東京五輪 開幕から1年 競技団体44%「大会前に比べ収入減少」

東京オリンピックの開幕から23日で1年です。

NHKが大会に参加した競技団体に行ったアンケートの結果、大会前に比べて収入が「減少した」という回答が半数近くに上り、その理由として多くがスポンサー企業の撤退や契約の終了を挙げました。

自国開催で多くの支援を受けた大会が終わり岐路に立たされているスポーツ界は、選手の強化継続という課題にも直面しています。

大会前と比べ「収入減少」44%

東京オリンピックの開幕から1年となるのに合わせて、NHKは大会に参加した33競技の合わせて35団体を対象にアンケート調査を行い、34の団体から回答を得ました。

この中で令和4年度の収入の見込みを尋ねたところ、東京オリンピックの前と比べて、
▼「減少した」が44%に上り、
▼「変わらない」が38%、
▼「増加した」は12%でした。

「減少した」と回答した団体のほとんどが、要因としてスポンサー契約の終了や撤退を挙げていて、中には8つあったスポンサー企業が半減したという団体もありました。

スポンサーの契約終了・撤退で…

そもそも契約が東京大会までだったものも多くあった一方で、新型コロナの影響による企業の業績悪化で契約が延長できなかったというケースもありました。

スポンサーの減少によって中には強化戦略の見直しを強いられる競技団体も出てきていて、選手たちが競技に取り組む環境にも影響がおよび始めています。

自国開催でスポンサーや国の支援を背景に過去最多の58個のメダル獲得という成果をあげた東京オリンピックが終わり岐路に立たされているスポーツ界は、選手たちの強化をどう継続していくのかという課題にも直面しています。

レスリング 五輪で成果もスポンサー減

東京オリンピックで金メダル5つを含む7個のメダルを獲得したレスリングは、競技として大きな成果を挙げたにもかかわらず、大会後はスポンサーが減ったと回答しました。

日本レスリング協会によりますとオリンピックの前は29社だったスポンサーが、今年度は24社に減り、このうち3社は、オリンピック後に新たにスポンサー契約を結んだということです。

自国開催の大会ということもあり、東京オリンピックまでのスポンサー契約が多かったことが要因で、日本レスリング協会の高橋正仁事務局長は「スポンサー収入が減ることは予想していたので、東京オリンピックのあとにどうするのか、あらかじめ動き始めていた」と話しています。

スポンサーの減少は今のところトップ選手の強化には大きく影響しない見込みで、協会では2年後のパリ大会に向けて強化方針の変更などは考えていないといいます。
一方で、東京大会ではレスリング会場は無観客となったこともあり、子どもたちが興味を持って新たに競技を始めてもらうといった、すそ野の拡大にはつながらなかったことが課題で、今後、全国を回って競技をPRするイベントなどを計画しているということです。

高橋事務局長は「新型コロナウイルスがなければ『過去最高の成績でよかったね』で終わってしまうところだったが、無観客になり、価値観も変わる中でスポーツがどうあるべきか考えるきっかけにもなった。競技の成績だけを上げればいいという時代ではないので、選手の強化とともにお金の使い方を工夫し、認知拡大や競技の普及といった新たなステージに向かいたい」と話していました。

セーリングペア ヨットは売却 施設は撤去

セーリングで東京オリンピックに出場した、山崎アンナ選手と高野芹奈選手のペアは、大会後にスポンサー1社との契約が終わり、環境が大きく変わりました。

2人が取り組むセーリングの「女子49erFX級」は2人乗りのヨットで海面のブイを決められた回数や順序で回りながらスピードを競う種目です。

東京大会では予選で18位となり、メダルレースに進むことはできませんでしたが、2人で次のパリ大会を目指すことにしています。

東京大会までは、スポンサーから海外への遠征費のサポートや試合や練習で使うヨット、それにトレーニング施設などの提供を受けてきました。

しかし、大会後に契約が切れると提供を受けていたヨットは売却された上、トレーニング施設も撤去されました。

山崎選手は、個人として別のスポンサー1社から支援を受けていますが、その契約も今年度までだということです。

海外での大会に出場するため、2人は中古のヨットを60万円ずつ出し合って購入し、国内では人から借りたヨットで練習しています。

活動費用は年間およそ2000万円が必要ですが、2人は今年度、競技団体から国内合宿の補助しか受けられず、海外遠征の費用を自費でまかない、遠征の数を減らし期間も短くするなど、競技の環境に影響が出ているということです。
山崎選手は「自分たちが行きたい海外遠征に行くのを悩むくらい活動資金が足りない状況で厳しい状況です」と話しています。

2人は新たなスポンサーを探すためメールなどを送って50社ほどの企業と直接交渉してきたほか、経営者の集まりにも参加して支援を求めましたが、今のところ新たなスポンサーは見つかっていません。

山崎選手は「応援したいとは言ってもらえるが、資金面など具体的な支援になると難しいというところが多い。私たちがパリオリンピックを目指す旅に共感し、応援してくれる方がいたら支援していただきたい。心の余裕がなくなった時期もあって大変だが、これも強くなる成長の過程だと思うので、苦しいけど楽しみながらやりたい」と前を向いていました。

自転車競技 強化費重点分配へ

日本自転車競技連盟は東京オリンピックのあとスポンサー10社のうち3社と契約が終了したことなどで大幅に収入が減り、これを受けて強化方針の見直しを決めました。

連盟では選手の強化費についてスポンサー収入と国の補助金、それに競輪を統括するJKAからの補助金を充ててきましたが、今年度は昨年度より4割少ないおよそ2億5000万円になる見込みです。

強化費はトラックとロード、それにBMXのレーシングとフリースタイルパーク、マウンテンバイクにそれぞれ分配しますが、今年度、連盟では、東京オリンピックで唯一メダルを獲得したトラック種目におよそ1億円と、重点的に分配することを決めました。

これによって、強化費が減ったロードでは遠征費の一部を、選手の所属チームがまかなうなどトレーニング環境に影響が出ています。
日本自転車競技連盟の松村正之会長は「本当に苦渋の選択だったが、次のパリオリンピックでメダルを取れないと『自転車競技は何やっているんだ』ということになる。メダルが期待できる種目に特化して強化していかざるをえない」と話していました。

専門家「二分化鮮明 課題は普及」

スポーツ政策が専門の早稲田大学スポーツ科学学術院の間野義之教授は東京オリンピック後の競技団体の経営環境について「成績を出して注目され、人気が出てきた競技は、むしろ新たにスポンサーがついているケースがあると思うが、人気も出ず成績も振るわなかった競技は、東京オリンピックまでの契約が打ち切られて財源が不足してしまう。こうした二分化が鮮明になっていると思う」と分析しています。

そのうえで「普及と強化と財源の3つはつながっている。勝てば人気が出て競技人口が増え、競技人口が増えるとスポンサーがついてお金が増え、さらに強化ができるという構図だ。それをどこから取り組むべきかというと、まずは競技団体のベースとなる普及のところだ。パリオリンピックへ向けての強化はもちろん大事だが、普及をおろそかにしないことが大切だろう」と述べ、強化を継続的に進めるためには長期的な視野で戦略を立てていくべきだと指摘しました。