ウイグル族収容施設 “内部資料”流出 内容は? 中国は反発

中国の新疆ウイグル自治区で、ウイグル族の人たちなどが「再教育施設」と呼ばれる施設に多数収容されているとされる問題。その詳細を記した内部資料とされるものをウイグル族の人たちの人権問題を調査しているアメリカの研究者が入手しました。
資料は、主に2017年から18年のものとされ、共産党幹部の発言内容や、収容された人々のリスト、施設内部とされる写真などが含まれています。

この資料について、中国政府は「反中勢力による新疆ウイグル自治区を中傷する最新の事例だ。うそやうわさを広めても世間は欺けず、新疆が平穏で経済発展し、人々も幸せに暮らしている事実を隠すこともできない」としています。

内部資料から見える施設の実態は。
資料に記されているウイグル族の人たちの状況について、関係者などの証言を集めました。

どんな資料?

資料を入手したのはウイグル問題の専門家で、アメリカ在住のドイツ人研究者、エイドリアン・ゼンツ博士です。

ゼンツ博士は、匿名の情報提供者が当局のデータベースをハッキングして流出したものだとして、資料を「新疆公安ファイル」と名付けています。

資料は主に2017年から18年のものとされ、
▼「再教育施設」の内部とみられる多数の写真、
▼施設に収容された2万人余りの名簿とみられるもの、
▼少数民族のおよそ30万人分の個人情報とされるもの、
▼警備マニュアル、
▼共産党幹部の発言内容などが含まれています。
このうち、
「施設に収容された2万人余りの名簿とみられるもの」は、自治区南部のコナシェヘル県のものとみられています。
NHKは、名簿に記載された人の家族と思われる人物をトルコで見つけ、話を聞くことができました。
ウイグル族のメフメット・トフティさんは、30年前にトルコに移住しましたが、2017年以降、故郷のコナシェヘル県に住む子どもや孫たちとは連絡が取れなくなっているといいます。

名簿には、メフメットさんの2人の息子と1人の孫のIDが含まれていることがわかりました。
子どもたちの拘束理由については、過去にイスラム教の礼拝の仕方などを教わったことだと記されています。

メフメットさんは「(長男は)むしろ村の幹部で、政府の政策を実行する側の人間だった。少なくとも息子たちが収容所で生きていると知って泣き出しました。つらかった」と話しています。

「至る所に武装兵士」

ファイルの中には、施設の状況を撮影したとみられる写真もありました。

その内容と内部を知る人の証言を照らし合わせてみると、一致するものが少なくありません。

2017年に施設で中国語の教師として働き、今はオランダに亡命しているケルビヌル・シディクさんは、当時、NHKの取材に対してこのように証言していました。

「玄関、中庭、廊下など至る所に武装した兵士らが立っているのです。すぐにでも戦場に向かうかのような姿でした」

この説明と同じように、軍服を着て整列する男たちや自動小銃で武装した男の写真がありました。

「番号で呼ばれ、常に手足にかせ」

また、ケルビヌルさんは、「男女は別々の施設に収容され、ベストの着用を義務づけられました。ベストにはインクで番号が書いてあって、名前で呼ばれることなく、その番号で呼ばれます」と話していました。

資料には、この状況が見て取れる写真もあります。写真では男性は黒いベスト、女性は黄色いベストを着ていて、やはり番号が書かれていました。
同じ時期、出張中に拘束された、新疆生まれでカザフスタン国籍を持つオムル・ベカリさんは、身体的な拘束の実態について、次のように証言していました。

「手と手をつなぐ部分も40センチほどで、手首の隙間には指一本がギリギリ入るぐらいのもので、足首も同じです。昼も夜もつけっぱなしです」

「移動のたびに必ず頭に黒い袋」

「合わせて7~8回移動させられましたが、そのたびに必ず頭に黒い袋をかぶせました。どこに連れて行かれているのかわからないのです」

写真にはこうした話を裏付けるような状況が映っています。

共産党幹部が発言か「果断に発砲せよ」

資料には、当時の新疆ウイグル自治区のトップ、陳全国書記の発言を記録したとみられるものも含まれています。

陳書記は収容をめぐる政策で重要な役割を果たしたとして、アメリカ政府の制裁対象になっていて、次のような発言が記録されています。

「誰も厳重な施設を出ることはできない。逃げようとする者には、果断に発砲せよ」
さらに、政策への中央政府の関与を示唆するような発言も。

「(習近平)総書記が私を新疆に送り込んだ理由は、新疆を平定して共産党中央指導部に差し出させるためだ」

ゼンツ博士「中国政府が見せたくないもの」

資料を公開したゼンツ博士は「中国のプロパガンダは再教育施設を学校のようなものだと信じさせようとしてきた。しかし『新疆公安ファイル』によって初めて再教育施設の実態が刑務所と同様だということがわかった。これらは中国政府が私たちに見せたくないものだ」と指摘しています。

その上で「これらの演説は非常に率直でショッキングです。陳氏は自分の恐れや不安といった感情を交えて話すだけでなく、いかにテロの脅威が深刻かを表現しています」と話し、当時の幹部、陳書記の演説には中国共産党の危機感がにじみ出ているといいます。

米国務省報道官「衝撃を受けた」

今回のファイルについて、アメリカ国務省の報道官は「衝撃を受けた。今回の報告は、すでにある新疆ウイグル自治区での中国の残虐行為の証拠をさらに上積みする」と発言していて、中国の人権状況に対する国際社会の懸念がさらに高まりそうです。

さらに、ドイツのベアボック外相が24日に行われた中国の王毅外相とのオンライン会談の中で透明性のある調査を求めています。

中国「反中勢力による中傷」

中国外務省は、ゼンツ博士の主張と今回公開された資料について「指摘した話は反中勢力による新疆ウイグル自治区を中傷する最新の事例だが、今までのやり方と同じだ。うそやうわさを広めても世間は欺けず、新疆が平穏で経済発展し、人々も幸せに暮らしている事実を隠すこともできない」とコメントしています。