収賄の疑いで東京地検特捜部に逮捕されたことについて、電通は「高橋氏が逮捕されたことは報道を通じて承知しております。当社の元役員が逮捕されたことは誠に遺憾であり、捜査に全面的に協力してまいります」とコメントしています。

AOKIホールディングス「心よりおわび」

AOKI創業者の青木拡憲前会長ら3人が贈賄の疑いで東京地検特捜部に逮捕されたことについて、AOKIホールディングスはコメントを発表し「本件の事態を厳粛に受け止めており、引き続き、捜査に全面的に協力してまいります。本件の内容などに関するコメントについては、捜査中につき差し控えさせていただきます。当社グループのお客様ならびに関係するすべての皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけし、心よりおわび申し上げます」としています。

組織委清算法人「捜査に全面的に協力」

東京オリンピック・パラリンピックの準備や運営を担った大会組織委員会はことし6月30日で解散し、その後、清算法人が債権の取り立てや債務の弁済など清算が終わるまでの業務を引き継いでいます。

組織委員会の高橋治之元理事が逮捕されたことについて、組織委員会の清算法人は「逮捕については報道を通じて知ったところであり、大変驚いている。組織委員会における各種契約については、公正かつ適切に行われてきたものと認識していて、今後も捜査に全面的に協力していく」とするコメントを出しました。

JOC 山下泰裕会長「極めて残念だ」

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の高橋治之元理事が逮捕されたことについて、JOC=日本オリンピック委員会の山下泰裕会長が取材に応じ「マスコミの報道以上のことを全く把握していないが、これが真実であるということであれば極めて残念だ」と話しました。

また、札幌市が目指す2030年の冬のオリンピック・パラリンピックの招致活動について言及し「こういう出来事が起きたが、招致に関しては、その影響ができるだけ出ないように、関係者みんなで力を合わせて全力を尽くしていくしかない」と述べました。

小池都知事「大変残念」

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の元理事が受託収賄の疑いで逮捕されたことなどについて東京都の小池知事は17日午後、都庁で記者団に対し「大変残念に思っている。都としてこれからの動きを注視したい」と述べました。

東京都庁のなかにある東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会の清算法人は、7月に東京地検特捜部の捜索を受けていました。

そのあと小池知事は、17日夜、都庁で記者団に対し「誠に残念な事態だ。都として、これからどのように捜査が進展するのか注視していく」と述べました。

そのうえで、小池知事は「東京大会は2021年に行われたが、延期は亡くなった安倍元総理大臣のもとで決断をし、IOC=国際オリンピック委員会と連携して進めたものだ。それだけにとても残念だし、安倍元総理大臣もそういう思いを抱かれるのではないか」と述べました。

大会組織委 元理事「大変残念 徹底した真相解明を」

逮捕された高橋治之元理事とは別の、大会組織委員会の元理事は、NHKの取材に対し「理事会には、スポンサー契約は決まったあとにしか報告がないし、審判団の制服を作る社については、議題には上がらないので、その経緯はよく分からない。コロナ禍で大変な中、何とか開催にこぎつけた大会なのに、こうした疑いが出る事は大変残念だ。徹底した真相の解明をしてほしい」と話していました。

大会組織委 元幹部「気付いたら『AOKI』に」

大会組織委員会の元幹部の都庁職員はNHKの取材に対し「契約は、気付いたら『AOKIホールディングス』になっていた。ただ、その経緯については、都庁からの出向者は何も聞かされていないので、よく分からない」と話していました。

また、別の元幹部の都庁職員は、NHKの取材に対し「入札したのが『AOKI』だけだったので、少しおかしいと思っていた。事実が、捜査によって明らかになってほしい」と話していました。

大会組織委 高橋治之元理事とは

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の高橋治之元理事(78)は、1967年に大手広告会社「電通」に入社し、その後、専務や顧問を歴任しました。

電通ではスポーツ局長も務め、日本のスポーツビジネスの第一人者として広く知られ、FIFA=国際サッカー連盟など、国際的な競技団体にも幅広い人脈があります。

2002年のサッカーワールドカップ日韓大会の誘致に関わったほか、
東京オリンピック・パラリンピックの招致では、招致委員会のスペシャルアドバイザーを務め、IOC=国際オリンピック委員会の委員に対するロビー活動の中心を担い、招致のキーマンとも言われる存在でした。

2014年6月に東京大会の組織委員会の理事に就任。

新型コロナウイルスの影響で、大会の1年延期が決まる直前の2020年3月には、アメリカの有力紙、ウォール・ストリート・ジャーナルに、いち早く延期の選択肢があると語るなど、組織委員会の中でも影響力を持っていました。

AOKIホールディングス 青木拡憲前会長とは

「AOKIホールディングス」の青木拡憲前会長(83)は、全国展開する紳士服チェーンを一代で築いた創業者です。

会社のホームページによりますと、1958年に出身地の長野県で創業し、事業を拡大したのち、1976年に現在のAOKIホールディングスを設立しました。

ことし3月末時点で、全国で600を超える店舗を展開しています。

ファッション以外にもブライダル事業などを手がけ、グループ全体のことし3月期の売上高は1549億円に上っています。

2018年に東京オリンピック・パラリンピックのオフィシャルサポーターとなってからは、
大会に出場した日本選手団が開会式などで着用する公式ウエアを手がけたほか、
大会のエンブレムが付いたジャケットなどの、公式ライセンス商品も販売していました。

青木前会長は去年4月、地元の長野県内で聖火リレーのランナーも務め、故郷に錦をかざりました。

青木前会長は、2013年に出版した著書の中で、解決が難しいことは、その道の超一流のプロやコンサルタント会社を活用すべきだと強調し、「値段が高いなど、いろいろ言われることもあるが、かけた金額以上の大きな成果が得られる」などと述べています。

青木前会長は、ことし6月、若返りやガバナンス体制のさらなる強化を図るとして、会長を退任していました。

スポンサーはどう決められていたのか

東京オリンピック・パラリンピックの国内スポンサーはどのように決められていたのか。

大会組織委員会は、2014年、スポンサーを募集する「マーケティング専任代理店」に大手広告会社の電通を指名。

組織委員会の清算法人によりますと、国内のスポンサー企業は電通を窓口に、組織委員会の「マーケティング局」で検討され、IOC=国際オリンピック委員会の承認を得たうえで組織委員会が決定していました。

「マーケティング局」には局長や次長などの幹部を含め、電通から多くの社員が出向し、スポンサー企業との契約のほか、公式ライセンス商品の審査などを担当していました。

組織委員会と契約を結んだ国内スポンサー企業は協賛金の額に応じて、ゴールドパートナー、オフィシャルパートナー、オフィシャルサポーターの3つのランクに分かれ、ロゴやエンブレムなどを使った商品の販売や広告・宣伝を国内向けに行う権利を得ることができました。

2018年にオフィシャルサポーター契約を結んだAOKIホールディングスは、公式ライセンス商品としてエンブレムが付いたスーツなどを販売。

3万着以上を売り上げたほか、競技の審判などが着るユニフォームの作製も受注していました。

東京大会では1兆4200億円に上る開催経費の半分以上の7800億円余りを東京都と国が負担しましたが、組織委員会は、大会スポンサーが決まるまでの過程や協賛金の額などの契約内容は「企業の事業活動に関わる」としてほとんど公表しておらず、募集と決定のプロセスが外部から見えにくいことが事件の背景にあるという指摘も出ています。

同じランクのスポンサー企業「残念」

東京大会でAOKIと同じランクの「オフィシャルサポーター」だったスポンサー企業の担当者がNHKの取材に応じ、「大会の成功に向けて真摯(しんし)に取り組んできたので、事件は残念だ」と述べました。

本や印刷物などで使われる文字のデザイン=フォントの開発・販売を手がける企業「モリサワ」は、AOKIと同じ国内で3番目のランクの「オフィシャルサポーター」として東京大会のスポンサーを務めました。

大会のエンブレムやチケットなどに使われた特製のフォントもこの企業が開発し、提供したということです。

スポンサー契約を担当した社長室長の白石歩さんは、スポンサーになった目的について「国際的な大規模イベントで自社が開発したフォントが使われることは社員の励みになり、企業の成長につながる重要なチャンスだと思いました。オフィシャルサポーターになることは会社の信用のうえでも役立ったと思います」と述べました。

そのうえで、今回の事件については「コロナ禍の開催に賛否はあったものの、スポンサーは多くの感動を与えるアスリートを支えてきました。スポンサー1社1社は、大会の成功に向けて真摯に取り組んできたので、ゴタゴタしたイメージを持たれてしまうことはつらいし、残念です」と話しています。

スポンサーとは

オリンピックの組織委員会は、協賛金などに応じて、スポンサー側にさまざまなサービスを提供する仕組みがあります。

NHKは2015年にIOC=国際オリンピック委員会が作成し、東京大会の組織委員会で使われていたスポンサー契約についての内部資料を独自に入手しました。

このなかではスポンサー契約を結ぶ企業側のメリットとして「ブランドイメージの向上」や「世界的な舞台への貢献」のほか、五輪のシンボルを販売促進に役立てることによる「収益の増大」などが掲げられています。

大会スポンサーはロゴやエンブレムなどを使った商品の販売や広告・宣伝などを行うことができますが、内部資料には、このほかにも組織委員会が物品などを調達する際にスポンサーが優先的に供給できる権利や、観戦チケットや聖火ランナーの枠の割り当てなどスポンサーに提供されるさまざまなサービスが記載されています。

東京大会の国内スポンサーはあわせて68社で、協賛金の額に応じて「ゴールドパートナー」、「オフィシャルパートナー」、「オフィシャルサポーター」の3つのランクに分かれていて、関係者によりますと実際に提供されるサービスの内容は、スポンサーのランクや個別の契約内容によって大きく異なっていたということです。

AOKIホールディングスは、このうち3つ目のランクの「オフィシャルサポーター」でした。

電通の現役社員は

電通の現役社員がNHKの取材に応じ、東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー企業獲得のための営業活動について「担当部署が資料を作ってクライアントに営業をかける。金額は最初から決まっていて価格交渉がないわけではないが、入札やオークションのように高い金額を出せばスポンサーになれるわけではない。競合他社との兼ね合いや『過去の大会でも協賛しているか』といった、それまでの経緯が重要視される」と述べました。

そのうえで「企業にとってオリンピックの協賛はあくまで『入場券』で、その権利を買っただけでは意味がない。われわれはそこから広告や聖火リレー、入場チケットを使ったキャンペーンなどを合わせて提案する。われわれにとっては、ビジネスチャンスだし、クライアントの側は事業の発展、拡大につながり、うまく先方の意向に合うよう提案していく」と説明しました。

今回の事件では、電通の専務だった高橋元理事がスポンサー契約をめぐってAOKI創業者の前会長からさまざまな依頼を受けていた疑いがあるとされていますが、スポンサー営業では現場の社員ではなく、電通の役員クラスの幹部が“トップセールス”で相手企業の社長などと直接交渉するケースも少なくないということです。

この社員は「営業先の企業の現場の担当者には決裁権がない場合がほとんどなので、金額が大きい場合、役員会でいろんな意見が出てスポンサーがなかなか決まらないことがある。『トップセールス』には役員会の決定をスムーズに進められるという魅力がある」と話しています。

一方「OBの高橋元理事が営業して契約を取ってくるのは珍しい形だと思う」と述べました。

公式ライセンス商品の審査

関係者によりますと、青木前会長らはスポンサー契約のほか、AOKIが製造、販売する公式ライセンス商品について組織委員会の審査を早めるよう高橋元理事に依頼していた疑いがあるということです。

「公式ライセンス商品」はオリンピックのエンブレムやマスコットなどが付いた雑貨や土産物などの商品で、組織委員会と契約を結んだメーカーやスポンサー企業だけに製造・販売が許可され、東京大会では120余りの企業が契約を結びました。

NHKが独自に入手したライセンス契約に関する文書には、企業側が、商品やパッケージなどのサンプルを組織委員会に提出し、承認を得なければ公式ライセンス商品を製造・販売できないことが明記されています。

NHKの取材に対し、複数のメーカーの担当者は、組織委員会の審査はチェックが細かく、申請から商品化までには時間がかかったと証言しました。

このうち1社の担当者は「ロゴやキャラクターの大きさや配置、色味など1つ1つに組織委員会の審査が入り、具体的な商品の中身についての意見交換やイメージのすり合わせに時間がかかった。開催が近づいてくると申請の件数が増え、担当者も相当遅くまで残業しているようだった」と話していました。

そのうえで「企業としては商品化できるか、なかなか決まらないのは困るので、早く審査してほしいという思いはあります。大会が終わって1年のこのタイミングでこのような話が出てくるのは、オリンピックに関わったものとしては残念です」と話しました。

専門家「透明性が欠けていると言われてもしかたがない」

オリンピックなどのスポーツビジネスに詳しい関西大学名誉教授の宮本勝浩さんは、今回の事件について「単なる民間企業どうしの契約であれば国民に内容を明示する必要はないが、オリンピック・パラリンピックには国民・都民の税金が非常に多くつぎこまれている。国民には知る権利があり、組織委員会は透明性が欠けていると言われてもしかたがない」と指摘しました。

そのうえで「組織委員会のメンバーが『みなし公務員』であることを支援するスポンサーの全員が知っていたとは考えられない。事前にオリンピック前後の一定期間は民間企業とコンサルティング契約を結べないようにするなどのルールを作り、周知徹底しておくべきだったのではないか。検察には国民が納得する結論を出してほしい」と話していました。