侮辱罪の法定刑の上限引き上げ きょう施行 背景にネットの中傷

改正刑法の一部が7日施行され、人を侮辱した行為に適用される侮辱罪に、新たに懲役刑と禁錮刑、罰金刑が加わり、SNS上でのひぼう中傷など、悪質な行為への対処がこれまで以上に厳しくなります。

先の国会で成立した改正刑法のうち、SNS上でのひぼう中傷など、公然と人を侮辱した行為に適用される侮辱罪の法定刑の上限を引き上げる規定が、7日施行されました。

具体的には、これまでの法定刑は「30日未満の拘留」か「1万円未満の科料」でしたが、その上限を引き上げて「1年以下の懲役・禁錮」と「30万円以下の罰金」を新たに加えたことで、悪質な行為への対処がこれまで以上に厳しくなります。

また、法定刑の上限の引き上げに伴い、時効も1年から3年に延びるため、犯罪の抑止効果に加えて、加害者の特定に時間がかかるとされるSNS上での投稿の捜査に、必要な時間をかけられるという効果も期待されています。

法務省は先に全国の検察庁に通達を出し、公正な論評など正当な表現行為については、これまでどおり処罰されないことに留意し、個別の事案に応じて適切に判断することなどを求めました。

背景にはネットやSNSでのひぼう中傷による被害の深刻化

侮辱罪が厳罰化された背景には、インターネットやSNSでのひぼう中傷による被害が深刻化している現状があります。
おととし、民放のテレビ番組に出演していたプロレスラーの木村花さんが、SNS上でひぼう中傷を受け、22歳の若さでみずから命を絶ちました。

この問題をきっかけに対策の強化に向けた議論が加速し、去年4月には投稿した人物を速やかに特定できるよう新たな裁判手続きを創設する「改正プロバイダ責任制限法」が成立しました。

一方で、投稿した人に対する刑の重さはこれまで「30日未満の拘留」または「1万円未満の科料」で、刑法では最も軽かったことから「被害の実態に合っておらず抑止力になっていない」という指摘があり、法務省は見直しを検討してきました。
木村花さんの母親で厳罰化の必要性を訴え続けてきた響子さんは先月、改正刑法の成立を受けて「やっと、という思いが強い。ひぼう中傷は犯罪だと多くの人に認識されることで、さらにこまやかな法整備につながると期待している」と話していました。
また、東京 池袋の暴走事故で妻と娘を亡くし、交通事故防止の活動を行う中でひぼう中傷を受けた松永拓也さんは「見ず知らずの人からひぼう中傷を受け、胸が苦しくなるほど心が痛んだ。罰則がしっかり運用され、社会に周知されることが抑止につながると思う」と話しました。

さらに、ネット上に事実と異なる書き込みをされ、中傷や脅迫を受けたことがあるタレントのスマイリーキクチさんは、「ことばが犯罪になりうることを自覚しないといけないと思う」と話していました。

表現の自由がおびやかされないか懸念の声も

ただ、侮辱罪の厳罰化によって憲法が保障する表現の自由がおびやかされるなどと、懸念する声もあります。

日弁連=日本弁護士連合会は、ことし3月、法改正に反対する意見書を出し、侮辱罪は処罰の対象が広いため、政治的意見などの正当な論評も萎縮させ、表現の自由をおびやかすおそれがあるほか、法定刑の引き上げにより逮捕・勾留されて長期間、身体拘束されることになると指摘しました。

こうした指摘も踏まえ、改正法の付則には、施行から3年が経過した時点で「ネット上のひぼう中傷に適切に対処できているか、表現の自由などに対する不当な制約になっていないかという観点から外部の有識者を交えて検証を行い、必要な措置を講じる」ことが盛り込まれました。

法改正を受けて日弁連は「運用状況を監視するとともに、規定の見直しを視野に入れて問題点の解消に努めていく」とする会長談話を発表しています。