外国人観光客受け入れ再開も 1か月で約1500人にとどまる なぜ?

外国人観光客の受け入れが再開されてから1か月余りがたちましたが、実際に入国した外国人観光客はおよそ1500人にとどまっていることが出入国在留管理庁などのまとめでわかりました。
専門家は「入国の手続きがかなり厳しく、きちんと検疫体制をとっていることの表れだ。新型コロナの感染拡大の中で国民が受け入れを納得する環境を作ることが必要だ」と指摘しています。

外国人観光客の受け入れは新型コロナ対策で2年余りにわたって中断されていましたが、政府は6月10日から98の国と地域からのツアー客を対象に受け入れを再開しました。

出入国在留管理庁によりますと7月10日までの1か月間余りの入国者は全体で48万4000人余りで、平均すると一日あたりおよそ1万2000人と、2万人の上限の6割程度となっています。

入国者のおよそ6割は日本人で、外国人はビジネス目的や留学生などが多く、観光ビザを取得して入国した外国人観光客は7月10日までの1か月間で合わせておよそ1500人にとどまっていることがわかりました。

出入国在留管理庁や観光庁などによりますと、観光客が増えない理由として▼現在はすべての国でビザの取得とコロナの陰性証明の提出が必要で、手続きに時間と手間がかかることや▼現状はツアー客に限定されるため個人旅行を好む欧米からの観光客の入国が低調なことなどが考えられるということです。

専門家「ここまで少ないのは予想外」

観光政策に詳しい立教大学観光研究所の玉井和博特任研究員は「ここまで少ないのは予想外で、ビザなどの手続きが他国に比べてかなり厳しく、きちんと検疫体制をとっていることの表れだと思う。コロナで痛んだ日本経済をどう立て直すかを考えると観光は大きな柱にならざるを得ず、今後は観光立国を目指して緩和を進めたい。一方でコロナの感染者が増えていて、無作為に外国人観光客を受け入れることを国民は危惧している。医療体制も早く整備し、受け入れを納得する環境を作ることが必要だ」と指摘しています。

ビザ取得手続きできず入国断念した人も

ビザの取得手続きを進めることができず、日本への入国を断念した人もいます。

アメリカ・ニューヨーク州に住む冨田忠君さん(44)はこの夏、アメリカ国籍の妻と4人の子どもを連れて日本を訪れ、愛知県に住む両親に5年ぶりに会い、その後、岐阜県の下呂温泉などで観光する予定でした。

しかし、妻と子どものビザ取得のために必要な書類について問い合わせをしようとニューヨークの日本の総領事館に何度も電話をかけたもののつながらなかったということです。

さらに航空券を予約し、自分の戸籍謄本を日本から取り寄せて申請の予約を取ろうとしてもその電話もつながらず、日本行きを断念せざるを得なかったということです。

冨田さんは「両親は孫の顔が見られると思ってウキウキしているなか、今年は無理だったととても言いにくかった。温泉に行ったりおすしを食べたりするのも楽しみでしたが、本当に残念です。怒ってもしかたがないので、来年改めて行こうと思います」と話していました。

浅草 外国人観光客ほとんど見られず

新型コロナウイルスの感染拡大前は多くの外国人観光客でにぎわった東京・浅草の商店街では、いまもその姿はほとんど見られません。

浅草の仲見世商店街は、感染拡大前は浅草寺やその周辺で観光したり土産物を買い求めたりする外国人観光客が多く訪れていました。24日も商店街を歩いていたのはほとんどが日本人で数少ない外国人もビジネスや親族への訪問など観光以外の目的で入国した人でした。

ドイツ国籍の50代の男性は「ビジネス目的でちょうどきょう来日しました。ビザはビジネスしか許可されていないので観光の予定はありませんが、昼食を食べに来ました」と話していました。

イスラエルから来たという40代の男性は「ビジネス目的できょう入国し、数時間だけあったので浅草に来ました。ビザの取得がとても大変だったので観光目的の人はもっと緩和された後に来たいと思うのではないか。できれば早く受け入れを緩和してほしい」と話していました。

観光で来たという日本人の10代の女性は「新型コロナの感染拡大が続いているので、もう少しの間は入国制限は続けてほしい」と話していました。

商店街にある創業からおよそ100年のヘアアクセサリーなどを販売する店も感染拡大前は売り上げのおよそ半分が外国人への販売でした。店では、6月の外国人観光客の受け入れ再開に合わせて、外国人に喜ばれる桜の模様など和柄を施したヘアピンなどの品ぞろえを増やしたということです。しかし、再開から1か月以上がたったいまも外国人観光客はほとんど訪れておらず、経営は厳しい状況が続いているということです。

店舗を運営する会社の岩崎孝俊社長は、「コロナの前は、外国人しかいないのではという時間帯もあるくらいでした。非常に購買意欲も高かったので、受け入れ再開はうれしかったですが、外国人のお客さんが増えた実感はなく、待ち遠しいです」と話していました。

ほかの国に行き先を変更する動きも

外国人観光客の中には日本での観光は制約が多いとして旅行を取りやめたり入国の緩和が進んでいるほかの国に行き先を変更したりする動きも出ています。

イギリスの旅行会社、「インサイドジャパン・ツアーズ」では現在、およそ4000人がイギリスやアメリカなどから日本への旅行を予約しているということです。しかし、先月10日の受け入れ再開以降、実際に入国したのはこの会社では25人にとどまっていて、この夏のコロナの感染拡大の前に旅行の見合わせを決めた人も多いといいます。

その理由について会社は日本政府がまとめたガイドラインで、受け入れはツアーに限定され全行程で添乗員の同行が求められていることをあげています。通常、この会社を利用する旅行者の8割が個人旅行を希望するということで旅行者から「ロマンチックなディナーの時まで添乗員が同行するのか」という声が寄せられているほか、中には「監視されているようで歓迎されていないと感じる」という人もいるといいます。

こうしたなか、週に10人程度が日本への旅行を取りやめたり、この会社が扱っているベトナムやタイなど入国の制限がより緩和されている別の国に行き先を変更しているということです。

インサイドジャパン・ツアーズの予約管理の責任者のタイラー・パルマさんは、「秋の旅行シーズンに日本行きを希望している人も多いが、制限が今のままではほとんどが旅行を見合わせるか旅先を変更するだろう。どんな条件なら緩和が進むのか見通しを示してほしい」と話していました。

外国人観光客 なぜ増えない?

98の国と地域を対象に受け入れが再開されたのにもかかわらず、外国人観光客はなぜ増えないのか。

1 ビザ取得に手間と時間

理由のひとつはビザの取得に手間と時間がかかるという点です。

日本では新型コロナの感染拡大前までは、68の国と地域からは短期滞在であればビザを取得せずに入国し、滞在が可能でした。

しかしおととし3月以降、感染拡大に伴って順次、日本国籍の人を除いてすべての国からの入国にビザの取得が必要となりました。

このため日本への訪問を希望する外国人はパスポートやビザの申請書など必要な書類を準備したうえで、現地にある最寄りの日本大使館や総領事館などで申請を行う必要があります。

しかし、問い合わせが多いため、日本大使館や総領事館の電話がつながりにくかったり申請のための予約が埋まっていたりすることもあるということです。

また、ふだんは申請が受理されてから最短で5日ほどで発給されますが申請数が多いためそれ以上に時間がかかるケースも出ているということです。

2 入国前の検査

もうひとつの理由は入国前の検査です。

政府は海外から入国するすべての人に対し現地を出国する前の72時間以内に検査を受け、コロナの陰性だったことを証明する書類の提出を求めています。

証明書を提出できない場合は、日本への入国が認められていません。

3 観光客はツアーのみ

さらに制約になっているのが観光目的での入国は添乗員付きのツアー客に限定されている点です。

観光庁や旅行会社によりますと欧米からの観光客の多くは個人旅行を好むということで、行き先を別の国や地域に変更する人も出ているということです。

観光庁や出入国在留管理庁によりますと観光目的で訪れたのは6月は合わせて252人で、7月は10日まではおよそ1200人です。

海外では入国制限を緩和する動き

海外では欧米などでは入国の制限を緩和する動きが広がっています。

▼アメリカでは先月、ワクチン接種の完了を原則として義務づける措置を継続する一方で、入国の際に義務づけていた出発前の1日以内の陰性証明書の提出を不要にしました。

また▼イギリスでは出発前の検査は必要なく、▼フランスでも、ワクチン接種を完了していれば、出発前の検査は不要としています。

いずれの国でも日本国籍の人が観光目的で入国する際はビザの取得は免除されます。

政府の見解は

観光庁は「インバウンドなどの本格的な回復を図る中で、1日2万人の入国者の上限やビザの免除措置の再開などが課題になってくると旅行業界から強い要望が出ている。要望を受け止めて水際対策の今後のあり方について政府として引き続き検討したい」と話しています。